第百六十五話
橋姫の守る橋を渡り釣瓶落としと土蜘蛛を従えて、ようやく俺は鬼の酒が買えるであろう旧都へとやってきた。なんでも此処は元々は地獄の一つだったらしく、財政圧迫による地獄の縮小の煽りを受けて切り離された所を地上から追われた妖怪達──主に鬼だが──によって今や立派な都へと姿を変えていた……
その入り口付近で一度彼女達とは別れ、俺は一人お使いを果たすために旧都へ足を踏み入れた。一番最初に鼻をつく、強烈な酒の香り。続けて美味しそうな香りもしてきて、思わず腹を抑えてしまう
「一応路銀は貰ってるが……あまり無駄には出来ないしなぁ。安めのモノが有ればソレ食って、早いとこ退散するとしよう」
民家を抜けて歩きつつ左右へ視線を巡らせる。サイコロを使った博打のような事をしているヤツが居れば、違う場所では札を使って遊んでいるヤツも居る。色んなヤツが居るが一貫して言える事、それは全てが人間ではないという事だ。鬼が大半を占めているが、それ以外の妖怪もちらほら見える
地上から来たしかも人間である俺は確実に浮いていて、今もすれ違う連中が振り返って見てくる始末。間違いなく面倒事が身近になりつつある、そんなイヤな実感を得ながらやっとこさ酒場に辿り着いた
暖簾を潜り店内を見渡すと鬼が顔を赤らめて大声で笑いながら、しきりにお猪口を呷っている。──さて、どうしたものか……悩む俺をようやく発見したのか店員らしき妖怪が近寄ってきた
「おう、らっしゃい! 珍しいねぇ、人間のアンちゃんがこんな所に来るなんてなぁ! まぁむさ苦しい所だが、ゆっくりしていってくれ! 注文が有るのなら大声で呼んどくれ、そしたら若えのが取りに行くからな。んじゃあアンちゃんの席は……あそこの角だな!」
指された場所に向かって進み、ようやく腰を落ち着ける。此処まで来るのにホントに長かったなぁ……




