第百十七話
──いったい、どれくらいの時間を眠ったのだろう。夕暮れだった筈の空の色は、いつの間にか澄み切った青空へと変わっていた
なんとなく分かるのは、此処が博麗神社の一室である事と自分がまだ生きているという事。そして……枕元に藍が立って居るという事
「おはよう悠哉、どうやら死に損なったようだな? 相変わらず、お前の生命力には舌を巻くよ……取り敢えず生きてくれていて良かった」
藍の瞳は暗く濁り、何処を見ているのやら……それでも勘で俺を見ているのだろうと当たりをつけた。──唐突に、一筋の涙が零れ落ちた
「お前を殺してやりたい、それほどまでに憎んでいる。だがな、お前にこれからも生きていてほしいとも同時に思っているんだ。お前を手にかけようとした私が今さら何を、と思うだろう? ……笑ってくれ、無様なのは私の方だと。主の命すら無視して行動を起こし、挙句見つかって処分待ちの……情けない策士の九尾の今を」
……痛みに悲鳴をあげる右手を、ゆっくりと挙げる。無理矢理動かしたせいで巻かれた包帯に血が滲むも、飲み込んで藍の足を掴む
「……言いたい事が有るのだな? 分かった、しゃがむから少し待ってくれ……よし。さぁ、私に何を言うつもりだ?」
何度か唾を飲み込んで、口を動かせるようにする。大きく息を吸い、口を開いた
「……バカな事、言ってんじゃねぇよ……お前は正しいだろ。主人を想ってお前は動いたんだ……少なくとも、俺は非難なぞしないね……」
「……本当に、おかしなヤツだなお前は。もう、悠哉も立派な幻想郷の一員だな……でなきゃそんな感想は出ないさ。……楽になったら、居間まで来い。今後について紫様の方からお話が有るそうだ」
立ち上がり、静かに立ち去る藍。その背を見送った俺は、再び眠りについた……




