第百二十三話
「うおおおぉぉぉおおおっ!!!」
雄叫びをあげて今出来る全速力で駆け抜ける。迫る弾幕がやけにゆっくりと感じられる、その時間の中で……居合の型を取る
──レーザーが頬を掠めた。痛みは感じない。構えた腕に肩にホーミング弾が当たる、それでもまるで何事も無かったかの様に構えを崩さず突き抜ける
「……厄介ね、ならこれはどうかしら?」
目の前に、壁の様に立ち塞がるスキマの数々。覗くのは多数の血走った瞳と多種多様な弾幕の数々。思わず身がすくんでしまうが今更止まる事など出来やしない、進み続けると決めたのだから
咄嗟に能力を発動、スキマとスキマの間──文字通りスキマを通り抜ける道を探し出す。走れ、走れ、走れ! 手足に込めた力を出来る限り弱めないよう工夫しつつ、そのスキマに身体をねじ込む
「……ッ! があああぁぁぁあああッ!」
無理に通り抜けたせいで肩や膝から出血。額には打撲でさらに火傷付きときた。どうやらスキマ……つまり固定された空間の間を力任せに通ったため、身体と擦れあい摩擦熱で負ってしまったらしい……
ズルズルと身体を引き摺るようにして、それでも足を止めない俺とスキマに乗り静かに見つめる紫。扇子で隠しているが、その眼は驚きに見開かれていた
「……よもや、そんな無理矢理な方法で乗り越えるだなんて。てっきり立ち止まるか迂回するか、はたまた別の手段を講じるかと思ったのだけれど……本当に進み続けるなんて」
「……はぁ……はぁ……言った、筈だ……。俺は、もう……退くのは止めた、と……!」
渾身の力で居合を振り抜く。その一撃は紫の手から扇子を跳ね飛ばし、今度こそ驚愕に染まった紫の表情を露わにさせた。今なら隙だらけの紫に追撃出来る、だと言うのに……
「くそっ……ここまで来て……」
「どうやらもう、限界みたいね? あーびっくりした、まさかここまでやるなんてね。でもそれが貴方の限界、人間の限界。妖怪と人間との決定的な違い。……詰めが甘いわ」
スキマから降りた紫が軽く空間を一撫で。あぁ、それだけで。たったそれだけで、俺の身体は衝撃と共にスタート地点まで叩き戻された。痛みと痺れで最早立つことすらままならない俺と、それを冷ややかに見据える紫
「──勝負、有りかしらね」
静かに告げたのは、ずっと見守っていた霊夢だった……。最後の最後まで、俺に無理をさせてくれたのか? それでも、届かなかったが……
「残念だけど悠哉、貴方の負けよ。これでもう、私と貴方が交わる事は無くなった。幽々子と仲良くしてあげて頂戴?」
霊夢のストップがかかり、紫がスキマに身を沈め始めても──例えボロボロにされてもスキマに放り込まれても
「…………紫、ちょっと待って。どうやら……彼はまだ終わっていないみたいよ?」
誰が何と言おうと、どんな物が立ち塞がろうと。もう止まるもんか、もう退くもんか
「まだ、やるつもりなのね。しょうがないわね……徹底的にした方が諦めがつくかしら?」
刀を構えろ。足腰に力を入れろ。前を見据えろ。重心を低くしろ。構えは刺突、使うは能力。必要最小限の動きと道で、紫の元へ──
「──さぁ、これで終わりにしましょう。この勝負も、そして私達の縁も」
「──切らせるものか。断たせるものか。行くぞ紫、正真正銘最後の一撃だ。勝つのは……俺だぁッ!」
紫のスキマが展開されるのと俺の決死の一太刀がぶつかり合うのはほぼ同時。直後、頭部と腹部に強い衝撃を感じ──
「惜しかったわ、それでも届かない。これが貴方と私の──覆る事の無い実力の差よ」
無傷で立つ紫を見た後、スキマに呑まれた……
やはり──現実はそう甘くはない




