第百六話
「…………」
白玉楼から出てきて、どれくらい歩いたのだろうか。宛もなくただただひたすら彷徨い続けて──気付けば灯りも無い真っ暗闇の中で一人、孤独に立ち尽くしていた
「…………」
頭を過るのは、自分が壊した思い出。言ってしまったのは俺、壊したのも俺……なのにどうしてこうも虚しく思うのだろう。やはり俺は、まだあの関係に未練が有るのか……
「…………」
しかし、こんなにも歩いているというのに妖怪の一体妖精の一体にすら出くわさないのはどうしてだろう? たまたまか、はたまた機を伺っているのだろうか
「………」
もうどうでもいい。死ぬのなら死ぬ、死に損なうならそれでいい。もう……どうにでもなってくれ……もう……疲れた……
とうとう俺は歩くことすら止めて立ち止まる。そこではじめて姿を表すのが、妖怪達。歯をむき出しにして唸り声をあげ、一歩一歩ゆっくりと歩み寄ってくるのをぼんやりと眺める。そう、まるで他人事のように
「……お前らが、俺の最期に付き合うヤツか……喰いたいなら喰え、もう俺には──」
……ゆっくりと目を閉じてその場に崩れ落ちる。この後に及んで死ぬのが怖くなるなんてな……だが、一向に死は訪れない
不思議に思って目を開けて──見知った顔を視界に映す。それは紛れもなく、紅魔館のメイド長──十六夜咲夜の顔だった
彼女の顔を見て、何故か安堵のため息が零れる。……まだ、死にたくない。そんな気持ちが湧き上がってくる、意気地なしめ……
同時にホッとする、まだ生きたいのだと。気を抜いてしまった俺は、彼女の方に倒れるように気を失った……




