第百四十八話
「どうにか他の道は無いのか!?」
「他は時間が掛かり過ぎるよ! 最短なのはこのまま真っ直ぐなんだよ!」
「とはいえ、巫女とやり合うのは間違い無く時間の無駄だねぇ! 参った参ったあっはっは!」
「笑ってる場合か! 咲夜の能力は……最後までとっておきたいからパス! 肝心の時に使えないのは痛いからな!」
咲夜も分かってくれたらしく頷くのを見て、いっそのこと抱えた萃香をぶん投げてやろうかとも考えたが満面の笑みを浮かべた萃香を見て改める
──そんなことしたら、私がアンタをぶん投げる。そう言ってるように思えたからだ。流石に鬼に投げられて無事でいられる自信はない
「あら? 悠哉様、霊夢の様子が変ですわ」
咲夜の一言に改めて眼前に迫る霊夢を見る。口元に薄ら笑いを浮かべ──クイッと親指を後ろへ向けたのだ。直後、陰陽玉から大量の弾幕が俺達──正確には俺達の背後に迫る天狗に向かって殺到。どういうことだ……?
「そっか霊夢……私達に味方してくれるんだね。これも、悠哉の日頃の行いのおかげかもね」
そのまま霊夢の横を通り過ぎる。ほんの一瞬だったが、彼女の表情はこう言っていた
──此処は任せて。必ず二人を助け出して頂戴──
自信満々の不敵な笑みを浮かべた博麗歴代最強の巫女が、天狗の集団を相手に堂々と立ち回っている。徐々に離れる距離、ステップを踏み後ろを振り返りあらん限りの声でその背に伝えた
「──ありがとう! 必ず二人は助け出す! 待っててくれ!」
返答は無い、だが確実に届いた筈だ。だって、彼女は振り返らずただ手を挙げたのだから……
一気に加速し洞窟へと急ぐ。もし此処までやって地底にでも入られたら手出しは出来なくなる。無駄になってしまう、それだけは絶対に避けなければならないんだ
「あと少しだよ悠哉! ほら急いで!」
「お前さんを抱えてる分いくらか落ちるんだよ!」
「なにをー! 私が重いって言うのかー!」
萃香に軽くポカポカ叩かれながら、見えてきた洞窟へ──何故か地面を転がっていた
「──がぁっ!?」
「お痛は此処までですわ数藤さん。全く手こずらせてくれますわねぇ……」
かなりのスピードでぶつけたせいだろう、酷く痛む全身を無理矢理立たせ相対する。今は会いたくなかったが、これも運命か……
「お久しぶりですわね数藤さん。お元気そうでなにより」
「つい先程までは、が付くがな。俺達は急いでいるんだ、其処を通してもらおうか?」
「それはいけませんわ。そう言って手出し出来ぬ地底へと逃れるおつもりでしょうが……萃香、貴女も貴女よ? 犯人に手を貸すだなんて以ての外、其処のメイドも死神もね」
八雲紫がスキマに腰掛けて笑っていた。いつもの胡散臭い笑みではなく、いつになく真剣な表情を浮かべて……




