第百六十九話
「まぁ取り敢えず、頼まれていたモノは渡したが……そんなに大切なのかその酒?」
萃香と二人、暗い夜道を月明かりを頼りに歩く道中──ふと気になった俺は、萃香に酒について尋ねてみた
萃香は此処とは違う、何処か遠くを見つめて息を一つ吐き──やがて小さく笑って俺を見た
「あぁ、この酒ね。実はこれさ、以前私がこっそりアイツらに会いに行った時に約束したモノなのさ。当時は私の口に合う代物が切れててね、イマイチ酔い切れなかったんだよね。でその事を勇儀に言ったら、次に会う時までに揃えておくって言ってたんだけれど……まさか、今回の一件に割り込んで送り付けてくるとは思わなかったよ」
「なるほどね……そういった経緯が有ったのか。ようやく納得がいったよ、けどよく八雲や他の妖怪連中に見つからなかったな? いくら萃香が霧散出来るとはいえさ、本来なら止められるんじゃないのか?」
「私だってバカじゃあない。もちろんバレないように注意を払って行動したさ、けど……全くバレてないかと言われれば自信無いかな。だって、相手は紫達だからね。案外今も、何処かで見てるかもよ?」
シャレにならない事を笑みを浮かべて言う鬼に、呆れと苦笑混じりの顔で答えると一層笑みを深めて手にしたお酒を一呷り
「……ん、美味いねコイツぁ。流石勇儀だ私の好みの味をよく覚えてる、楽しみに待った甲斐があったってものよ。いや〜重ね重ねだけれど、ありがとうね悠哉」
「ついでだから礼を言われてもなぁ……でも受け取っておくよ。欲を言えば、此処から先一人は心許ないから紅魔館まで着いてきてくれるとありがたいんだがな」
「ん、なんだその程度で良いのかい? なら、さっさと行こうよ? あまり遅くなり過ぎると──面倒なだしね」
意味ありげな視線を辺りに巡らせる萃香。直後、手近な草むらが不自然に揺れ動いた。どうやら既に俺は餌として狙われていたらしい……刀をいつでも抜けるよう構える俺を見て、ソレを手で制し──
「……ハッ!」
なんという事だろうか。彼女の一声で、集まっていた妖怪は全て散り散りになって逃げていった。得意げに笑う彼女を見ながら見た目や行動はアレだが、やはり妖怪しかも鬼なのだなと改めて思い知らされる
──ともかく、俺は萃香と共に紅魔館を目指し昼間に通ったであろう道を辿り始めた……




