その5
あのアホらしい誘拐事件の次の日……僕はなんだかんだで3人でいるのを日常だと思い込むことにした……
もしくは諦めたともいう。もちろん、ニャルラトホテプを追い出す事をだ。そして、何をやっているかというと……
「またハリケーン?」
「……残念ながら、これが僕の実力だ」
パーティーゲームに勤しんでいた……せめて休日くらい休ませてもらう。平日が某風の眷属のせいで世紀末だからこれくらい許される……はずだ。
「……ある意味奇跡じゃのう、10連続じゃぞ? 10連続」
「絶対におかしいよ。例えるなら一枚しか積んでないのにカテゴリーデッキ名乗るくらいにおかしいですよ、アバンス」
「それカテゴリー名乗っちゃいけない気がするんだが? すっごく」
「実際名乗ってたデッキはあったけどね、とある虫の派生に……」
そんな感じで、ゲームをやって1日が過ぎていくように感じた土曜日は……
「大変です! 外でネコが大量発生しました!」
そんなバイアクヘーさんの言葉で打ち切られた。休みたかったのにな……無念
「ネコが大量発生って、それはそれで別にいいんじゃないか?」
「某OCGの猫シンクロ全盛期よりはマシじゃろう?」
「ちょっとくらいネコが多くなったくらいで大量発生とは……大げさじゃないかなバイアクヘー……その納得したような顔はなんです? まるでボクがアバンスくんの家に居候するのを最初から予想していたみたいに……」
「それが……日本のネコの二、三割が集まったのではというくらいの密度で……」
ネコ好き歓喜だな、そんな環境……僕は好きでも嫌いでもないけど……というかなんで僕達に報告したのか……
「で、僕達にどうしろと?」
「危険なネコの妖怪は神主さんが退治して下さっているので私達でネコが集まっている現象の正体を突き止めて下さいとの事です」
「うん、ちょっと待とうか。なんでさり気なく僕らが動く羽目になってるんだ? あと神主さんって一体何者なんだ?」
「神主さんは神主さんですよ? 昨日の騒動のことを神主さんに話したら『そうか、ならハスターとあなたの二人に任せるよりこっちで危険な妖怪を退治してお前さんと知り合いの邪神とで探索した方が良いですね』と言って、仕方なく……手伝ってくれますか?」
……さり気なく断れないように誘導されなかっただろうか?
「……仕方ない、分かったよバイアクヘーさん……で、一体どういう奴が」
「勝てないからって逃げたね……」
「敵前逃亡じゃな」
……こいつら後で泣かす……!
「一体犯人はどんな奴なんだ?」
「それが…………見た目は十代から二十代、あるいは三十代から四十代。五十代や六十代ということも考えられ、おそらく女性。ネコ耳の可能性が高いが、その限りではない……とのことです」
「なるほど、まったく分かってないことしか分からなかったんだが?」
というか、今の情報を要約すると、『おそらく女性』、『ネコ耳の可能性が高い』。これだけだった
「さて……今回の事件、邪神の仕業だったりするのか? クトゥルー神話で猫のが色々あったと思うんだが」
それこそ、ピンからキリまで……とまではいかなくとも猫に絞るだけでも結構な数があったはずだ。
「確か……旧神のやつにバーストとかいうネコがおったのう……」
「ああ、ボクの記憶が正しければ、確か大阪だか広島だかにいてタイガースの応援をしているハズ……」
「広島はあり得ないな、カープあるし」
「でも、何のために猫を集めたのでしょうか……」
犯人(犯神? 阪神ファンだけに)はバーストにほぼ確定したが、バイアクヘーさんの言う通り、動機が不明だ。待てよ? 動機が分からないのではなくてひょっとして
「逆に考えるのじゃ、動機なんぞ無くても良いと考えるのじゃ」
「だよなぁ……動機なさそうだし、ただの気まぐれとかか?」
動機が無いという一番分からないパターンの予感がしている。それはクティーラも同様に
「ボクが思うに、動機は示威の様なものじゃないかな?英語で言うと……D・モン」
「とりあえず、考えるよりも探す方が先だよな……」
「アバンスくん、ちょっとはボクの話を聞」
「バイアクヘー殿、猫の分布に何か異常は無いかのう?」
「だからボクの話を」
「大体……ニャルラトホテプさんが住んでいた公園の辺りを中心として分布しているような感じはします」
「ボクの話を」
「よし、そうときまれば……ニャルラトホテプ、留守番頼んで良いか?」
「言うに事欠いてそれかい!? ボクの言葉を全員で示し合わせたかのように無視した挙句にそれかい!?」
何故か知らないがニャルラトホテプがキレている。最近の若い奴は恐いなぁ、すぐにキレる……あれ? ニャルラトホテプの年齢からして流石に若者扱いは
「今凄く失礼なことを考えていなかったかい?」
ニャルラトホテプが睨んできているが、軽くスルー
「さて、ニャルラトホテプの事はほっといて行くか……」
「君がおいていこうとも、ボクは勝手についていかせてもらうよ!」
ニャルラトホテプは意地でも僕らについて行きたいようだ。……なんていうかニャルラトホテプはアレだ、弱いくせに出しゃばるわ、回復アイテム浪費させるわでいいところがないキャラだ。扱いはあんまりだけどそんな感じがする。
外に出ると、確かにバイアクヘーさんの言う通り猫が多かった。多かったのだが……
「確かに猫多いけどさ……二、三割って量じゃないくて5分位じゃないのか?」
「確かにさっきのは言い過ぎでしたけど……酷い場所は1割位の密度でしたよ?」
「それでも一割か……」
「フフッ、流石はボク! すっかり懐かれ痛っ! ……懐かれて痛い! 爪立てるんじゃない!」
「引っ掻かれてんじゃねぇか」
猫と相性が悪いのか、ニャルラトホテプに抱えられた猫は思いっきり暴れていた。
そういえば、ウルタールの猫の話に……いや、やっぱりやめておこう……
そして一方のクティーラはというと……ニャルラトホテプとは対照的になつかれているものの……一週回って猫に囲まれて動けなくなっていた。
「………………………………助けてくれぬか、アバンスよ……動こうにも猫を踏んでしまいそうで動けぬのじゃ……」
「…………どうすればいい?」
こいつら二人の猫からの反応極端過ぎやしないか? 思いっきり嫌われたり思いっきり好かれたり……? 好かれているのか? 好かれているでいいのか? まあいいや
ちなみにバイアクヘーさんの方はというと……
「あれ?なんでこっちに来てくれないんですか? 私は悪い事しませんよ? なんで来てくれないんですか? ねぇ……」
悲しいことに野生の勘で一匹も寄り付いて来なかった。……そのしわ寄せか僕の方には結構寄ってきていた。極端すぎる……
「さて、問題の公園いだっ!」
「早速迎撃されたな……」
「猫密度が高いから、この辺の可能性が高いのう……あと、頭が重いのじゃが、猫の一匹や二匹でも乗っておるのか? 言ってみろ、アバンスよ……」
「ああ乗ってるな、いろんな場所に……4、5匹くらい」
ちなみに内訳としては頭に子猫二匹、両肩に一匹ずつ、あとは背中にぶら下がっている猫が一匹……最後のはカウントしてもいいのだろうか? ぶら下がってる状況だし……
そもそも、どうやって頭の上に乗ったんだ?あの猫は
そして、案の定というか何と言うかバイアクヘーさんには……
「猫ちゃ~ん、こっちに来て下さいよ~、別にとって食おうというワケじゃありませんよ~。…………なんでどこかに行っちゃうんですか? 私はただ純粋にナデナデしてあげたいだけなんですよ?」
一匹たりとも行かなかった……正直、バイアクヘーさんがすこし可哀想に思えてきた。なんであそこまで猫が寄り付かないのだろうか……野生の勘で危険察知したのか、やっぱり
「で、なんで僕には寄り付いてくるんだろうな……僕猫にあげられるようなの何にもないぞ?」
「匂いじゃないかな……例えば……海産物?」
「意味が分からんけど猫、GO!」
「痛い! なんでそんなに息が合ってるの!? 引っかくな! やめてください死んでしまいます。もうボクのライフは鉄壁の100だから! もう勝負はボクの勝ち」
「少し預かってくれんか」
そう言って、クティーラは自分の体に乗っかっていた猫をニャルラトホテプに渡した……厳密には誘導した……そして
「……猫、『ひっかく』のじゃ!」
クティーラの言葉が分かったのか、ニャルラトホテプに渡した猫はニャルラトホテプを引っ掻いた。……今思ったが、これはイジメじゃないのか?
「ま、いっか」
「こんの裏切り者ォォォォォ!」
「おっと、転んでしまいましたぁ(棒)」
「ワザとじゃな、バイアクヘー殿」
「ムギュッ……」
わざとらしくバイアクヘーさんがニャルラトホテプごと猫を抱き締めた。……ニャルラトホテプは抱き締められるというよりは締められるといった方が正しいが
そういえば、当初の目的は何だっけ?
「わらわ達は猫と戯れに来たのではないのじゃぞ? それを忘れてはいかんのじゃ」
「…………君は率先して猫にボクを襲わせてなかったかい? あと退いてくれないか?バイアクヘー……」
「うぅ……なんで猫ちゃん、私を避けるんです?」
案の定、バイアクヘーさんが抱き締めた状態から猫たちはどうにかして逃げ出したようだった
「いや……下心満載で近付いたらネコも逃げると思うけどな……野生の勘で」
「下心なんてありませんよ? ただナデナデしてあげたかっただけなんですよ?」
「本音は?」
「肉球ぷにぷにもしたいですしペロペロもしたいです」
「相変わらず頭の方が病気ですね、バイアクヘーさんは」(無言のドン引き)
ぷにぷにはまだしもペロペロって何をするつもりだ、下心満載じゃないか……
あとニャルラトホテプがネコに引っかかれるのはひょっとして……
「ニャルラトホテプ、ひょっとしてお前ネコ嫌いだったりするのか?」
「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
無言で目を逸らした。つまりは
「なんだ、図星か」
「………………諸君、ボクはネコが嫌いだ。」
なんだか長い演説が始まる予感がする……
「あの目が嫌いだひげが嫌いだ鳴き声が嫌いだ爪が嫌いだ猫シンクロが嫌いだ」
何で猫シンクロが混じってんだよ、多分月島さんどころか錯覚云々の頃じゃないか?
「性格が嫌いだ毛並みが嫌いだ見た目が嫌いだ本能が嫌いだ猫キャラの口調が嫌いだネコ耳が嫌いだ尻尾が嫌いだネコの妖怪が嫌いだ怒り時の仕様が嫌いだ猫を崇める風潮自体が嫌いだ」
「所々変なのが混じってるのは何なんだよ」
「よろしい、ならば殲滅だよ!」
「もうお前猫に封殺されてろよ」
「じゃあボクと契約して、最凶の支配者ダークキングになって玉の輿に乗らないかい?」
「断る……というか、いい加減に僕の事を諦めたらどうだ?」
「ボクは諦めないよ? だって諦めたら邪神の心は死んじゃうからねっ!」
「その言葉、イラッとくるぜ!」
こいつはまともな会話をする気があるのか?多分無いな
「ニャーッハハハァ! でゅエルやぁ!」
「誰じゃ! ……もしやその声は…………」
誰だよ……もしやって言っておきながら沈黙するなよ。分からないならそう言えよ
「罪深い旧支配者はん達、旧神の中で五本の指に入る程しぶといと評判の猫を引き連れたあたいが相手や!」
バーストだな、旧神でネコなら十中八九バースト(一応バステトという呼び名もあったり無かったり?) だ。ネコ耳の色をみる限りでは猫というよりはトラに近いようだが
「どう見ても阪神ファンのお父さんに連れられて野球観戦に行ってきた少女(ネコ耳付き)なんだが…………これでもクトゥルー神話における旧神のバーストなのか?」
「あんなナリじゃが旧神のバーストのハズじゃ」
「フフッ……たとえが……ダメだ、まだ笑うフフ……こらえフフフだ……」
ニャルラトホテプが某新世界の神のような事を言っているが、思いっきり笑っているせいで台無しだ。
というか、なんでツボにはまったんだ?
「にゃんでや! にゃんでほんな事言うんや!……あ~そろそろキレそうにゃ~。あたいキレたら怖いよ? 後悔するよ?」
「うわ~さらまんだーよりずっとこわ~い(棒)」
ニャルラトホテプが煽る。……こいつ人を怒らせる才能だけはあるんじゃないか?
「にゃあああ! もう絶対に許さへん! あたいもう我慢の限界や! あんたら全員地獄に落とすにゃ!」
……折角の猫なので、ここはバイアクヘーさんに任せようか。欲求不満だったみたいだし、ちょうど良いだろう。
「バイアクヘーさん、怒っている猫は隙だらけだから」
「分かりました……疾風……」
いつの間にかバイアクへーさんはバーストの資格となる真後ろにまわりこんでいた……そしてハグした
「……にゃ!? にゃにをするんにゃ! 離すにゃ! あたいの邪魔をするのなら容赦」
「むぎゅーっ! 怒涛のはぐラッシュアクセル!」
「ニャアァァァ! はにゃすのにゃ! 反省しとるんにゃ! にゃからあたいを離し」
「猫ちゃん~~~……うふふ」
「ひいぃっ! にゃにをするつもりにゃ! あたいに何をするつもりなんにゃ!」
バイアクヘーさん一人に任せた結果がこれだ……もうバイアクヘーさん一人でよかったんじゃないかな?
「さて、一緒に帰ろう……アバンスくん」
「あ……ああ」
「あやつも反省するじゃろう、下手に動くと仲間の猫がついて来て元凶として退治されたからのう」