第百二十七話
一日目の仕事を終えた俺は、小悪魔に連れられて厨房へとやって来ていた。中ではたくさんの妖精メイドに混じって咲夜がテキパキと指示を出しつつ調理に勤しんでいた
「あ、居ました。咲夜さーん! ちょっといいですかー!?」
「? あら小悪魔、それに悠哉様。一体こんな所にどうしたの?」
「あぁ咲夜、もう俺は此処で仕事を任されてる身だから敬語は無しで頼む。あーっと用なんだが、美鈴の好物って分かるか?」
「……そうね、美鈴ならパンが好きだった筈よ。ちょっと待って、すぐ見繕うから」
……しばらく待つと、バスケットに出来たてのパンを入れて咲夜が現れる。礼を言って受け取り、その足で今度は門へ向かう。美鈴は──居た、腕を組み足を肩幅に開いてジッと眼前の暗闇を睨みつけていた
「──おや? ひょっとして悠哉さんですか?」
「あぁ。──何か居るのか?」
「いえいえ、門番ですので何か無くとも警戒しているものなんですよ。気にしないでください。ってそれ、手に持ってるのって……」
「差し入れだよ、ご苦労様ってな。それからさ、ついでっちゃあアレなんだが……明日から時間が有る時で構わないから組手の相手を願いたいんだ」
「物は相談ってヤツですね、そのバスケットは。えぇ、私は構いませんよ。悠哉さんの事ですし、先にお嬢様の許可も取り付けていると思いますから。ただ、時間は朝とお昼の二つでお願いしますね。それなら大丈夫ですから」
「了解した。じゃ、冷めないうちにどうぞ。食ってる間は俺が見張っておくからさ」
美鈴が食べ終わるまでの間、門前で立ち辺りを見回す。人間なので美鈴に比べるとあまり視界は良いとは言えないが、それでも此処での生活のおかげで幾分鋭敏になった感覚を使って気配を探ってみる。……問題無し、だな
「あ、お待たせしました! いやー久しぶりにゆっくりと食べられました。では組手の件は先程お願いした通りで」
「あぁ、それで。じゃあ俺は戻るが、この調子で頑張ってくれよ。まぁ無理はするな、体調が優れないなら代わってやるからさ」
──さて、俺も飯を食いに戻るか……




