第百二十四話
──あれから、どれほどの時間が経ったのだろうか。紫に放った決死の一太刀を軽くあしらわれ逆にスキマに呑まれた俺は、またもや気を失い博麗神社の一室に送り返されていた
様子を見に来た霊夢に尋ねると、既に紫と藍はスキマで何処かへと消え幽々子と妖夢も白玉楼へと帰路に着いてしまっていた。つまり俺は……紫との仲直りばかりか妖夢との仲直りすらをも果たせなかったのだ
──目の前の景色が滲む。悔しかった……今の自分の持てる全てを以ってしても、傷一つ付けられずに惨敗。挙句、スキマで布団に送り返される始末。我ながら情けない……
「……まぁ、相手は幻想郷屈指の実力者。ただの人間であるアンタが勝てる確率なんて万に一つも無かったのよ? 命が有るだけ、マシだと思いなさい。思い上がらない事ね、アンタはそこら辺に居る凡人と同じなの。あの藍に勝てた、それだけでも十分大金星よ? 高望みはしない事ね」
──言い返す事など、何一つ出来なかった。確かに、紫が本気を出せば俺くらい簡単に伸してしまうだろう。なのにそうしなかったのは何故だ? 悩む俺に、霊夢はこう言った
「私の憶測だけど、アンタに勝ってほしかったんじゃないの? 紫って何時も胡散臭くて人を煙に巻く物言いだから、心許せるのって殆ど居ないと思うの。そういう意味ではアンタは一番近かった、だから──」
「……もう、いい。それ以上は言わないでくれ」
「……分かったのなら良いわ。しばらくは泊めてあげるから、残るか帰るか考えておきなさい」
「──帰る? だが能力持ちは……」
「そ、だから能力とここでの記憶の一切を封印するのよ。そうでもしなきゃ此処を保てないからね。まぁソレは最終として、どうするか……決めておきなさい」
霊夢が出て行った後、彼女の言った事を反芻する。帰る……此処を全て忘れ去って……
「はっ、それこそ出来るわけねぇだろうが……逃げないって言ったのに逃げ道探してどうすんだよ」
嘆息しつつふと視線を感じて顔を向けると、何時ぞやの鬼が酒をかっ喰らって笑って居た。彼女曰く、力の差を顧みず無謀にも立ち向かった人間を肴にして飲んでいたんだとか……
「いや、でも中々イイ線行ってたと私は思うよ。後一押し、いやまだ二三押しは必要か……兎も角もう少しだったねぇ」
「……なぁ萃香、鬼は嘘を吐かないんだろう? なら、正直に答えてほしい。──俺は紫に勝って、前みたいに笑い合えるだろうか?」
その問いに、目の前の鬼は少し顔を渋らせた後笑ってこう答えた──
──全てはアンタ次第だよ。進むも退くも、帰るも留まるもね──
……また、一から鍛錬のし直しだ。今度こそ、紫に勝つために……!




