第百五十話
紫達から逃れ走りに走り、遂に目的の洞窟へと辿り着いた。萃香の予測が外れていなければ真犯人は二人を連れて、此処を通って地底へと向かっている筈だ
完全に降りられてしまっては手の出しようが無いが、道中ならまだ間に合う。刀を失った今、己の身だけを武器に突き進むことしばし──微かにだが、何者かの気配を感じ取れた
「……萃香、ヤツらか?」
「かもね……ただ此処らを根城にしてるのも居るから、一概には言えない。確かめなきゃね……」
さらに進み地面が徐々に下へと傾き始めた頃……久しぶりに彼女達の声を聞いた
「──まさか、我々を地底に本当に連れてくるとは……ですが決して逃げられませんよ。我等天狗、そして賢者からはね。今ならまだ命は取られません、引き返してみては?」
「そうだぜ。私達からも言ってやるから、早く引き返すんだぜ。じゃなきゃ、取り返しのつかない事になるんだぜ……」
「あっはっはっはっは。面白い事を吐かすな、戻った所で殺されるのは明白。誰がとって返すと? 命乞いならもっと上手くやるのだな……もっとも、誰も助けには来ないだろうが。八雲も対した事なかった様だし、俺はこのまま──」
言葉を続けようとする妖怪の足元に弾をぶつけ、強制的に歩みを止めさせる。まるで錆び付いた機械のようにゆっくりと真っ青になった顔を此方に向けるソイツを、助走を目一杯つけた右ストレートで壁に叩きつけてやる
「ようやく追いついた……相棒が有ればズタズタにしてやれたが、お前は運が良い。だが、もう逃がさんぞ」
「本当に地底に行くつもりだったのかね……こりゃ盲点だったよ。私も紫も、てっきり地上に隠れ潜んでいるとばかり思ってたからね。だけど、それもここまで。さぁ……覚悟はいいかい?」
取り敢えず分裂した萃香に妖怪を任せ、急いで文と魔理沙の容体を確認する。強気な発言をしていたものの、両名ともやや衰弱していた。特に魔理沙は立っているのもやっとといった具合である
相手の荷物から水と食料を取り出し二人に分け与え、拘束されたソイツの元へ
「……畜生、あともう少しだったってのに。ついてねぇよ」
「…………言いたい事は、それだけか? 正直紫達に引き渡すまでもなく、今この場で手を下してやりたい気分だ。くだらないこと言ってないで、少しはこれからの事を心配してろ。──殺すぞクソ妖怪が」
「お、久々だね悠哉の殺気の篭った一言。まぁかく言う私もね? 我慢出来そうにないんだよ……捻り潰されたくなかったら、私達の気分を損ねないようにね」
俺はともかく鬼の殺気を食らったからか、泡吹いて気絶してしまった。文と魔理沙を今度は萃香に任せて運んでもらい、彼女達の前を行く形で足を掴んで引き摺りながら洞窟の外へ出る
──すぐ前にスキマが一つ二つ。そのさらに後ろからは、天狗の別働隊だろうか? 集団を確認し、げんなりしつつ萃香を待って待機
程なくして、天狗の足止めをしてくれた霊夢と紫達を相手に時間稼ぎを行った小町と咲夜も現れ一先ずは合流出来た。だがこれでは終わらない、天狗達は殺気立ち藍の視線は氷よりも冷ややかで紫の顔からは胡散臭さは消え失せていた
紫がスキマから飲み込まれていった俺の相棒を取り出し、切っ先を俺へと向ける。今の彼女の表情からは何も読み取れないが、少なくとも成敗されることはなさそうだ……ここまで来てバッサリはごめんだ
限界まで張り詰めた緊張感の中、八雲紫が静かに口を開いた……




