第百二十一話
「…………来い」
「ではお言葉に甘えて。行きますわよ!」
紫の周りに開かれたスキマから大量の弾幕が展開される。レーザー、米粒型、大玉、リング、蝶、クナイ、墓石、丸型、ホーミング、破裂型──ありとあらゆるタイプの弾幕が、俺目掛けて殺到してきたのだ
跳んで転がり身を捻り、這いつくばって避け続ける。だが一向に弾幕の勢いは衰えない、それどころかますます勢いを増して迫ってくる
一枚目のスペルカードの効果はまだ残っているが、既に残り時間は半分を切った。二枚目のスペルカードは時間切れで意味無しなので、再びはもう使えない
三枚目──切ろうとした俺の前に小さなスキマが一つ開き、紫の持つ傘がいきなり飛び出して来た! 咄嗟に回避するも、運の悪い事に三枚目のスペルカードを落としてしまった!
「──終幕かしら。残念だわ……」
虚を突かれ完全に体勢を崩した俺は迫り来る弾幕をグレイズしつつ必死に安置を探すが、見つからない。つまり紫は……確実に当てに来ている
とうとう弾幕に追いつかれ、身体のあちこちに被弾し始める。一発一発がまるで鉛の様に重い衝撃を与えてくる。後はもう、弾幕の流れに流されるしかなかった……
一発当たって飛ばされた先で別の一発に命中。そしてまた、別の一発に当たって飛ばされ──永遠とも思える間を被弾し続けた。レーザー型の一発が身体を貫き、俺は膝から崩れ落ちた……
「……悪いけれど、貴方を簡単には許せないの。この私を裏切った、その意味──よく思い知りなさい」
──式神「八雲藍」──
息も絶え絶えな俺が見たのは、紫の側に立つ気絶させた筈の藍の姿。まさか藍自身がスペルカードだったなんて……式神契約をスペルカードにしていたとは、考えもしなかった
「……悪いな悠哉、お前の判断は誤りではない。先ず先に下を潰しそれから上に手を掛ける、このやり方決して間違いではない。だが……相手が悪かったな、紫様はそれらを予測された上でスペルカードを作られている。せめて、一発で仕留めてやる」
藍が歩み寄って来る。その後ろで、スキマに腰掛けて残念そうな表情を浮かべた紫が居る。……これで良いのか? 折角のラストチャンスを、こんな形で終えてしまっても?
──いや。ダメだ、まだ終われない。今諦めたら一体何のためにここまで来たのか分からなくなってしまう。そうなったらもう、仲直りなど出来なくなってしまう……!
歯を食いしばれ……震える手足に喝を入れろ……腹に力を込めろ……頭をフルに動かせ……相手を見据えろ……まだ負けるわけには、いかないんだ……!
「…………まだ立つか。もうこれ以上頑張るな、無駄だからな」
ゆっくりと、相手を見据える。簡単な事だ、藍を……紫を倒す。それだけだ、それだけで良いんだ……
「差が有る事くらい、分かってるさ。だけど……諦める事は出来ないんだ。──行くぞ、二人共」




