第百四十九話
八雲紫。妖怪の賢者。彼女が此処に居る、つまりは藍も居る。この二人を相手にどう通り抜けるか……
「其処をどきな紫。真犯人をみすみす逃すつもりかい? 賢者が聞いて呆れるよ、無実の者の足を止めて罪人を行かせるだなんてね」
「萃香? 真犯人なら貴女の隣で立っているではありませんか。捕らえる絶好の──」
直後。萃香が地面を殴りつけ、土塊や石が紫に向かって行くもスキマで全て飲み込んでしまう。相変わらずクスクスと笑う紫に、隠すこと無く舌打ちをする萃香
「──あらあら、危ないですわね。閻魔も部下の教育が、なっていないですわ」
小町の鎌も、すんでの所で藍に止められる。拮抗しているようで、お互い進むことも退くこともない。ならばと咲夜がナイフを配置し放つが、それすらも結界に阻まれる
八方塞がり。それが、今の俺達の現状だった
「さて、そろそろ幻想から目を逸らして現実を見てくださるかしら? こう見えても私、色々と忙しいのですから」
「幻想の郷に居るのに目を逸らせとはなかなか面白いことを言うな? 悪いが──止まるつもりは一切ない。いつぞやも言ったろう? 俺は進み続けるとなぁ!」
一息に抜刀から突きへと持ち込む。だが、結界に少し傷を付けて止められる。少しばかり紫の眉が上がった程度だ
「覚悟は有っても実力が無ければ無意味ですわよ数藤さん。……いつまで遊んでいるのかしら、藍?」
拮抗していたと思っていたが、手を抜いていたのか。小町の鳩尾辺りに蹴りを入れて吹き飛ばすと、何事も無かった様に紫の隣に立つ藍。その顔からは、なんの感情も窺えない
「ぐっ!? げほげほ……効くねぇ、流石は賢者の式神さね。最も、今は盲目のようだけれど」
「なんとでも言え。私は紫様の命で動く道具だ、主の意志が私の意志なのだからな」
冷たく俺を見つめる藍を見て、ため息を吐く。そして、おもむろに刀を構えてもう一度結界目掛けて突きを放つ。甲高い音を奏でまた止められるも、二発三発と続けて放ちさらに蹴りと弾幕も乗せていく
「二人共。今は笑え、バカにしていろ。だが……俺は一人じゃない。忘れたか? こっちには──」
渾身の力を込めて突きを放ち、ようやく結界に刀を突き刺す。予想外だったらしく藍も紫も驚くがまだ早い。スッと身を引いた俺の後ろから萃香が突き刺さった刀の柄に拳をぶつけ、その勢いと力を乗せた相棒が結界を突き破る!
「……っ!」
いくら紫とて刀が刺さればタダでは済まない。スキマが相棒を飲み込んでいくのを視界の端に収めながら、既に俺は駆け出していた。すぐさま追撃しようとする二人を、小町と咲夜が足止めにかかる
「ええい、邪魔をするなぁ! 其処をさっさと退けぇ!」
「悪いけれど、四季様に言われててねぇ! 彼の手助けをしろって命を受けた以上式神であるアンタと同じさね! 全力で行かせてもらうよ!」
「メイド? 退かぬなら……貴女の大切な主や屋敷がどうなるか、分かっているのかしら?」
「無論ですわ。ですが、我が主レミリアお嬢様は彼に手を貸せと申されました。それこそ時間を止めてでも時間稼ぎが出来るから、お相手させて頂きますわ」
小町と咲夜、二人を背に萃香と洞窟へ向かう。此処まで、レミリア達や四季さんを始め幽々子や妖夢それに霊夢にも助けられた。そして今は小町と咲夜、萃香に助けられている
「待ってろよ、文に魔理沙……絶対に助けてやるからな!」




