第百七十九話
終始笑い合いながらフランとの、試練と言う名の弾幕ごっこを終えて──足の裏に柔らかいカーペットの感触を確かめていると、ゆったりとした足取りでレミリアが近寄ってきた
「お疲れ様、そしておめでとう。終始和気あいあいとした観ていて楽しさが溢れる試練だったわね」
足を止める事なくそう話しながら、おもむろに右手に真紅の槍を象った弾幕を出現させる。背中の翼は大きく広げられ、話す内容とは裏腹にその表情は暗い
「えぇ全く──反吐が出そうになるような試練だったわ、ねッ!」
音すら遅れる程の速度で振り抜かれた右手。投げられたソレは俺の髪を掠め、背後の壁に激突して轟音と大量の砂埃をあげた。床や天井が然程揺れなかったのは、きっとパチュリーの魔法のおかげなのだろう
突如豹変した姉を見て、直ぐにフランが俺の前に出る。彼女が手にしているのは、北欧神話にも名前が出てくるレーヴァテインだ。ゆっくりとレミリアに向けながら口を開く
「……何が気に入らないの、お姉様? 悠哉がやっと楽しそうに笑って弾幕ごっこが出来てたんだよ、ソレの何がいけない事なの?」
「えぇそうねフラン、ソレ自体は何も悪くないわ。寧ろ良い事だと言えるわ……でもね、この一連の試練は彼の実力を測るためのモノ。なのに貴女ときたら、わいわい騒いで笑顔浮かべて……バカみたいじゃない」
心底失望した、とでも言わんばかりに首を振りながらため息を吐くレミリアに対し、青筋を浮かべるフラン。レーヴァテインを握りしめる手にも、先程よりも強い力が掛かっているのが見てとれる
「退きなさいフラン、そして構えなさい悠哉。私は他の誰よりも厳しく、そして全力で行くわ。命を賭して立ち向かうその覚悟が、果たして貴方にあるかしら?」
俺の返答は──フランの前に立って構える、それだけだ。彼女から発せられる濃密な殺気と妖気が圧力となって、のしかかってくる
いつの間にか現れた、大きな紅い月を背負い、
「さぁ、始めましょう。こんなに月も紅いから本気で殺すわよ。楽しさなんて感じさせない、貴方の全力を魅せて頂戴!」
永遠に紅い幼き月が今、その牙を剥く……




