第百七十四話
──体感的ではあるが、迷宮に入って三日が過ぎ去った。その間俺は壁に埋まった鉱石を掘り出したり床に仕掛けられた落とし穴を幅跳びの要領で飛び越したり、かと思えばまたガイコツと一騎打ちをしたりスライムから逃げ回ったりとRPGさながらに動いていた
寝る前に気づいた事なのだが、俺の頭上には迷宮攻略率とやらが設定されていて特定の条件を満たすとパーセンテージが増えていくらしく、例えば初日にガイコツと戦った際に5%程増えていたのだ
じゃあ倒しまくれば良いんじゃないのか──そう考えたのだが現実は甘くなく、一度きりしか上がらずオマケにどんどん強さが上がっていくのだ。同時に装備も質が上がっていくのか、最後に戦ったガイコツは全身甲冑に身を包み身の丈を越える剣を二本も装備して走って追いかけてきたのだ
ちなみにスライムも初めは踏むだけで倒せていたのだが、数と大きさがまるでネズミ講の如く膨れ上がりさながら津波のように押し寄せてくるまでになってしまっていた。あの時は、あぁ死んだかも……と内心覚悟を決めたものだ
送られてくる咲夜の作った料理をかき込み、攻略率を眺める。80%までなんとかこぎつけたが、それも殆どをトラップ解除やワープする魔法陣やらをわざと踏み抜き先に待ち構える敵を打ち倒してようやくなのだ。転送の間際にパチュリーが呟いた、死ぬかもしれないという事実が今更になって重くのしかかる
ため息と共にテンションまで下がり始めた頃、料理とは別に手紙が一通送られてきた。差出人は──小悪魔だ。封を切って中を検めると、俺の現状について書かれている。なんでも……俺がしてきた事は無駄ではなく、寧ろ片っ端から討伐やら解除やらをしたせいでそろそろ迷宮内の仕掛けが底を尽くかもしれないということ。そして──
「──80%を越えた時点で、宝に直通する仕掛けが作動したのでお知らせしますか。明らかに罠だよなこれ……」
あのパチュリーが作ったのだ、多少手抜きは有るだろうがそう易々といくのかどうか……戦闘かもしれないしまた謎解きかもしれない、はたまた別のナニカかもしれない
「まぁ行くしかないんだがなぁ……ん、準備良しと」
同封されていた地図を頼りに進むと、不思議と敵に遭遇せずに扉の前に来れた。首を傾げて考えてみるがよくよく思えば上から見ているのだ、俺の位置や敵の位置くらいわけなく把握出来るだろう
納得した所で扉を開けると、薄暗い空間が広がっている。中に入り進んでいくと、背後で扉の閉まる気配が。分かってはいたが閉じ込められた──警戒する俺の目の前に、居る筈のない人物が現れた
「あらまぁ、よくも無駄な事を必死になってやっているのねぇ。さっさと諦めればラクになれると言うのに……愚かですわ」
「全くです、本当に人間とは理解し難い生き物です。やはりあの時に全力で排除すべきでした」
──言葉が見つからない。頭も上手く纏まらない。そんな中、俺の身体は突然襲ってきた衝撃のせいで壁に叩きつけられていた
「どうして……どうして二人が此処に居るんだ……!?」
本来なら此処に居る筈の無い、八雲紫と八雲藍。その二人が立ち塞がっているのだ
叫ぶ俺を、まるで汚いゴミでも見るように目を細めて眺める二人。口元には心底愉快で堪らないとばかりに笑みを浮かべ、ただただ眺めているばかりだ
「どうして? その程度の事も分からないのかしらね。簡単よ、貴方を此処で完膚なきまでに叩き潰して綺麗さっぱり忘れるため。どう? 簡単でしょう?」
「そういう事だ。そのためにわざわざ魔女に頼み込んで来たんだ、さっさと終わらせてケリをつけるためにな。そういうわけだから──」
──死ね、数藤悠哉。髪の毛一本爪の一欠片すら残さずに、美しく残酷にこの大地から往ね──
二人から放たれた容赦の無い弾幕を、俺はただ、受ける事しか出来なかった……
──迷宮攻略率……Unknown──




