第百四十五話
白玉楼に辿り着き早いもので二日が過ぎた……下へ降りた妖夢によれば、三〜四人程度で隊を組んだ鴉天狗が妖怪の山を中心に索敵範囲を広げているらしい。あと数日もすれば霧の湖や人里、さらには迷いの竹林にすら及ぶとの事だ
どんどんと広がる索敵範囲と反比例して狭まりつつ有る行動範囲。なんとか動きたいものだが情報も手掛かりも無い以上、下手に動くことは出来ない。もどかしさが日々募っていく、そんな或る日──
「──ようやく、見つけたよ」
いきなり聞こえた声。体勢を整える前に俺は簡単に畳の上で組み伏せられていた。音を聞きつけた幽々子達が集まってくるが、ソイツは何もせずただ笑っているだけでまるで集まるのを待っているとも取れる
「……久しぶりだな。アンタも、向こう側かい?」
「それは質問に対する返答次第かね……さて、人も集まったことだし答えてもらおうか。──数藤悠哉、今回の一件の犯人はお前か?」
幽々子達が手を出せないよう睨みを効かせつつ徐々に腕へとかける圧力を強めてくる。咲夜がナイフを妖夢が刀を構え、小町は欠伸をしつつも油断無く鎌へ手をかける
「……信じる信じないはアンタに任せる。が、誓って俺はやっていない。閻魔にもお墨付きをもらってるから、嘘をなにより嫌うってのが本当なら分かるだろう?」
「…………くくくっ、なるほどね」
パッと手を離し、それからどっかとあぐらをかいて腰に提げた瓢箪を一呷り。ソレを見てため息を尽きながら、俺はゆっくりと居住まいを直す
「全く。久しぶりだというのにこの所業……俺でも泣くぞ? ──なぁ、萃香?」
「あはは、悪いね。でもまぁあれだけ数藤悠哉犯人説が流れてりゃ、こっちとしても真偽を確かめなくちゃと思ってね。悪く思わんでおくれよ」
伊吹萃香──かつて妖怪の山を席巻した鬼、その中でも四天王と呼ばれた鬼達の一つ。気づけなかったのは彼女の能力である密と疎を操る程度の能力、コレを使って己の身体を霧状に変えたからに他ならない
「で萃香よ。結局の所……敵?」
「まさか! 真偽を確かめたし、あの閻魔が白って言ったんだろう? なら悠哉は白、つまり犯人じゃないってことだ。味方になっても敵にはならないよ」
──気がつくと、幽々子達は退散していた。敵意が無いと分かり皆戻ったらしい。もう一つため息を吐くと、急に真顔になった萃香が顔を近づけてきた
「ただし……大抵のヤツらは悠哉が犯人だと決めつけてかかってきている。紫と悠哉の仲を知ってるヤツなら、縁切った事を起点に悠哉が紫に対して反旗を翻したってね。まぁ霊夢は半信半疑みたいだったけど……それに、一つ妙な噂が経ってるんだよ」
「……? なんだ、その妙な噂ってのは」
「いやね、前に外から来た妖怪と一戦交えたんだろう? その時大半の連中は紫の条件を呑んだけど、呑まなかったヤツの中に生き残りが居て制裁を免れた上に今回の一件に関わっているとかなんとかね。妖怪の賢者と謳われる紫も、万能ではあるけれど全能じゃないから、見落としが有っても不思議じゃない」
「それでその見落としたのが、今回ブン屋と魔理沙を捕らえて俺へ罪を擦りつけようとしていると」
「あぁそうさ。私も分身使って彼方此方探してるけど、これが中々に厄介でね……器用に隠れているのかてんで見つからず仕舞いなんだよ」
やれやれといった風に首を振り、もう一呷り。しかし、紫や萃香といった名の有る妖怪の索敵を掻い潜れる程の実力者か……ますます気が抜けなくなった
萃香に礼を言うと、じゃあ酒の肴作ってよと頼まれたため妖夢に許可を得て二三品作ってやった。あくまで噂の域を出ない萃香の話だが、もし本当なら……いずれにせよずっと白玉楼で留まるわけにはいかない
そう考えた俺は、幽々子の自室へ足を向けていた
「──幽々子、ちょっと話が有るんだが……」




