第百四十一話
「ふ〜ん、つまりアンタは身に覚えの無い疑惑のせいで追われていると。大変だねぇ……」
「溜め息しか出ないよ全く。弁解しようにも聞く耳持ってくれなさそうだったし……それよりレミリア達が心配だ。俺を庇って霊夢とやりあってるから、なんとかして助けないと」
小野塚さんと二人、川辺を歩きながら会話を交わす。俺が文々。新聞に載っていたのと同一人物だと知ると大層驚いた様子だったが、それっきりなので慣れたんだろう
「や〜あたいも手を貸してやりたい所なんだけどねぇ……生憎とあたいは此処からあまり離れられないんだよ。ほら、職務を放棄するわけにもいかないしさ」
「構わないさ。関係ない小野塚さんまで巻き込むわけにはいかないよ。なんとかしてみせる、そのために先ずは情報収集しなきゃ」
「それなら、あたいの上司を頼ってみるかい? あの人なら、何か分かるかもしれないよ」
「……だが、面倒事に巻き込まれる可能性も有る。そうなったらそれこそ申し訳がたたない」
「あぁそれなら問題ないよ。あの人はそんなの気にしないからねぇ、白黒はっきり着けるためなら尚更協力してくれる筈さね。さ、そうと決まればちょいと待ってておくれ」
岸辺に停めて有った小舟に乗り、小野塚さんは霧の彼方へと漕ぎ出していった。今の俺には、ただ待つしかなかった……
──どれくらい経ったか。水音が聞こえてきたので顔を上げ辺りを見渡すと、小野塚さんが戻ってきた。後ろに誰か乗っているから、恐らくは小野塚さんが言うあの人なのだろうか
「よ、お待ち。事情を話したら快く引き受けてくれたよ。さ、四季様……」
小野塚さんの背後から現れたのは、彼女より少しだけ小さなだが中々に高身長な女性だった。ピンと張った背筋やキリッとした瞳、そして放たれる雰囲気が彼女が只者ではない事を示していた
「初めまして数藤悠哉さん、貴方にお会いするのを楽しみにしておりました。私は四季映姫・ヤマザナドゥと申します、以後お見知り置きを」
「どうも、初めまして。数藤悠哉と申します、此方こそよろしくお願いします」
お互い一礼し、早速情報の交換を行う。どうやら今回の一件、彼女の耳にも届いていたらしく独自に情報収集を始めていたとのこと
その際、改めて二人の種族を聞いて驚いた。なんと小野塚さんが死神で、さらに四季さんはあの閻魔ときたのだ。なんでも、幻想郷担当の裁判長なんだとか……
兎も角、集まった情報をまとめてみると……
「居なくなったのは一週間前でほぼ同時に行方不明、前後に不審な動きはなくまた不審人物との接触もなしと。まさにいきなり消えたわけか……まるで神隠しみたいだな」
「そうなのです、意見が一致しましたね。私も、神隠しに遭った様だと考えております。この幻想郷においてその様な事が出来る人物と言えば……?」
「──まさか、紫が!? だが仮にそうだとして、一体何故……?」
「貴方には、彼女に恨まれる覚えが有るのでは?」
言葉に詰まった。四季さんの真っ直ぐな視線が俺を貫き、無意識に一歩身を引いてしまう。それを見て、目を閉じ考え込む四季さんと辺りに気を配る小野塚さん
「万に一つ、無いとは言えません。ですが、これだけはハッキリと言えます。──数藤悠哉、貴方は間違いなく白です。実行、及び計画をしたのは貴方ではない。貴方は嵌められたのです」
「……閻魔さんに断言してもらえたなら、これ程心強いモノはないよ。後は、証拠か若しくは本人達を捜さなきゃ俺の無実は立証されないわけか……参ったな」
「大丈夫です、気をしっかりお持ちなさい。私は閻魔ですのでそう簡単には動けません、ですので代わりに小町を着けます。いいですか小町? 私の代わりに、彼の無実を証明する手助けをするのです。閻魔としての命、しかと聞き届けましたね?」
「はいよ四季様、そんじゃ早速あたいの事は小町で構わないよ。よろしくね悠哉」
「……結局、巻き込んでしまうのか。仕方ないとはいえ、申し訳ない」
「気にしなさんな。困った時はお互いさんさね、ほら握手! ……よし、んじゃ四季様──」
「──何者です、姿を見せなさい」
……辺りに緊張が走る。薄っすらと伸びた霧の向こう側からやってきたのは──
「ようやく見つけました、悠哉さん」
半人半霊の庭師、魂魄妖夢だった……




