第百七十一話
──コンコン。静かな空間に控え目な、しかし大きく響くノックの音。やや間が有って、目当ての人物が顔を出す
「あら、貴方が例の……どうぞ入って頂戴」
「ありがとう、では失礼する」
とうとう彼女の元へやってきた。覚悟を改めて決め、扉をくぐる。荒療治になるだろうが、それでも足りるかどうか……
室内に足を踏み入れながら、此処へ来た経緯を俺は思い返していた──
「紅魔館を出る、ですって? 貴方……何か不満でも有るのかしら。もしそうなら遠慮せず言って、こちらでも出来る限り改善するわ」
始まりはあの夜萃香に送ってもらい紅魔館へと帰ってきた後まで遡る。萃香が呟いていた幻想郷を見て回るという事を考えていた俺は、悩むより行動あるべしとレミリア達紅魔館の住人を集めて話を切り出したのだ
「レミリア……俺は不満なんか無いさ、それどころか感謝している。一介の人間だった俺をここまで面倒見てくれたんだからな。……美鈴との模擬戦やパチュリーの理論、フランと鬼ごっこで俺も幾分は強くなれたと思う」
一度息を整え、皆が聞いてくれているのを確認した後再度口を開く
「だが、いつまでも此処で厄介になり続けるわけにはいかない。破格の待遇を受けている事で心の何処かに甘えが出来てしまいつつ有る、そう感じたんだ。目的を果たすまで俺は止まれない、だがら完全に甘えきってしまう前に──」
「……此処を出て行く、と言いたいのね?」
彼女の問いに頷く。目を閉じしばらく考える素振りを見せていたが、やがてゆっくりと静かに目を開けた
「いいわ、貴方の覚悟はよく理解したわ。でもおいそれと出すわけにはいかない、貴方は紅魔館を知り過ぎた……だからこちらで出す条件をクリアしてもらうわよ」
「……了解した、それでその条件って?」
その問いに、レミリアは実に吸血鬼らしい凄惨な笑みを浮かべてこう言った──
──私を含めた紅魔館の住人全員を相手にし、尚且つ目的を果たすまで帰ってこないこと。これが私からの条件よ──
ゴクリと生唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえた。不思議と表情が笑みに変わっていくのが分かる。応えるように、皆も笑う
さぁ──始めようか!




