第百四十六話
萃香が白玉楼へやって来て一日経過した今日。俺は幽々子に暇乞いをして白玉楼をたった──小町と萃香と咲夜を連れて
幽々子と妖夢に、いつでも戻って来てくださいと言われた時は本当に嬉しかった。まだ帰れる場所が有る、そう思えるだけで幸せだった
幽々子に貰ったお守りを懐に仕舞い込み、これからどうするかを皆と相談する。取り敢えずは萃香が感じたという嫌な気配を辿りながら進む、という事で合意
桜花結界を越え、萃香先導の元天狗や紫達の目を気にしながら旅を続けた。木のうろや洞窟、林の茂みなどに身を隠し火は必要最小限にしてなるべく痕跡を残さぬように心がける
逃亡生活の様な旅を続けて数日が経過した頃……たまたま木に引っかかっていた天狗発行の新聞を発見。内容は、俺が二人を既に殺害し幻想郷の外へと逃亡したのではないかと書かれていた。もちろん俺は此処に居るし、霊夢も帰していないと取材の際にキッパリ否定していた
そんなこんなで、ようやく辿り着いた場所。其処はなんと、大きな祠だった。中は広く薄暗かったがつい最近まで何者かが使っていた形跡は有る。なにより驚いたのは……
「お、おいこれ! まさか……!」
「ふむ……こりゃ真犯人は本当に例の相手かもしれないねぇ」
土が被せてあったが間違いない。金色の髪の毛数本と夜の帳を連想させる漆黒の羽数枚。そして──文花帖とおぼしき手帳の一部も少し離れた石の下から見つかった
「この分だと、まだ遠くには行ってない筈。……待てよ? 此処からだと……いやまさか……」
「どうした萃香? 何か気がかりでも出来たのか?」
「此処から少し北上するとね、地底へ続く洞窟が有るんだよ。地上はご覧の通り血眼になって探す連中が居るが、地底はそうじゃない。それに、一応地上と地底は不可侵条約が結ばれているんだよ。もし相手が何処かでソレを知ったなら……」
「逃げる先に選ぶわけか! なら急ごう、今ならまだ追いつけるかも──」
「!? ──誰だい! 出て来な!」
小町の鋭い視線の先。洞窟の入り口に居たのは、今は会いたくない鴉天狗の連中だった
「ようやく見つけたぞ、下手人め! 神妙にしろ、そうすれば話くらいは聞いてやるぞ!」
「どうせ聞くだけだろ! 皆、行くぞ! せっかくの手がかりだ、途絶えさせてたまるものかぁ!」
薄暗い祠の中──遭遇戦、開始




