第百三十六話
長い長い階段を、前と同じ様に飛んで進む。まるで時が止まったかの様な、全く変わらない景色を左右に眺めながら……これまでこの白玉楼で起きた出来事を思い返していた
あまりにも有り過ぎた出来事に時折顔をしかめたり口元をにやけたりと、一人百面相をしながら飛ぶことしばし──見慣れた門が見える距離までやってきた
俺が紫達と別れる境界となった、白玉楼の門。その門をもう一度くぐり抜けて広い庭へ向かうと、既に茣蓙が敷かれその上にお酒や食べ物が並べられる準備が進んでいた
「あら〜、いらっしゃ〜い! よく来てくれたわねぇ、待ってたわ〜!」
「わぷっ!? ゆ、幽々子……!? ちょ前、前が見えん……!」
「あらあら〜くすぐったいわぁ。そんなに私が恋しかったの〜?」
突如現れた幽々子に正面から抱き締められ、焦りながら下がる。彼女の足元にはスキマ……なるほど、それで直前まで気づけなかったわけか
「あーその、なんだ。ひ、久しぶり! 元気だったか!? 病気とかしてなかったか!?」
「ふふっ、そんな無理しなくてもいいのよ〜? 私と貴方はもう仲直りしたんだし、今まで通り……は無理でもこれからやり直していきましょうよ〜ね?」
「…………敵わないなぁホント、でもありがと。今日は妖夢のヤツに用事が有って来たんだ、何処に居る?」
「妖夢? なら……ほらあそこ。茣蓙を敷いてるでしょ? さ、行ってらっしゃい──悠哉っ」
軽く背中を叩かれ、ソレを合図に笑みを返して妖夢の元へ。流れる汗を拭いながら作業を続けている妖夢が、振り向き様に俺を発見。一瞬笑みを浮かべ、すぐに真剣な表情に戻った彼女へ預かった術式を手渡す
「まさか本当に来られるなんて……いえなんでもありません。術式、確かに頂きました」
「……やっぱり別の人に来させるべきだったな。すまん妖夢、それじゃ俺はこれで……」
一礼し、門へと歩き出す。後ろの妖夢から、声は無かった……
「ねぇ妖夢。本当にいいの〜?」
「えぇ。その、なんと言ってよいか……」
「一言、またお願いしますでいいんじゃないの〜。貴女は紫と違って、そこまでじゃないでしょうに……」
「あら幽々子、誰か来てたの?」
「思いっきり貴女の前を通って行ったじゃないの……」
「挨拶も無し、お辞儀も無し。どうやって認識しろと?」
「よく言うわ〜スキマで隠れて見ていたくせに〜。あれじゃあ彼も分かりっこないわよ〜」
「……いいのよ、今はこれで。私と彼が合間見えるのは、まだ先なのだから」
「でも、彼が勝ったらちゃんと仲直りするんでしょう? どうするつもりなの〜?」
「それはもちろん、頭を下げてその後布団で……」
「……ホントに仲直りする気有るの?」
──そんな会話がされていたのを、俺は知らない




