第百三十八話
俺が白玉楼から帰って来て、早いもので一週間が過ぎた。相変わらず俺はパチュリーの元で、小悪魔と共に司書の仕事に精を出していた
「……最近、魔理沙のヤツ本を盗みに来ないわね。珍しいと言えば珍しいけれど」
──きっかけは、パチュリーのその何気ない一言。それを聞いた俺と小悪魔は、確かにと頷く。あの魔理沙が、魔道書を盗りに来ないなんて……珍しいと言えば確かに珍しい
「ま、私としては嬉しいことこの上ないのだけれどね。気にする事でもなさそうだし、さぁ二人共仕事に戻って頂戴」
で、仕事に戻ったのは良かったんだが……今度はレミリアに呼び出されたのだ。ノックをしてから彼女の自室に入ると、彼女の他に霊夢が座って紅茶を飲んでいた
「ご苦労様悠哉、仕事中に悪いわね。なんでも、霊夢が貴方に聞きたい事が有るんですって」
「構わないさ。で? 一体何を聞きたいんだ?」
「ちょっとね。アンタ、ここしばらくで魔理沙かブン屋のどっちか、又は両方に会わなかったかしら?」
「それなら……一週間くらい前か。白玉楼へ向かう道中に会ったぞ? 二人共白玉楼で開かれる宴会に出席するって言ってたからな」
「……なるほどね。他には?」
「いや、それっきりだが……何か有ったみたいだがどうしたんだ?」
彼女は一つ息を吐き、言うべきか迷っているようにも見える仕草をする。取り敢えず待つと、その重い口を開いてくれた
「丁度一週間前から、二人が行方不明なの。片一方だけならまだ理由を後付け出来るんだけど、いっぺんに両方だからちょっと気になってね。で、最後に会った人を捜して此処に来たのよ。まさか貴方だったとは思わなかったけど」
そう言うと、何故かお札と針を構え出す霊夢。俺もレミリアも、一体どういう事なのか分からず棒立ちのままである
「数藤悠哉、悪いけど……一緒に神社まで来てもらうわ。申し開きが有るなら、今此処で聞くけれど?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 最後に二人に会ったのが俺としても、何故そこでお前さんに敵意を向けられる事に繋がるんだよ!? 第一、俺は会話を交わしただけでその後の動向までは知らんぞ!」
「そうよ霊夢。それに……今の悠哉はウチで雇っている身、連れて行くと言うのなら──相手になるわよ」
臨戦態勢に入ったレミリア──といつの間にか居る咲夜。俺自身、一体何のことやらさっぱりで混乱するばかりで一向に思考がまとまらない
「抵抗するなら、引きずってでも連れて行くわ。それに、何故と問うたわね。貴方──二人に対して敵意が有るんじゃないの?」
「……確かに、文に対しては全く無いとは言えない。未だにモヤモヤした所だって有る、だがそれは元を正せば俺の責任だ。俺が天狗を悪く言ったのが原因だからな……だけど魔理沙には全く無い! 助けてもらった恩人に、何故敵意を抱く必要が有るんだよ?」
「…………ブン屋と揉めて、手を下した。その現場を魔理沙に見られたから、じゃないの? 兎も角──来てもらうわ」
「んな無茶苦茶な……! 断る、謂れの無い疑惑なんぞでしょっぴかれてたまるか!」
直後、霊夢が手加減無しの本気で針をお札を放って来た。咄嗟に床を転がることで躱し──前にレミリアが割って入る
「それ以上暴れるのなら……私が相手よ霊夢。ウチの使用人には、指一本触れさせないわ! 咲夜、着いて来なさい!」
「……承知致しました、お嬢様!」
遂に始まった弾幕ごっこ。その流れ弾を必死に避けながら、部屋の一画に突如現れた見覚えの有る魔法陣へ飛び込む。記憶が正しければ、この魔法陣は──
「パチェの元へ行きなさい! 気をつけるのよ悠哉っ! 貴方には──紅魔の加護が付いているのだからっ!」
「まっ待ちなさい悠哉! あぁもう鬱陶しい!さっきから邪魔なのよ二人共!」
──魔法陣が放つ強い光に目を閉じ、感じる浮遊感に身を任せ……俺はなんとか脱出に成功した




