第百三十話
残った仕事を小悪魔に任せ──半泣きで俺を見つめる小悪魔に後ろ髪を引かれる思いではあったが──図書館から玄関までの道を妖夢と共に歩き出す
お互い喋ることなく、無言のまま進み続ける。妖夢は気まずそうにそっぽを向いているし、俺は俺で何を話して良いやら分からずだし……
そんな調子で、道も中程に差し掛かった頃。意を決した様に、妖夢が物凄い勢いをつけて俺に向き直った。あまりの勢いに風を感じた程だ。驚いて足を止めた俺に、勢いそのままに妖夢が口を開く
「あ、あの! お元気そうで良かったですっ! あれから、その……順調でしょうか?」
「あ、あぁ……まぁな。萃香と美鈴に師事して少しずつだけど確実にレベルアップ出来ていると感じ取れるから、順調っちゃあ順調かな?」
「それは良かったですね!」
…………また、無言になってしまった。ここで一つ、何か気の利いた事でも言えれば文句なしなのだがなぁ。生憎と、そう都合良くは出てこない
妖夢も同様にそれっきり黙り込んでしまった。また、静かに先を進む。大きく息を吸って、今度は俺から話しかけてみた
「と、ところでさ。幽々子は元気か? あれっきり会ってないし、さっきはさっきで食事量云々言ってたろ? 具合でも悪くなったのか?」
「え、いえそういうわけでは……。ただ単に召し上がられる量が多過ぎるので、少し節制して頂こうかと思ったんです。それで、パチュリーさんにお願いを……」
「そっか……まぁ元気なら構わないさ。それが一番だしな」
……ダメだ、やっぱり続かない。その後も結局ポツポツとやり取りをするだけに終わり、いつしか玄関に着いてしまっていた。扉を開け美鈴の居る門までさらに送るも、言葉は無い。妖夢もこれ以上何を話題にするべきか悩んでいる様だった
「あ、妖夢さん首尾の方は如何でしたか? 悠哉さんが見送りということは、きっと良い返事だったのでしょうけれど」
「はい。無事に許可を頂けましたので、一安心といったところです。また後日改めて来て欲しいそうなので、その時はよろしくお願いしますね」
「えぇもちろん、お待ちしてますよ。では、お気をつけて。もうすぐ日も暮れますから、お帰りはお早めに」
美鈴とは笑顔で会話も軽く弾んでいるが……俺と妖夢はその後も話すことなく、挨拶を交わす程度で終わってしまった。去り行く妖夢の背を見つめながら、ため息を吐き出す。もう少し色んな事を話したかった……
「おや悠哉さん、その様子だとあまりお話は出来なかったみたいですね。やはりなかなか素直にはいきませんか?」
「……その様だ。難しいなぁ……」
「まぁ、機会はいくらでも有りますから諦めずに挑戦ですよ。さ、早く戻らないとパチュリー様に怒られますよー?」
美鈴と別れまた来た道を戻る。次に会う時までには満足に会話出来るよう、もっと話のネタを作っておくか……
──余談だが、残った仕事を一手に引き受けさせられた小悪魔は量の多さとパチュリーからの仕打ちという二重苦を味わいながら、ひたすらに走り回っていたとか。途中愚痴を零しては、放たれるアグニシャインから命からがら逃げていたらしい
パチュリーが躊躇い無くスペルカードをぶっ放している最中を目撃した時、俺は静かに心の中で小悪魔に向けて合掌した




