第百七十話
月明かりの下、踏み固められた舗装もされていない道をひたすらに歩く。傍に鬼を連れてのんびりと、他愛のない会話を繰り広げながら──
「ところで悠哉、実力の方はどうだい。幾分、マシに付いてきたかい? あれから時間も流れたしさぞや強くなったんだろうね?」
「あぁそうだ──と言いたいところだが、イマイチ自信がな。前よりは強くなれた、けれどまだ俺が目指す強さには程遠い気がしてな……はっきりと言い切れないんだ」
「あはははは、そりゃそうだ! なにせ、敵に回したのはあの八雲だ。そう簡単に実力差をひっくり返されちゃあ、妖怪としての名が泣くからね。しかも賢者とくれば、そんじょそこらのヤツらとは話が違う。とびきりのヤツに喧嘩を売ったんだ、覚悟は──出来ているんだろう?」
「あぁ、もちろんだ。失ったモノは大き過ぎて未だに追いつけないが、いつかは必ず追いついてみせるさ。信頼を取り戻す、とは正にそういう事なのだろうからな」
「うんうん、慢心せず前に進もうとするその心意気や良し! 何か有ったら、私が手を貸してやるよ。なんなら、勇儀のヤツも引っ張ってきてやるさ。霊夢もあぁ見えて、悠哉を気にかけている。頼れる相手はお前さんが思っている以上に、この幻想郷には居るのさ」
「…………ありがたい話だな」
言葉が無くなり、お互い静かに道を歩く。時折吹く夜風が頬を撫で、少しだけ火照った身体をひやしてくれる。俺の道は、まだ半分も来ていないのだ。こんなところで、こんな簡単には諦められないのだ
己が進むべき道を、その行程の長さを再確認し一層気合を入れる。顔つきが変わった俺を見て、萃香も一層笑みを深める。こういう時、鬼とは本当に頼りになるものだ
「そうだ! 幻想郷を改めて見て回ったらどうだい? 気づかなかった事や見えなかったモノが、今なら見えるかもよ? ひょっとしたら、打開策なんかもね」
「改めて、か……そうだな。戻ってからパチュリーと相談して、許可が出てから考えてみるよ。しかし、行く場所か……さて何処へ向かおうか」
「まぁ決まらなかったら先ずは博麗神社へおいでよ。一先ずは神社に来て、それから行き先を考えても良いんじゃないかな?」
「……ふむ、霊夢にはなんと言うつもりだ? いきなり押しかけて、は嫌だぞ?」
「そこはほら、私に任せてよ! 大丈夫、大船に乗った気でいてよ」
酒を呷って笑う彼女を見ながら、若干不安に駆られるが──それでも今はそんな気遣いが嬉しい。その後は何もなく霧の湖を越え、薄暗い中に紅魔館が薄っすらと浮かび上がっているのが見えてくる
「それじゃあね悠哉、くれぐれも──諦めない事さ」
「あぁ、ありがとう萃香。……またな」
──こうして、俺は無事紅魔館に帰還することが出来た




