その4
火曜日にカームさんもとい、バイアクヘーさんが転校(なのか?)し、僕と知り合いだった事とかバイアクヘーさんが僕を気に入っている事等を冷やかされたのを除けば割と普通に終わっていった一週間だった。まあ、あと少し、金曜日の午後が残っているのだが。
もしもニャルラトホテプが仕掛けてくるのだとしたら今日の午後しかありえない。この事を朝、家の前で待ち伏せもとい、勝手に待ち合わせしていたバイアクヘーさんに話すと、「今日一日私から極力離れないで下さいね?むしろずっと一緒にいましょう!レベルを合わせるのでオーバーレイネットワークを構築しましょうか!」という、信用出来るのか出来ないのかイマイチ分からない答えが返ってきた。
そんなやりとりを思い出していると、肩を軽くたたかれ、振り返ると、委員長さん……世界さんがいた。
「ちょっと一緒に来て……アツト君にだけ、話したい事があるから……」
そう、小声でいわれたので付いていく……僕が教室を出ていこうとしている事に気がついたバイアクヘーさんがこっちを見たが、サインを出して止めておく……捨てられた飼い犬の様な目をしながらこちらを見つめていたのだが、無視して青木さんについて行く。青木さんなら大丈夫だと思うし
「世界さん、ところで話って何なんだ?屋上まで来るって、バ……じゃなかった、カームさん達に聞かれたくなかった事なのか?」
「……………………」
「おーい?青木さん?」
「……一つ聞きたいんだけど……」
「ん?何を?」
こんな所に呼び出して聞こうとすることなんてほとんど思いつかない。強いて上げるなら、『義妹(もしくは義姉か)になってください』ぐらいしか思いつかない。
……信じられないが、実際にそういった告白を何度か受けたことがある。勿論NOと返したが。
「……クティーラは、あの手紙を読んでくれたかな?」
なんでクティーラが出てくるかな……うん?クティーラ?……タイミングがよすぎはしないか?
「……まさか……いいんちょさんがニャルラトホテプか!」
「……バラしてしまった以上、仮面を被る必要はないよね…………ボクが偽りの王Nだ……」
「一体……いつから……」
「最初からボクは、青木 世界を名乗って、この学校に入学し、最初からこの姿で学校生活を過ごしていた……でも、都合が変わったんだよ……ちょっとした用事のために、君を誘拐しなくちゃいけなくなったからね……ああそうそう、そこにクトゥグァが隠れているみたいだから言うけど……バレバレだったよ?最初から君がそこにいたのは分かっていたさ……」
「…………いないはずだが?誰も」
「……え……本当に?」
「本当に」
そしてニャルラトホテプが、本当に誰もいないのか確認しに行き……
「…………………………最初から分かっていたさ」
「分かってなかったろうが!さっきお前なんて言ってた!」
「……は……ハッタリをかけただけさ……問題はない」
「全然ハッタリじゃなかったけどな」
「…………もうそろそろ結界の効果がきれるころか……まあいいや、続きはボクのアジトで話そうか……ちょっと眠っててね」
ゴスッ
「この気配……ニャルラトホテプなのかな?…………!ひょっとして……」
ガタッ
「カームさん、アツト達がどこ行ったか知らないか?」
「ちょっと用事が出来ました!授業に遅れるかもしれません!遅れた場合は任せました!」
「答えろ……答えてみろ……ルドガー……」
『もしもし、カームちゃん?何かあったの?』
「クトゥグァさん!ちょっと人気のなさそうな所に来て下さい!ひょっとしたら……」
『はいはいっと、やっぱ鉄板は屋上かな?』
「じゃあ屋上です!屋上に来て下さい!」
「話って何?……あれ?もう一人……ハイドラさんはどこ行ったの?」
「その事です!実は、ア」
「……?カード?……これはあのゼニなんとかのZ・ファイル?……ニャル公が犯行予告に使ってた種族と同じ……つまり」
『…………………………どうする(どうしましょうか)?』
「とりあえずクーちゃんに連絡してそれからじゃないかな?」
「そうですね~……」
『ハイドラがニャルラトホテプに攫われたじゃと!?お主らはなにをやっておったのじゃ!特にバイアクヘー殿!お主に学校にいる間はハイドラの事を極力四六時中見張れと言っておったではないか!……もうよい、探しに行ってやろうではないか……今すぐ懺悔の用意を済ませるのじゃ!ニャルラトホテプめがぁ!』
((怖っ……))
「クマシュンッ」
「どんなくしゃみだよ、コラ」
突然、ニャルラトホテプがクマのようなくしゃみをした。
ニャルラトホテプの見た目は……まあ、端的に言えば黒基調のゴスロリを着た中学生といった感じだった。というかそうなっていた。
「噂をされた気がしたからね」
「そうか、僕には関係ないな」
「きっとボクの隠れ家のことでも話しているんだと思うよ。でも、ボクらの居場所はバレるような事はほぼ無い。だから、君とボクとで世界を作らないかい?」
「断る、というかお前変幻自在だからって姿を変えるなよ……さっきびっくりしたじゃねぇか」
起きた時に見慣れたいいんちょさんの姿から大体人で換算すると中学生位のイタズラ好きそうな少女に変わっていたら流石に驚く
「これはボクの本当の姿だよ。安心して……ボクはこの姿では君の心を覗くことは出来ない。でも、」
「姿を変えると僕の心を読めるようになる……か?」
「そう……日本にいるよね、心を読む妖怪が……その妖怪に姿を変えたら心なんて簡単に読める……あれは……確か……チャクラァ?」
「さとりだろ」
「……揚げ足をとらないでくれないかな?」
「揚げ足とられるような足をあげたお前が悪いだろ」
まあそんなことはおいておいて、まず聞かなければいけないことがある。
「ところで、なんで僕を誘拐したんだ?クティーラ関係の理由なのか?」
「…………おっと、電話だね」
「いや、鳴ってなかったよな?」
「マナーモードだから音は鳴らないけど?」
「明らかに何にも無かったよな?」
「すまないね、少し席をはずすよ……どう足掻いても君はこの部屋から抜け出せないから安心してくつろいでいてね」
「安心出来ねぇよ……」
ニャルラトホテプの言葉を証明したくもあったが、命を投げ捨てるほどでは無かったので、仕方がなく休んでおく
「……はい…………式は……分かりました」
「何の式をやるつもりだよコラ」
「……指輪は……はい、じゃあそれでお願いします。別にジェムジェムしてる指輪でも構いませんけどね」
「だからお前は何をするつもりだよ」
「じゃあケーキは余裕を持って8人分位で……ボクはケーキが大好きなので」
「一体何が始まるんだよ」
指輪といいケーキといい規模こそ小さいが結婚式じゃないか?
「ボクに頼み事?…………イヤですけど?」
「上司の頼みごと断るなよ」
あと誰かさんのネタを借りていた気がするのだが気のせいであってほしい
「はい、こっちの準備は順調です…………はい、分かりました」
「……誰と電話してたんだ?」
「フフッ、ボクの交友関係が気になったのかい?別に」
「誰との電話だったんだ?」
「アザトホース様との電話だよ……」
「じゃあ『イヤですけど?』って断り方すんなよ!」
「グチグチうるさいなぁキミは……将来的には亭主関白になりそうだね……速攻で下剋上されてかかあ天下になりそうだけどね」
「下剋上されたら更に下剋上返ししてやるよ」
「恐らくその場合は下剋上返し返しされるんじゃないかな?」
「じゃあ下剋上返し返し返しするし」
「……不穏な夫婦関係だね…………まあ、下剋上返しすら出来ないと思うけどね」
「……今なんか凄く不吉な事を言わなかったか?」
「そんな事より、一ついいかい?」
よほど聞き返されたくなかったのか、露骨に話をズラすニャルラトホテプ
「なに?」
「どうしてキミはあんなに落ち着いていられるんだい?ボクがキミを誘拐した時、キミはそれが普通だったかのように平然としていたじゃないか?」
「…………まあ、小さい頃から色々あったからな……具体的には父さんが女たらしで色々酷い目にあってたり母さんが資料を纏めている間に父さんが夏休みの思い出作りと称して僕を何か人智を越えた生物が居そうな遺跡に連れてったり、冬休みにはすごい吹雪の雪山に神様を探しに行こうとか凄い罰当たりな事をしようとしたり……まあ、それでも夫婦の仲は割と良いみたいだけど」
「何をどうしたらそれでも夫婦の仲がいいんだい!?」
「分からないけど……家族を大事に思ってるからじゃないかな?…………本当に家族を大事に思ってるなら子供を危なそうな遺跡に連れていったりはしないと思うけどさ」
そういえば今回の探索ではどこに行ったんだっけ?……『お尻が冷たい』みたいなメールが数日前に来てたから気温が低い所だとは思うけど
「ずいぶんと苦労しているんだね……キミは……」
「お前のせいで現在進行形でも苦労してるけどな」
「…………キミは少し口が過ぎるようだね……ん?この邪神圧……チーム風林火のご一行が来たようだね……」
「山はどこに居ったんだよ、あと林ってどういうことだ」
「まあそんな事はどうでもいいとして…………ちょっとマイクの準備をと……」
どこからかマイクとかを取り出し、セッティングするニャルラトホテプ……すごい茶番の予感がする……
「あーあーテステス」
「お前は何をやっているんだ?」
「ハロー、バイアクヘーさん、クティーラさん。あとアンクだっけ?」
『誰がアンクだニャルアホテップ!私は鳥じゃない!』
『クトゥグァさん、抑えて』
「ちゃんとクトゥグァって呼んでやれよ」
「本来なら映像も付けようと思ってたんだけど……見苦しいから回線もテレビも斬っちゃったよ」
「物理的にきるな」
「まあいいや。そんな事より……ボクの城へようこそ」
『外見はダンボールハウスじゃったがのう、そろそろ予算の限界かの?』
『クティーラさん、そんな事は言っちゃいけませんよ?真実は時に虚実よりも人を傷つけるのですから』
クティーラ達の集中攻撃に、ついにニャルラトホテプがキレた。
「うるさいなぁ!ボクだって正直この城の外見はどうかと思ってるよ!でもそっちにいるクトゥグァがことごとくボクの別荘を焼き払うから、資金がすぐに底を突いちゃうんだよ!ヨグソトース様は子供の喧嘩だから親(代わり)が口出しする事じゃないって言うし……ボクだって静かに暮らそうかと思ってるのに放火魔が家を焼くし……グスン」
そろそろニャルラトホテプが涙目なので、ほんの少しだけフォローしておく。ほんの少しだけ
「そうか、イジメはよくないぞ?クトゥグァ」
『でも私はそこのニャルラトホテプが悪事する前に止める目的で……』
「ニャルラトホテプ……帰っていいか?」
「良いワケがないよ!キミはイジメの現場を見た教師かい!」
鞭とアメ作戦失敗。まあ、失敗するのは目に見えていたが
「とりあえず、クトゥグァ……ニャルラトホテプがいたからといってすぐに放火魔になるのはやめろ、そしてニャルラトホテプは悪事するな、というわけで僕を解放しろ」
『……ニャル公の事だしそれだけで反省するのは一週間ぐらいじゃないかな?』
『いやいや、わらわは次の日にはすっかり反省した事も忘れて悪事を働く方にかけさせてもらうのじゃ』
『じゃあ私は……』
「キミたちはボクの事を少しは信用したらどうだい!ボクの事がそんなに信用できないのかい!」
信じないよ、というか信じられないよ
『だって(クトゥルー神話の)トリックスターだし』
『じゃからのう』
『ですよねぇ~』
「ぐぬぬ……」
「とりあえず落ち着けお前ら、怒ってたら話し合いにならないぞ?(正論)」
「もういいよ、あとでキミたちに返してあげようかと思ったけどやっぱりやめた、返して欲しかったらこっちまで来ることだね!」
『流石ニャル公流石、汚い』
『クトゥルー神話のトリックスターじゃからのう……』
『こうなると分かっていたら、ハスター様と神主さんも呼んでくるべきでしたね……まあ、わたしたちで頑張ります!』
神主さんって誰だろうか?少なくともあの時いなかったハズだが……
「返してほしくばボクの所までたどり着くことだよ……ニャーッハハハ!」
『焼く焼く焼く焼く焼く焼く絶対焼く!』
クトゥグァさん怖い! ……ひょっとして、向こうのスピーカー壊れたんじゃないかな? 熱で
「……お前は魔王か」
「ボクが魔王だって?失礼な!ボクは究極破壊神だ!」
「はいはい凄い凄い、すごいな~ニャルラトホテプさんは」
「さりげなく流さないでくれないかな!この城では近所でも有数の強さの人間が四天王をやってるから」
「四天王全員人間か……さて、あの邪神三柱の前では何人生き残るだろうね?」
「ぐぬぬ……でも、四人目は人間を超えるために人間であることをやめたとか言っていたからそこで足止めしている隙にボクの計画は完遂する!」
「で、いまあいつらの場所はどこだ?」
「カメラスイッチオン……四人目の所だね」
「はえぇよ……で、どうなってるんだ?」
『コードiFomula X……起動……システムオールグリーン……これより、光の速さであなた達を殲滅します、涙と鼻水の準備はいいですか?』
「こやつが4人目のようじゃな……もっとも、ただのサイボーグならわらわたちにとっては壁にすらならぬがのう」
「…………ニャルラトホテプが4人目に配置したのなら……まあ、ただの壁だったらいいのにね……多分こいつ……対邪神専用の装甲付いちゃってるよ」
「そうですか……1人じゃ無理ですよね?」
「そだよ……『1人じゃあね』」
「わらわたち3人ならば、超えられるじゃろう?」
「いくよ!くーちゃん!バイアクヘーちゃん!」
『iFomula X……デストロイモード』
「感動的だね、でも無意味だよ。タイムリミットはあと五分といった所だ……それまでに勝つことは到底不可能」
『あの娘達が力を合わせても勝てないと思いますか?』
「テレパシーだと!?この声は……」
テレパシーで語りかけてきた声はどことなくクティーラに似ていたが、クティーラよりも大人びていた。そしてその声はあの三人、特にクティーラを信じているような声だった
「ひょっとして……」
「娘がピンチなら、そっちを援護するべきじゃないのかい?クトゥルー!」
『ワタシはクティーラのことを信じていますし、きっとあの娘にハスターの眷属とクトゥグァがついていればあの半人半機程度なら勝ちます』
「根拠は……あるのかい?」
『根拠……とりあえず親のひいき目という事では駄目ですかね?』
「いや、それでいいのですか?クトゥルーさん」
『眠たいのでそろそろ眠りますけど一つだけお願いがあります、アバンスさん……』
「アツトですけど……で、何ですか?」
『娘を……クティーラをお願いしますね』
「まあ……無事に帰ることが出来たら……まあ、分かりました。で、一体どういうことなんですか?」
『では、失礼しますね……』
「ゆくぞ!バイアクヘーどの!クトゥグァどの!」
「はい!」
「うん!」
「うわぁお、竜巻で浮かせてから火と魔法?で攻撃してバウンドさせた所で竜巻で浮かせてから更に攻撃してハメちゃったよあの三人……」
「格ゲーのハメ技のつもりかよ、あいつら……」
「残り二分って所かな?…………まあ、四天王が全滅する事も予想の範疇って言えば予想の範疇だから、四天王の所からボク達のいるこの部屋まではスター75枚ないと永遠に終わらない無限階段にビフォーアフターしておいたからね」
悪魔だ……ここに悪魔がいる……
「一番乗りなのじゃ!」
「はえぇよクティーラ」
なぜか、魔法少女の格好なのだが、そっとしておこう。
「約束通り返してもらうのじゃ!」
「え~ちょっと待ってくれないかい、具体的には一時間位」
「それはちょっとなのか?」
「ちょっと指輪交換して永遠の愛を誓ってもらうだけだから安心してよ」
「その一時間で僕の人生がダークサイドに行くだろ!」
「君とボクが結婚すれば、世界を変える事だって出来る。支配者になることだって、王者になることだって、なろうと思えば神にだってなれる!……なのに、なんでボクを分かってくれないんだい?」
「………………委員長だった頃のお前は知ってるけど、今の……ニャルラトホテプとしてのお前は知らないだろう。だから、その…………せめてもっとお互いの事を知ってから決めてもいいんじゃないのか?…………結婚するしないは別問題だけどな」
最後に大切な事をさりげなく付け足しておく。卑怯?堂々と言ったら酷い目にあいそうだったからね……
「……キミは少し卑怯だよ…………」
「…………まあ……それぐらいのスキルは身に付けておかないとね……」
「……こやつはおぬしよりはマシじゃがのう」
「少し……目を閉じてくれないかい?」
「…………何をするつもりだ?」
「まあそれはお楽しみということに」
ニャルラトホテプの目を見る限りでは、別に悪いことをするわけではなさそうだったので、従っておく
目を閉じていると恐らくニャルラトホテプが鼻息がかかるほどに顔を近付けてきている……
ふと、唇に何か柔らかいものが当たったような感覚……
当たったどころか、くっ付いているレベル……流石にこれには目を開けざるをえない
目を開くとニャルラトホテプの顔がすぐ前にあった。
ドンッ
「お前、いったい何のつもりだ?」
「……キミも少しは動揺したらどうだい?こんな美少女のボクとキスをしていたんだよ?それなのに」
「…………お前なぁ……お前さっきまで敵だったろ?そんな奴とキスしたら流石に事故と割り切らせてもらう」
「……キミはこんな美少女たるボクにキスされても動じないのかい?」
「中身邪神だからな。確かに見た目は美少女だけど中身は邪神だからな」
不覚にもドキッとしてしまったが、動じなかったかのように答えておく……
「じゃあ、確かめさせてもらうよ」
そう言うや否や
ペロッ
頬を嘗められた。……こいつはスタンド使いなのか?
「これは青酸カリ……じゃなかった、麻薬でもない……そう!嘘を付いてる味だよ!」
「何で嘗めた、一応心読めるんじゃなかったのか?」
「血塗られた舌の神の異名をもつボクなら、相手の顔を嘗めるだけで言っていることが嘘か本当か分かるんだよ」
確かに、ニャルラトホテプにはそんな異名もあったような気がする。だが、使いどころはあるのだろうか
「なんだよ、その汎用性がスクゴリの召喚権使ってスクラップ回収並みに低そうな能力は」
「夫が浮気をしていた時に役に立つんじゃないかな?」
「……帰っていいか?どうせ無限階段は降りるときは無効化されてると思うし」
「あの無限階段はどういう条件だったのじゃ?適当に跳んだらこの部屋にたどり着いたのじゃが」
「……アザトホース様に無限階段に致命的な欠陥があったと連絡してくる……ついでに結婚式は延期にするとも」
「いい加減諦めろよ」
例えるなら結婚適齢期を過ぎそうになってる二十代並みにしぶとい……既成事実を作ろうとしてないだけマシかも知れないが
「……もしもし、アザトホース様…………ちょっと新郎の準備が出来てないので結婚式は延期にして下さい…………はい。あと、無限階段に欠陥があったので…………はい?アザトホース様?…………チッ……いえ、舌打ちじゃありませんよ…………はい、分かりました~」
「…………で、何があったんだ?上司との電話で舌打ちしてたが」
「…………欠陥は知っていた、そして欠陥に気付かなかったボクが悪い。アップデートの予定も修正パッチを出す予定もバグシュウセイをする予定もない。『ご覧の有様だよ!』という現状で満足しろとの事で」
完璧に駄目な上司だ、アザトース……部下に舌打ちされている時点で人望が無いに等しい
「更に、結婚式に関しては『お前の事だからわたしに嘘を付いて未来の夫がいないから延期にしたか色仕掛けで誑かしたのはいいものの本当の彼女が現れて修羅場になって彼氏が病院送りになったから延期にしたんじゃないか』とか…………うぅ……」
「…………正直……すまんかった」
こんな事いう奴が僕の上司だったら、舌打ちするのも納得だった。こんな風に見られているニャルラトホテプの方も大概だったが
「帰るぞ、クティーラ」
「さらばじゃ、ニャルラトホテプ殿」
そして、無限階段で悪戦苦闘していたクトゥグァさんとバイアクヘーさんと合流した直後、四人目の部屋で
『コードiFomula X……オーバースキルモード起動……スベテヲマッサツスル』
四人目が強化蘇生していた。……そもそも逃げきれるかどうか自体分からないのだが
「ここはニャルラトホテプにまかせよう」
「何で都合のいいときだけニャルラトホテプを利用しようとしてんだよ、クトゥグァさんは!あとあいつは」
「呼ばれて飛び出てボク、参上!」
「ああ、タイミング見計らって乱入してきたんだな、納得……」
「大分失礼だなキミは……」
『騒音機装……スタンバイ……ディスクシュート……ゴー!』
「漫才してる暇はありませんよ!攻撃して来ました!」
もう元上司(?)含め、全員を殺る気満々なCDの弾幕だった。…………ひょっとしてニャルラトホテプも人望が無いのではないか?
「コードiFomula X……キミの罪を数えろ!」
「お前はいつから二人組のライダーになった!」
「……憎悪の空より来たりて、正しき怒りを胸に、我等は魔を断つ剣を執る!汝、無垢なる刃!」
ニャルラトホテプは持っていた剣を大きく振りかぶり……
『ファイトコード エクスキュベーターMS!』
iFomula Xは弾幕を更に厚くバラまき……
「……もう全部ニャル公に任せていいんじゃないかな?」
「ですね~」
決着はあっけなかった。いつの間にかiFomula Xの背後にいたニャルラトホテプが大剣でフルスイングし、iFomula Xを破壊していた。
「……ボクはしばらく静かに暮らしたいから……クトゥグァ、このダンボールキャッスルを綺麗さっぱり、灰にしておいてくれないかい?」
「はいはい、ニャル公が静かに暮らしたいのなら私は止めないよ」
「さらばニャル!」
そういって、ニャルラトホテプはクールに去っていった。
「……さて、早く外に出てニャルラトホテプさんの言う通りにこの城を焼きましょうか」
そんなこんなで、僕の誘拐事件は幕を閉じた。……と思っていたんだけどね……