第百三十七話
「……さて、配達物も無事届けたことだしさっさと帰るか〜」
白玉楼前の階段にて少しのんびりと景色を見て過ごした後、腰を上げて帰る用意をする。幽々子も妖夢も元気そうだったし、それになにより──楽しそうだった。その事実が分かっただけで、俺の心は何処かスッキリとしていた
階段を、今度は飛ばずに歩いて下って行く。時折吹く風が頬を優しく撫で、夏の日差しに目を細める。青葉が茂った木々が風に揺られ、その音に耳をすませる。──ふと肩を見やると、小さな小鳥の幽霊が留まってさえずりを奏でていた
ふっと笑みを零してその頭を撫でてやると、首を傾げて甘んじて受け入れてくれた。少しの間そうやって過ごし、小鳥の幽霊を肩に乗せたまま再び歩き出す。問題などない、本当に晴々とした気分で──
──はた、と足が止まった。なんだ、この違和感は? 何かを見落として来てしまったかのような……この言いようの無い不安は一体何処から?
「……そういえば、先に行った筈の魔理沙と文は何処へ行ったんだ? 屋敷に着いた時、確か居なかったよな……」
そう。二人は確かに俺より先に白玉楼へと向かった筈だ。なのに、俺が辿り着いた時二人は居なかった……
「……あ、ひょっとすると屋敷の中に居たのかもな。外に出ている、とは限らないだろうし……それもそっか」
自己完結してこの疑問を頭の片隅に追いやり、スッキリとした気分で空へと舞い上がる。小鳥とは此処でお別れを告げ、地上目指して一気に急降下。紅魔館が見える頃には、すっかり忘れてしまっていた
──もしこの時、引き返して幽々子達に尋ねていれば。もっと早く気づけたかもしれない、対応出来たかもしれない
この日を境に……霧雨魔理沙と射命丸文の両名は幻想郷から姿を消した──




