第百五十四話
大自然溢れる山中だがきちんと山道は通っており、歩くのには問題なかった。飛んでもいいのだが、此処は一つ景色を楽しみたくて文に許可を得て歩いている
「飛べばラクなのに景色を見るためだけに歩きたいだなんて……変わりませんねぇ貴方は」
「そうか? 外じゃなかなかこんな風景見られないから、観光気分ってのもあるかな。それに、お前さんと一緒ってのもなかなか楽しいし」
「あやややや、どういう風の吹き回しですか? 風を操るのは私の専売特許、勝手に取らないで頂けます?」
「あははっ、悪いな。まぁそれはさておき……何者だ、出てこい」
一拍置いて──突如突き出される剣の一撃を居合いで弾いて様子を見る。と、文が嫌な顔をしながらもみじーと誰かを呼んだ
出てきたのは、白い犬耳と尻尾を付け紅葉の描かれた盾と抜き身の剣を持った少女。おそらく彼女も天狗なのだろうがそれにしても……
「お見事。流石文様をお助けになったお方です。一寸前のご無礼を、どうかお許し願いたい」
「……天狗とは随分と手が早いのか? 文と言いキミと言い、ちょっと危ないぜ? 受け止められたからいいけどさ」
「寛大なお心に感謝致します。私は、白狼天狗の犬走椛と申します。以後、お見知り置きを……」
ピンと張った背筋をほぼ直角に曲げた挨拶に此方も自然と居住まいを正して返す。その間ずっと、文は何故か不機嫌そうだった。そして椛自身もあまり文に話しかけようとせず、寧ろ視界に入れないようにしている風にも取れる
仲が良いとは言えないのか……? なんて思いつつ、椛にこれからの事を尋ねると彼女の上の役職に当たる大天狗なる人物──妖物か?──から三人で行動するようにと言われたとのこと。山に詳しい天狗が二人も着いて来てくれるのは非常にありがたい、のだが……
「あやぁ椛が出る幕は有りませんよ、さっさと哨戒に戻ったらどうですか? この程度なんてこと有りませんし、個人的に礼もしたいんですよねぇ」
「そういう文様こそ、ネタ探しに行かれては? 私は大天狗様の指令が有りますので、此処からは私が責任を持って彼と行動を共にします」
とまぁこんな感じで終始引きつった笑みを浮かべて話し合う二人。このままだと弾幕ごっこに発展しそうなので多少強引だが先を行くことを提案して二人に呑ませる
合わさる視線からバチバチと音が聞こえてきそうな程睨み合うこの二人と、果たして何事も無く恵みにありつけるのか……来て早々頭が痛くなる俺だった




