第十一話
ね、眠い……何度か意識がとんだ……
「おはよう藍、紫から聞いてると思うけど何か準備は必要か?」
「おはよう悠哉、博麗神社に行くんだってな。準備と言ってはなんだが、少しばかりお賽銭でも持って行ってあげれば喜ばれるぞ」
朝、藍と会話をしつつ朝食の準備。今日は紫と博麗神社へ行く──のだが、一向に紫が起きてこないのだ
「それにしても、紫様今日は一段と遅いな……悠哉、引き続き朝食の準備を頼む。私は少し紫様の様子を見てくるよ」
「了解。出来るだけ早く帰ってきてくれよ〜」
軽く手を振って見送り、サラダを盛り付ける。うん、上出来だ
居間に食器と朝食を並べて藍と紫を待つ。十分、二十分……と時間が過ぎていくが紫どころか藍すら戻ってこない
「? まさか何かトラブルでも有ったのか……ちょっと見に行くか」
湯気が立つ出来立ての朝食達にラップをして、紫の部屋へと足を向ける。思えば、藍が向かってから音が聞こえてこない。起こしているなら声が聞こえてくる筈だし……やはり何か有ったのか?
紫の部屋の前に来たが、相変わらず辺りは静寂に包まれていた。緊張しつつゆっくり部屋へと入ると、部屋の中央の布団に小さな山が一つだけ出来ている
──藍の姿は、無い。それに、目の前の山もピクリとも動かない。オマケに無音ときた……嫌な汗が背中を流れ落ちていく
「紫? 朝ご飯出来たから呼びに来たぞ? ……おい紫、聞こえているのか?」
反応無し、それが逆に俺の恐怖心と不安を掻き立てる。だが、ここまで来て引き下がるわけにもいかない。汗でジットリする手を布団にかける
深呼吸を一つして、手に力を入れる。そして──間髪入れずに思いっきり布団を引っ張り剥がす
中に居たのは紫──ではなく藍でもなかった。一つのスキマが、俺をただジッと見つめていた。混乱する頭を叩いて現実に引き戻し、スキマを見つめ返す
少しして、スキマがゆっくり閉じはじめた。同時に、居間の方から誰かの気配を微かに感じ取る。これはひょっとすると……?
布団を乱暴に放り投げ、足音を響かせながら居間へと急ぐ。そして、俺の視界に飛び込んできたのはしてやったり顏の紫と藍だった
「あら、随分とまぁ遅かったわね。一体何処へ行っていたのかしら?」
「そうだぞ悠哉。ラップをしてくれていたのは感心するが、料理が終わったからと言って勝手に黙って何処かへ行くのは感心出来ないぞ?」
笑いながら何食わぬ顔で朝食を食べる二人。もう怒るのもアホらしくなったので、静かに座って朝食を食べ始める
終始無言で食べていると、チラチラと紫が視線を向けてくるのが分かった。が、だからと言ってどうこうするつもりなど毛頭なく無視して食べ進む
「……ごちそうさまでした。先に洗ってくるから、終わったら持って来てくれ」
とだけ伝えてさっさと台所へ。仕返しって子供っぽい事してるなぁ……と思いながら、お皿を洗い始める。一枚、二枚……と洗っていると真横にスキマが
「えっと、悠哉? もしかしなくても、怒ってるわよね?」
「あぁそうだな、怒っているかと聞かれたら間違いなく怒っているな。人が心配して見に行ったら単なる悪戯とか……呆れたよ全くさ」
苦笑しながらスキマの中の紫と藍を見つめる。二人とも申し訳なさそうにしてるし、これくらいで許してやるかな……
「洗い物終わったら準備するから、紫は先にやっててくれ。頼むな?」
「あ……任せなさい!」
やれやれ……俺って甘いのだろうか?




