第百六十四話
「──さ、此処が旧都と地上への縦穴を繋ぐ橋だよ。なかなかに立派な作りだろう? 痛みもないし歩きやすいし、景色……はまぁそこそこかな」
キスメを持ちヤマメの元に辿り着くと、ヤマメが簡単な説明をしてくれる。地底の橋と聞いたのでてっきりもっとボロいか装飾や色合いが剥げていたりするのかも……なんて考えていたのだが、意外としっかり残っていて綺麗だ
視線を橋に向け眺めていると、橋のだいたい真ん中辺りに人影が見える。どうやら佇んでいて此方を見ている──ようにも見えるが、ちょっとよくはわからない
「なぁヤマメ、あそこに居る人影って件の彼女とやらか? 気のせいか先程から見られている気がするんだよ」
「お、居た居た。その通りさ、それじゃあ行こうかねぇ。どの道此処を通らなきゃ旧都へは行けないしねぇ」
橋を渡りはじめ近づくとようやくその風貌がはっきり分かった。縞模様の服を羽織り、外の世界のゲームに出てきそうな尖った耳、そしてなにより印象深いのはその瞳だ。緑色に染まったソレは、見ているだけで気分が落ち着かなくなる……
「見慣れぬ人間の男の子が一人、釣瓶落としと土蜘蛛を連れてやって来るだなんて……妬ましいわね。なに? 独りぼっちな私への当てつけかしら? 全く、私には友人が簡単に作れます〜とでも言いたいのかしらね妬ましい」
開口一番、まさか妬ましいと言われるなんて思わなかった。ポカーンとする俺を見て、彼女はさらに続ける
「なにその惚け顏、初対面の相手にそんな顔出来るだなんて余程余裕なのかしら妬ましい。何処まで私をバカにすれば気が済むのよ、あぁ全く妬ましいったらありゃしないわ」
「あはは、相変わらずだねパルスィ。取り敢えず話を進めるけど、彼はこの先の旧都に用が有るんだってさ。だから早く通してあげなよ」
「私の話を遮るなんてどんな嫌味かしら、まるで私の話なんか聞きたくないって感じね妬ましいわ。通りたければ勝手に通ればいいわ」
じーっと俺を見てひたすら妬ましいを連呼しているパルスィとやら。引き気味になりつつも自己紹介をすると、妬ましい妬ましいと言いながらもしっかり返してくれた。彼女の名前は水橋パルスィだそうだ
「……取り敢えず、死なずに戻ってきなさい。私より先に死ぬなんてそんな妬ましい事、しないで頂戴。絶対に戻ってきなさい」
──ひょっとすると、彼女はツンデレかなにかなのか? 首を捻って考えながらヤマメとキスメの二人とは此処で別れ、俺は一人旧都への一本道を歩いていった
鬼の持つ酒まであと少し……




