第百三十二話
「──アタイの弾幕に見惚れて落ちればいーのよ! アンタなんかカチンコチンにしてやんだから!」
「おぉおぉそいつは怖いこって。……とはいえ、あの寒さ尋常じゃないな。接近し過ぎると凍傷でも負いそうだし、距離を取るべきか……」
放たれる氷の粒。どうやら相手は氷を弾として弾幕を放つようだ。おまけに目に見える程の冷気、肝心な所で身体を冷やさぬように立ち回る必要が有りそうだ
飛来するソレらを躱すが側を通過したソレが放つ冷気のあまりの冷たさに、思わず身震いする。この暑さの中でもこれほどまでとは……時間はかけられない、短期決戦が勝負のカギか
ツララを飛ばし始めたチルノ目掛けて負けじと此方も撃ち返す……が、ぶつかったと思ったそばから弾が凍りつきみるみる失速。簡単に避けられてしまった
「あははははっ! しょぼーい! 所詮は人間、その程度なのね! ──アタイの力、魅せてあげるわ!」
──氷符「アイシクルフォール」──
掲げられたスペルカードが読み上げられると、俺の左右から氷の弾が迫ってきた。下がろうとした時ふと、前を見る。弾幕が──来ない? 何故か前から、一向に飛んで来ない
「まさか安置か……? まぁいいさ、行かせてもらうぜっ」
速度を上げつつ抜刀体勢を整える。迫る弾幕を越え動けないチルノの前に到達、驚くチルノへ先ずは一撃……!?
「へっへーん! お見通しなのよそれは!」
突如出現したツララに、慌てながらも身を捻り──グレイズ。……が、左肩が冷たく重く感じられる。見ると、氷が張り付き凍っているではないか……!
「散々、巫女や魔法使いにやられたのよ。対策をしないアタイではないっ! さっさと落ちなさい、ヘナチョコめ!」
「くっ……肩が動かん。これじゃあ居合が……あぁもうめんどくせぇ!」
融ける気配の無い氷のせいで身体がゆっくりじっくりと冷え始め、震えが少しずつ大きくなってくる。流石にガタガタ震える程ではないが、このままだといずれは……
「これで終わりよ! アタイはさいきょーなのを思い知らせてあげるわ!」
すっかり機動力を奪われた俺に追い打ちをかけるように、チルノが二枚目のスペルカードを掲げる。妨害しようにも次々と撃ち込まれる氷の弾やツララ、果ては氷で出来た大弾に行く手を塞がれ思うように動けないでいた
グレイズをすればするほど機動力と体温を奪われ、そのせいでさらにグレイズを強要されるという悪循環。俺は一人、暑さの中で震えながらひたすら刀を振るって氷を叩き落とすしかなかった……
──そして、とうとう二枚目のスペルカードが読み上げられた……
──凍符「パーフェクトフリーズ」──
「これで……終わりよっ! アタイの勝ちね!」
チルノ自身から放たれた氷の大弾。ソレらが空中を漂った、と思ったらピタリと停止。漂う冷気や小さな氷の粒が太陽の光に照らされて、さながらダイアモンドダストの様に煌く。夏の空に咲いた氷の華のそのあまりの美しさに、弾幕ごっこの最中にも拘らず俺は刀を振るう手を止めてしまった
「──バカ悠哉、前!」
気づいた時にはもう遅い。迫り来る大弾を避け切ることは出来ず、胴に被弾した俺はそのまま地面に落ちて行った……




