そのふぁいなる
(書いたデータ探しも)ナガカッタ……地味にもうこの話を書き始めて一時挫折してアポカリプスデイしつつ死者蘇生しつつパラレルワールドフュージョンしつつラストを書いていたらもう一年、早いものですねぇ。
とりあえず最終話(予定)です
…………最近クティーラの様子がおかしい……ツッコミにもボケにもキレがない……あいつの心はここにあらずといった感じだ……確かあれはガタノゾア騒動の少し後からだったか……?
この事をヨグソトースに聞いてみたが、「多分……いずれ分かる……いずれ…………」と誤魔化されてしまった。よからぬ事でも始める気なんだろうか?あいつは……
流石に本人(というか本邪神?)に聞くわけにもいかなかったから放置しておいた。まさか、邪神連中を巻き込んだあんな大騒動が起こるともしらずに……
ある日、学校から帰ってきた途端、クティーラが何か言いたげな顔で待ちかまえていた……微かに見せる悲しそうな様子から、何か嫌な予感がする……
「……のう、アバンスよ……もし、わらわがいなくなるとしたらおぬしはどうする…………?」
「え、いきなりどうしたんだよクティーラ?」
「……ぬしはわらわの質問に答えればよいのじゃ」
いつになく元気のない、それでいて有無を言わせぬ口調で僕に問いかける……
「……よく分からないけど、多分困惑する……だって、お前がいる状態が普通だったから、ああっと……」
うまく言葉が出てこない……クティーラの真意を掴み損ねているからか……?
「……おぬしにとってわらわとはそのような認識か……まあよい、用事があってルルイエに戻ることになった……ゆえにしばらく……いや、おそらく戻ってこれぬやもしれぬ」
「…………は? おいクティーラ……お前何を……」
「もうおぬしはわらわの眷属ではないのじゃ……わらわとぬしは赤の他人……もうおぬしには関係のない事じゃ……わらわがどこへ行こうともわらわの勝手……そうじゃろう? アツト」
「待てよクティーラ……いつのまに僕がお前の眷属を……」
「全て母上が決めた事じゃ……」
「クトゥルーさんが……!?」
クトゥルーさんが決めたからって、僕は全然納得できない。いや、クトゥルーさんが決めたからこそ納得いかない。なんでクティーラと眷属の僕を引き離そうと……?
「……さらばじゃ、アツトよ……」
「待てよクティーラ…………待てっ……!」
クティーラの手刀によって意識が朦朧とする……
ここで気絶したら……間違いなくもう会えなくなる……そんな事態を防ごうとする一心で僕は必死にクティーラを掴もうとした……
「さらばじゃ……アバンス……」
クティーラを掴もうとした手は、クティーラ自身によって弾かれてしまった…………
「アバンスくん……起きているかい……?」
気が付けば目の前……というか側に心配そうな表情をしたニャルラトホテプがいた……クトゥグァさんと喧嘩していたために遅くなったのだろう。
「今……起きた……」
「なんで口調がヨグソトース様みたいに……ところで、クティーラがどこに行ったか……」
「……!」
「どうやら知っているみたいだね……話を聞こうじゃないか……」
「……クトゥルーが相手、か……これはボク1人じゃ解決出来そうに……それどころかハスターとバイアクヘーとボクとクトゥグァでギリギリかな……? あ、一応ハスターがいなくともヨグソトース様がいるからこれでトントン……それにアバンスくんが加わって……」
「……場所……ちゃんと分かってるのか……?」
「ルルイエだよね? 分かっているよ……まあ、とりあえず集めてからかな」
……そんな感じでいつもの邪神が揃った……クティーラはいないが……
「とりあえず、クトゥルーさんの所からクーちゃんを取り戻せばいいんだよね?」
「そうだよクトゥグァ、大体あって」
「ニャルラトホテプには聞いてないから。アツトさんに聞いたんだけど?」
「……いや……クティーラの真意を聞く……とりあえずは……それだけだ」
そう、僕としてはとりあえずクティーラが僕の前から去った理由、そしてクティーラの気持ちを知りたいだけだった……
「とにかく、ルルイエに乗り込みましょうよ! 話はそれからじゃないですか! クティーラちゃんの気持ちを聞きたいのならまずはルルイエに乗り込んで、それから考えればいいじゃないですか!」
「珍しい…………バイアクヘーがマトモなんて……明日は大嵐……? それともハリケーン? ……ツイスター?」
「さり気にヨグソトースさんが酷いね……とにかく、バイアクヘーちゃんの言うとおり、考えるよりも先にルルイエに乗り込んじゃおうよ! 行動しないと何の成果も得られないんだよ!」
「行動した結果……いや、行動しても、なんの成果も得られませんでしたってなるかもしれないけど、クトゥグァの言うとおりだよアツトくん!」
「ニャルラトホテプ……お前は一言多いんだよ……」
でも、確かにクトゥグァさんやニャルラトホテプの言うとおりかもしれない……このままじゃクティーラに絶対に会えない……
でも、行動したら、1%に満たないかもしれないけど会える可能性がある……どちらにかけるかは最初から決まってる……
「ルルイエに乗り込むぞ……」
「覚悟は……決めた……?」
「ああ。皆……僕を……満足させてくれよ……?」
決戦の地はルルイエ……待ってろよクトゥルーさん、いやクトゥルー……今から僕たちが乗り込んでやる……
「あのー……ひとつ聞きたいのですが……どうやってルルイエに乗り込みます? 私に任せられても4人は無理ですし……」
「…………あっ」
最初から問題が発生した……移動手段が無いのだ。そもそもルルイエは深海に沈んでいるだろうし、日本海側の地域から……だいたい太平洋到達不能極の辺りまで素早く移動する手段なんて限られているどころかほとんど無い。
「……星辰をズラせば……ルルイエを浮上させられる……クトゥルーが強くなるけど……」
「…………どうせ勝てるとは思ってないから戦わずに穏便に済ませる予定だからそうしてくれ。ルルイエが沈んでる深海まで行くのは無理だから」
となると残る問題は太平洋の端っこまでの移動手段だ……とりあえずクトゥルーに気付かれずに移動したいから、なるべく邪神の力を使わずに済ませるか、カモフラージュ出来るような方法を使うかしたい。
「ねえバイアクヘーちゃん、どうにかしてバレずに5人でルルイエに潜入する方法ってないかな……」
「……むむむ……あっ! そういえばハスター様に戴いた錦袋を忘れていました! これに何かいいものが入っているかも知れません!」
そういってバイアクヘーさんは胸元から3つ、の錦袋を取り出し……あれ、なんか某「いまです」みたいな雰囲気がするが気のせいだと信じたい。
「折り畳まれたホープ……のコピーと『呼べぇ!』というメッセージ……ホープを召喚すればいいんですよね?」
「(ホープは)呼ばねぇよ!」
抜けてるバイアクヘーさんに分かるかよこのメッセージ! つまりは自分を呼べというメッセージだろうけど分かりづらい!
「ニャルラトホテプ……黄金の蜂蜜酒、あるか?」
「あ、うん、あるけど……まさか本当にホープを」
「呼ばねえよ! ホープは呼ばねえよ!」
「あ、じゃあ」
「ハスターだよ! 呼ぶのはハスターだよ!」
ったく……大変な時だっていうのにこいつらは……
「計画通りです、フフフ……」
「で、何が計画通りなんだ? バイアクヘー?」
あからさまに表情までも計画通り(某新世界の神のアレみたいな顔)だったので、流石にツッコミを入れざるを得なかった。
「さっきからあーちゃん暗かったじゃないですか! だからツッコミを入れざるを得ない状況に持ち込めばテンションがメゾフォルテくらいには上がるかなーって…………」
「あっ……」
確かにそうだった……クティーラがルルイエに行ってしまってから、ずっと暗くなっていた……邪神連中……いや、バイアクヘーさん達は僕がいつもより暗いのを心配して僕にツッコミを入れさせようとしていたのだろう。
それに気付くと同時に、心配させて申し訳ない気持ちが高まってきた……それはそうと
「メゾフォルテってあまり高くないんだが?」
「……あっ…………」
「………………」
「…………あーちゃん、あんまり人の揚げ足取るようなことばかり言っちゃうと、|『(無言のブックス!)』(ピッー!)しますよ?」
「いや……普通に言い訳すれば良かったんじゃないか?」
あんまりテンションを上げすぎたらいけないからとか、そういう言葉を予想していたんだけどな……
「よかれと思って……黄金の蜂蜜酒と石笛を持ってきた……」
「ありがと、ヨグソトース……あれ? 今更だけどこれってハスター本人じゃなくて」
「何を言っているんですか? 私がハスター様を召喚するんですよ? 石笛を使って」
「…………そうなのか?」
今更な事だけど、たしか原典ではハスターじゃなくてその眷属のバイアクヘー(種族名の方)を召喚する儀式だったと思うのだが……まあ、そういった設定のズレは原典からあるから問題ない……とでも言うと思ったか! バイアクヘーさんはまだまだだな!
「蜂蜜酒……あ、口移し」
「やらない」
「しょぼーん……」
イマイチ分かりづらいから補足するが、バイアクヘーさんが口移しで黄金(略)を飲むか聞いてきたので丁重に断った次第だ。
蜂蜜酒ぐらいバイアクヘーさんに手伝ってもらわなくとも自分で飲める。あ……お酒は二十歳になってから(棒)
「召喚しますよ……? 『いあ! いあ! ハストゥー! ハストゥー、愛! 愛! ハストゥー!』」
途中端折られた気がしないでもないが、バイアクヘーさんがハスターを呼ぶ呪文を唱え終えたと同時に、バイアクヘーさんを中心に小型の竜巻が発生した……
そして、竜巻の中から体感的には結構前に聞いたことのある少女(?)の声が聞こえてきた……
『…………復活の呪文が違います』
「……ぶちころがすぞハスター」
『………………なぁんちゃって! 面白そうな事になってるみたいじゃないかバイアクヘー!』
「ところでハスター様、どうしてつむじ風経由でメッセージを?」
『…………クティーラを連れ戻したいから時間稼ぎにオレにクトゥルーのサンドバッグになれと言うつもりだと思ったんで、念のためにあえて本体は顕現させなかったんだが?』
「……ヘタレ」
「やーい……骨無しチキン……」
「あえて言おうか! カスで虫けらで腑抜けの腰抜けだと!」
情け容赦無い! クトゥグァさんもヨグソトースもニャルラトホテプも毒舌過ぎだ!
「風の化身なのに臆病風に吹かれてるな、お前……」
まあ、締めにこんな事を言った僕も同罪だけどな。
『ムカつくなてめぇら! なんでオレに気持ち良く休ませてくれねぇんだよ! オレはスヤスヤと眠っていたいんだよ! 分かったらルルイエに送ってやるから口を慎みめ!』
意外とヘタレというか……その……言質のとりがいがある奴だ。それこそどこぞのサッカー部員みたいに……
「あ、ハスター様、最後にお願いが……」
『力を下さいってか?』
「はい!」
『力なら……くれてやる!』
ハスターのその言葉が部屋に響いた瞬間、風は一層強く、竜巻は逆に小さくなり、やがてバイアクヘーさんに呑まれて消え、何事も無かったかのように静かになった……そして、心なしかバイアクヘーさんがパワーアップしたような気がした……
「行きましょう皆さん! いざルルイエへ!」
待ってろよクティーラ……お前が行った理由は知らないけど、今から会いに行ってやる……!
「そろそろ教えてくれぬか、母上よ……何故にわらわとアバンスを引き離したのじゃ……?」
深き深遠の地、ルルイエにてクティーラは母に対して問う……クティーラは母に言われた通りに自身の眷属に一方的に言い、そして別れ、ルルイエに戻ってきたのだ。そうせざるをえなかった理由を知らされずに……
クティーラはそれを訝しんでいたのだが、結局母に聞けずに別れてしまった……
「……そろそろ話してもいいかも知れませんね、クティーラ……わたしがあなたをルルイエに呼び出した理由を……」
「………………」
「単刀直入に言うわ、あなたのお見合いをするためよ」
「……!? なぜじゃ、母上……?」
「……あなたと『アツト君』は釣り合わないからよ……いつまでも眷属といるわけにもいかないでしょう?」
「だから……だからといってあのように別れる必要は……」
「いえ、必要よ……なぜなら……」
「……母上、久しく陸に上がった故に狂気に陥ったか……?」
お見合いのとんでもない全容を母親に聞かされたクティーラは半目でクトゥルーを睨みながら母親に対し呟く。
「……クティーラ、あなたには礼儀というものが足りないわ……それに、あの子が来なかったらそれまでということよ……」
「………………早く来るのじゃ、アバンスよ……」
ハスターの風の力でランクアップしたバイアクヘーさんの力で、五分足らずで全員ルルイエに無事(?)に到着した……風が凄くて死ぬかと思った。(小並感)実際黄金の蜂蜜酒無しだと即死だっただろうが。
「流石はハスター様です! スピードの中に溶け込んで風そのものになってしまいそうな速さでした!」
天使のような羽根を背中に展開しながら、そんなイマイチ分からない事をバイアクヘーさんが言う。
「うー……バイアクヘーちゃん、急いでるのは分かってるけど、早すぎるんじゃないかな……?」
今にも倒れそうなくらいにフラフラのクトゥグァさんがバイアクヘーさんに対して呟く。フラフラで済んでいるクトゥグァさんは比較的にはマシな方で……
「アツト君大変だよ! ヨグソトース様が息してない!」
ニャルラトホテプが自身もいまにも倒れそうなくらいに青い顔になりながらも、ぐったりとしているヨグソトースを抱きかかえていた。
「ありがと……」
多少ふらつきながらも、立てる程度にまで回復したヨグソトースが僕に礼を言う。
「……そもそもさ、なんでお前邪神なのにバイアクヘーさんに乗ったぐらいで死にかけたんだ? あと、その……ショック療法した場所痛くないか?」
「……? ショック療法?」
「……あー、痛くないならいいか……いや、さっきお前が気絶してた時に息してなかったから……人工呼吸するわけにもいかなかったから……ちょっとな」
「…………そう」
そう言ってヨグソトースは胸のあたりを押さえ、
「……アバラの2、3本は持っていかれたかも知れないけど大丈夫……」
そんなとんでもない、衝撃の真実を明かしてきた。
「…………僕に出来るようなことなら何でも命令してくれ。お詫びに何でもするから」
「ん? 今」
「ニャルラトホテプには関係ないだろ? なに反応してるんだ?」
「……ん、じゃあそのうち……命令する」
「分かった……」
この話の決着がついたところで、改めて辺りを見渡す……見わた……
……幾何学的なワケの分からない神殿めいた謎の建造物(あくまでも神殿のような建造物である)の数々に、頭痛や吐き気をもよおしてきた……黄金の蜂蜜酒が無ければ|ゼロリバース(隠語)していた……
「SAN値が下がりそうだったらちゃんと言ってね? アツトさん……SAN値の減少を抑えるためにいざとなったら目を隠しながら進んでもらうから……」
クトゥグァさんの言葉が非常に心にしみる……原典での放射能で狂ったという設定はどこにいったのだろうか?
他が奇人変人なだけに……逆か、元々クトゥグァさんもそっち側だったけど放射能でこっち側にきたんだろうか? ……それでもやはり、邪神の中で一番まとも(な部類)だ。まだ見ぬメジャーな邪神としては、ノーデンスやツァトゥグァもマトモだったりするのかもしれない。あとは昔出会ったイタクァさんもマトモだったような……
「っ!?」
ルルイエ入り口付近に突如、地響きが響き渡る……そして数秒送れ、土砂降りの雨のような水の音が響く
「…………ぁ……」
気になって音の方を振り返ったのだが……正直、見なきゃ良かった……それの姿をみた途端に絶望した……
見上げるほどに巨大なその魚人の姿を見たら、どんな強い邪神ハンターでも真っ先に逃げることを考えるだろう。ましてや、僕は周りを邪神が囲んでいるが僕自身はただの人間、邪神ハンターですらない人間だ。
そんな僕がはるか見上げるような魚人……この神撃の魚人に対して何が出来るだろうか? いや、何もできはしない。ただ自身が踏みつぶされ、餌にされる瞬間を待つか逃げるかしかない。
「こりゃあちょっと骨が折れそうだね……ねえバイアクヘーちゃん、ここで一緒に戦う勇気、ある? 別に無理強いしないし、ルルイエ内部に逃げ込んでもいいんだけど」
「あーちゃん達を守るためなら私、何でもやります! 首の辺りを狙えばいいんですよね?」
「……部位によってはツッコミいれないといけないけど、まあ今はいいや……任せました、クトゥグァさん、バイアクヘーさん……」
ダゴンだかハイドラだか知らないが、クトゥグァさんとバイアクヘーさんに任せておけば1体くらい大丈夫だろう。そう思った矢先だった……
海から何かが飛び出す水音が響き、地響き、そして再び水音が響き渡った……
ダゴンとハイドラの2体が揃ってしまったのだ……しかし、不幸中の幸いと言うべきか、まだ僕らがいる……そして逃げようと思えばいつでも逃げられる状態だった。しかし
「あーちゃんたちは早く行ってください! ここは私たちがどうにか食い止めます! そうですよね! クトゥグァちゃん!」
「……うん、そうだよね……私は火の神なんだ、だからあの程度燃やし尽くして焼き魚弁当にシュート……!」
「……危なくなったら逃げてくださいね!」
もうこの2人には何を言ってもダゴンハイドラと戦うだろう。もうこうなったら2人の無事を祈るほかあるまい……
「…………わたしも……残る」
「ヨグソトース様……?」
「……クトゥグァとバイアクヘーだけじゃ……だいたい五分五分だから……」
「うぅ……じ……じゃあボクだって」
「ニャルラトホテプはアツトさんについて行って! ルルイエに人間1人だけ送り込むなんて狂気の沙汰だし!」
みんなが……僕1人……いや、僕のわがままのために……
「強くなりたい……僕も……強く……」
「アツト君…………大丈夫だよ、君にはボクらにはない強さがある……道を間違えなければ、その強さは更に磨かれる事になる……」
「……ああ」
つい、反論したくなったが、この状況で喧嘩出来るほどの時間はない。早くクティーラの元に行かなければならないのだ……そう、一刻でも早く……
「ハイドラとダゴンにはバイアクヘー、クトゥグァ、ヨグソトースが応戦、と……ハスターの匂いはあのバイアクヘーの子からかしらね……そしてアツト君とニャルラトホテプがルルイエの中に……」
クトゥルーがクティーラに対して独り言も兼ねて呟く……こうでもしないと親子間の深く大きな溝、そして恐ろしいまでに無言なクティーラとクトゥルーの間の雰囲気をごまかせそうにないからだ。
「……アツト君とはタイマンで話し合いたいのにニャルラトホテプが邪魔ね……ご退場願おうかしら……」
「……何をするつもりじゃ?」
ようやくクティーラがかなり不機嫌そうに口を開く。敵を見るかのような目で母親を見ながら……
「離間の計といって理解出来るかしら? ……いくら固い絆でも、きっかけさえあれば一時的に崩れる。私の策に必要なのはその一瞬の隙、ニャルラトホテプをルルイエから追い出す為の隙よ……」
「母親……なにゆえにそこまでやる必要があるのじゃ……!」
「ニャルラトホテプに来られたら邪魔なのよ、私にといってはね……」
「ねえ、アツト君……君はクティーラに会って、どうするつもりなのかな……?」
ルルイエの内部を進んでいると、急にニャルラトホテプがそんな事を聞いてきた。
「どうするつもりって……とりあえずはあいつが呼ばれた理由を」
「その後だよ……もし、クティーラがルルイエにいるのを望まなかったら……どうするつもりなのかな?」
「それは……」
言葉に詰まったのから別の意図を受け取ったのか、更にニャルラトホテプが言葉を続ける。
「キミは怖かったはずだよね? 邪神によって人生がメチャクチャになることを……でも、今からキミがやろうとしているのは旧支配者の最強の一角、クトゥルーに対する反逆行為だよね? なんでクティーラのためならこんな事までするのに、ボクの愛を受け入れてくれないのかな……?」
「……それは……僕がクティーラの眷属だから」
「じゃあもっとおかしいよね? あまつさえクティーラが勝手につけた『アバンス』という名前や眷属になることを受け入れて、そしてクティーラが親によって呼ばれただけなのに助けに来た」
「助けに来たわけじゃ……」
そう、助けに来たわけではない。ニャルラトホテプは勘違いしているようなのだが、あくまでもルルイエに帰ってこさせられた事情を聞きに聞ただけなのだ。
「言い訳するのはね……悪なんだよ、アバンス君……」
「っ……!」
ニャルラトホテプに頬を思い切りはたかれ……いや、殴られた……強く殴られた……
「ラブコメの主人公にサブヒロインの気持ちが分かるかい? 儚い想いさえも無視され、そして踏みにじられ、そしてサブヒロインの苦しみが無かったかのように、愛する人をメインヒロインに奪われていく悲しみ、怒り、そして妬みが……!」
ニャルラトホテプの心の闇をすべて吐き出すような言葉に、辛うじて反論しようとする……
「だから……僕は……!」
「…………もういいよ、アバンス……君には失望したよ……そこでゆっくりと世界の滅びを静かに見張っていればいいんだよ……さようなら」
そう行って、ニャルラトホテプはこちらに目もくれず、どこかに立ち去って行ってしまった……
「……僕は……誰も救えない……」
「いや、そんな事はないよ」
「……っ!?」
僕以外の誰もいなくなったはずの空間に、誰か……少年のような声が響き渡る。
「……誰、だ?」
「ボク? ボクはニャルラ……トロン、ボクの事はニャルラトロンとでも呼んでくれるかな?」
「姿を見せたらどうだ……?」
「それもそうだねっと……」
突如誰も居なかった場所に、仮面を付けた少年……推定少年、が現れた。携帯……というかスマホを片手に持ちながら……
「あ、ちょっと待っててね、ニャルラトホテプの事を報告しないといけないしっと……ああ沙耶、いやサーシャか…………うん、コードネームで呼んだって事は、ひょっとしなくても仕事だよ。しかも緊急の、ね……要項? ニャルラトホテプの追跡だよ……いやいや、日本の……ボクが今どこかって? ……ねえ、ここどこ?」
「……ルルイエだ」
「ああそうそうルルイエだよ……星辰? ボクが? まさか、そんな事するわけ……あのね、ボクがそんな事して……まあいいや、とにかくそんなワケだから、早く追いかけちゃってね~異世界に逃げても黒いライダーみたいにしつこく追跡……あー……キミとの世代の差を感じたよ……うん、じゃあね…………まったく……日本のニャルラトホテプはつくづく御し難い生き物だよ……キミもそう思うよね?」
「……お前……何者なんだよ」
「ボク? ウィルマーズ・ファウンデーションのトップにしてアメリカのニャルラトホテプ、ニャルラトロンだよ」
ウィルマーズファウンデーションのトップがニャルラトホテプだとか、ニャルラトホテプが複数いるとかそんな所を問いつめたくもあるが、後回しにして大切な事だけを聞く。
「……何でルルイエにいるんだ?」
「何故って、スーパー邪神対戦を覗きに……もとい、日本のニャルラトホテプがクトゥルーの策にまんまと引っかかっちゃったのが気になったからね……」
「クトゥルー……さんの……策?」
「そうだよ。キミは離間の計っていう諜報のタイプを知っているかい?」
「一応は……」
「クトゥルーはあれをキミ達にしかけたんだよ……そしてキミとニャルラトホテプの間をギクシャクさせたかったみたいなんだよ……結果は予想以上かもしれないけどね……」
「……クトゥルーが」
「なに?」
「クトゥルーが……こんな事を……?」
「まあ、厳密にはクトゥルーがあのニャルラトホテプの心の闇を引き出したからかな……」
つまりはクトゥルーがやったという事だ……よくもこんな計略を……!
「さあ、進むんだよ、少年……クトゥルーはすぐ目と鼻の先だよ……」
ニャルラトロンに言われるがままにクティーラとクトゥルー……いや、クトゥルーさんの場所へ進もうとした足を直前で止めた。少し引っかかる所があるからだ。
「……なあ……なんでお前はそんなに僕とクトゥルーさんの対立をあおって……いや、正確に言うなら、なんで僕をクトゥルーさんに対してけしかけようとしてるんだ?」
「それは……」
「僕の目的はあくまでもクティーラに会うことだ。間違ってもクトゥルーさんと喧嘩しようっていうワケじゃない。」
危なかった、もう少しでこいつの思惑通り、クトゥルーさんと仁義無き戦いをするところだった……
「…………勘の良い子供は嫌いだよ……確かにボクはキミを利用しようとしたさ。でもそれは人類のためだよ……」
「なにが人類のためだよ……!」
「ねえ、知っているかい? 対邪神組織のトップの間でキミの事が噂になっている……」
ひょっとして……ガタノゾア騒動の元凶の誰かも……
「そりゃあそうだよねぇ、クトゥグァとニャルラトホテプの間に挟まれて、ヨグソトースと仲が良くて更にはクトゥルーとバスターにも繋がりがある……こんな生きる爆弾がしかも手出しをし辛い極東の島国……日本にいたら、気が気でならないだろうね……邪神からしてみれば半端に……人としてはかなり力を持っている、対邪神のハンターからしてみれば。自分達が力を持っているからこそかな……? ああ、一応言っておくけど、ボクは君の存在を危惧していなかったよ……」
「……じゃあなんで今になって」
「心当たりがあるんじゃないかな? 今回の騒動、キミはルルイエに上陸するために何をした?」
「あっ……!」
つまりトロンはこう言いたいのだろう……
『ヨグソトースの力を使ってルルイエを浮上させたから、穏健な対邪神組織も動かざるを得なくなった』、と……
「そもそもキミが抱える爆弾は破壊力が強すぎるんだよ……一般にクトゥルー神話で語られる邪神のトップクラスばかりを周囲に侍らせ」
「……誰がヒモだって?」
「誰もヒモなんて言ってないけどね……まあいいや。ツァトゥグァとかそういう穏やかな邪神なら観察程度で済んでいたんだろうけどさ……一般的にクトゥルー神話として語られている物語のうちキミのハーレムのメンバーがメインを張る場合が多いんだよ? つまり」
「ハーレムって呼ぶな」
「つまり、キミ自身は邪神のなりそこない程度の力しか持っていなくても、周りの邪神の力が強大かつ凶悪なんだよ……それこそ、地球を199X年にしかねない程の力なんだよ……」
「でも……あいつらはそんな事は」
「もしも、どこかの目先の事しか見えないアホな邪神ハンターがキミを殺しちゃったとしたら?」
「…………」
確かに、ありえない話ではない……いつの時代、どこでも権力者のやることは保身だ……目先の事しか考えない奴によって僕が殺されるという未来は想像出来る……そして、僕の周りの邪神が仕返しをするという事も……
「ボクがキミが生き延びる出来るアドバイスは2つだよ……1つは邪神と別れて人の中で人として暮らす……」
あくまでも目の前ののニャルラトホテプとしてはおそらく進言のつもりなのだろうが、僕としてはこっちを選ぶというのは、例えるなら子供向けの特撮番組のスペシャルで視聴者に2つの選択肢を選ばせておきながら、どちらもバッドエンドという位にありえない。
つまり、そもそも選択肢にすら入らない。
「僕がそっちを選ぶのはあり得ない……」
「……なかなかに強情だね……まあいいや、もう1つはね、キミ自身が邪神になることだよ……」
「僕が邪神に……?」
「そう、キミが邪神になれば全て解決するんだよ……全て、ね……」
そう、僕に言うニャルラトロンの仮面越しに微かに見える瞳は、まるで獰猛な獣のようだった……
「…………母上、念のため聞くのじゃが、見合いはいつ始まるのじゃ?」
クテイーラが苛立ちをかけらも隠そうとせずに、母親のクトゥルーに対して問いかける。
「相手が来たら始めるつもりよ……先回りするけど、アバンス君があなたを攫って行こうとしていた場合は、全力で叩きのめすつもりよ……」
「母上……!」
「ワタシ的にあの子は気に入っているけど、あれとこれは話が別よ……お見合いを計画していたのに花嫁を攫われました、なんていう事態が起こったらワタシはしばらく笑い物よ。」
「じゃが……じゃが、ニャルラトホテプとアバンスを仲違いさせる必要は無かったじゃろうが! もし殺されておったら……!」
「結果的には生きているから問題はないわ、クテイーラ。もし、ニャルラトホテプによって殺されてしまったら、あの子は所詮その程度だったってことよ」
「…………アバンス……」
クトゥルーの言葉には途中から耳を貸さずに、クテイーラは半分無意識に呟いた……
「この扉の向こうにクテイーラが……?」
僕はルルイエの最深部にある、とてつもなく巨大な扉の前にいた……まるで、巨人の進撃も防げそうな大きさの扉だった。
その扉はよく見れば何か絵のようなものが刻み込まれていた……目をこらして見ようとしたが、部分的に見た時点でSAN値が削られた気がしたので、刻み込まれているなにかは見なかったことにした。全部見たらよからぬ事が始まりそうだったから見ないという選択は間違っていなかったはずだ。
『確かに、その扉の絵を見続けたら発狂するよ……良く気付いたね、未来の邪神君』
「人の心を読むな。というかお前はどこに」
『ちょっとティンダロスのワザを使ってキミの影に』
「要件は済んだんだからもう帰れよ」
『……まあいいや、もしキミが約束を破って人のまま邪神ハーレムを構築していたらその時は』
「だからハーレムじゃない」
『ティンダロスの猟犬を2匹使って大岡裁きかな?』
想像するだに痛い……というか痛いでは絶対に済まない。……遺体になるな……
『じゃあね~生きていたらまた会おうか』
「生きていたらっておい……」
まあ、確かにニャルラトホテプの言うとおり、死ぬ可能性もある……というか死ぬ可能性が結構どころかかなりある。
今から邪神最強クラスのクトゥルーと殴り合いになる可能性だってあるのだ。もし、仮にそうなった場合、ただの人のままだったら一方的に殴られて蒼に染まり、愛をとりもどせずに終わってしまう。
そうならないためにも、邪神の力が欲しい……クテイーラを取り戻すためなら悪魔神王にも偽骸神にもなってやる……! 流石にサラマンダーになるのは御免だが。
「……やっぱり開けてクトゥルーを無視してクテイーラに接触して逃亡した方がいいよな……」
後ろを向きながらも一応前向きに考えている僕だった……まあ、これがうまくいくはずがないのは最初から分かっていたのだが
「最後に言い残したい言葉はありますか? アバンス君?」
僕を踏みつけながら、クトゥルーさんがそう問いかける……ちなみに突撃から一分も経っていない。
入ってすぐ見えない触手に掴まれて(もうこの時点でパターンに入った)、クトゥルーさんの元に引き寄せられて、引き寄せられた勢いを生かした腹パンを右手をリリースして辛うじてガードしたのはいいものの、蹴り飛ばされてダウン中に右手を|オーバーキルされ(踏まれ)てそして右肩を蹴られて倒されて踏まれてチェックメイト。どこぞのDNAだってもう少しマトモに戦うぞと思うくらいに超一方的な戦いだった。あと右腕が痛すぎて感覚が半分麻痺してきた……パンチを受け流さ踏まれてれ肩を蹴られ更に踏まれた。『少年よ、これが絶望だ……ターンエンド』の例のシーンもかくやという酷い有り様だった。
「|少年(アバンス君)、これが絶望よ……さて、あなたの人生のエンドフェイズに移りましょうか……」
「まだ僕の人生にはメイン2が残っていますよ……!」
自分でも少し驚いたけどまだ軽口叩く余裕は残っていたようだ。もう痛みを感じなくなってきたからかも知れないが。
「さて、じゃあメイン2にどんな逆転劇を見せてくれるのかしら、アバンス君?」
勝手にバトルフェイズからメイン2すっ飛ばした感じにエンドフェイズに移られたからメイン2が残っているとはいったもののどうしようか?
もういっそのこと諦めたようなプレイングでもしようか。思わぬ逆転劇が起こるかも知れないし。
「冥土の土産……っていうわけじゃないですけど、いくつか聞いて良いですか?」
「あら、諦めたのかしら、アバンス君?」
「……まず、クテイーラをルルイエに呼び出した理由はなんですか?」
「ワタシがクテイーラを呼んだ理由? それは……本人に直接聞くべきじゃないかしら?」
確かにそうだったかもしれない……本来はクテイーラに直接聞いた方が手っ取り早いのだ。でも、直感的に聞けない気がしたからクトゥルーさんに聞くことにしただけだった。
「……だとさ、クテイーラ……教えてくれないか? クテイーラ」
「…………嫌じゃ……わらわの口からは言いとうない……」
「……クトゥルーさん?」
「……はぁ……あなたはいつまでたっても子供なんだから……あ、クテイーラを呼び出した理由だけど、端的に言えばお見合いの為によ」
「お見合い……!? 誰とのお見合いだよクテイーラ!」
「…………………………それも母上に聞いてくれぬか? わらわにも心の準備というものがある……」
さっきからクトゥルーさんに流してばっかりだな、クテイーラ……それほどこの件に関しては何も言いたくないということなのだろう。
「…………この子のお見合いの相手……それはね…………未来のあなた自身なのよ」
「ふざけないでくださいよ」
「だからあなたがお見合いの相手なのよ……まあ、邪神になった後のあなたならクテイーラとの結婚を認めるつもりよ」
「け……結婚じゃと!? 母上!? 話が飛躍しすぎじゃ! わらわが聞いた説明じゃと」
「あなたには周りへのアピールだけと言ったわね……あれは嘘よ」
「え……?」
クテイーラがフリーズしやがったので、一応僕が先を聞いておくしかあるまい。
「ところで、いつから決まっていたんですか?」
「この前にあなたの家を訪れた時には既に決まっていたわ……あ、一応あなたの両親には許可はとったわ。娘……あ、息子をくださいってね……」
「サラッと誤解されるような感じの聞き方で聞かないで下さいよ……あと今、娘って言いかけましたよね」
「大丈夫よ……勘違いしたあなたの父親ならちゃんと2人掛かりでシメ……説得したわ」
「説得(物理)ですよね、言いかけた内容からして」
「そして……あなたが人間をやめて邪神になることも、認めてくれたわ……」
……どうやら、僕が人間をやめて邪神にランクアップするというのは親公認の進路のようだった。
「……もう命狙われたくないので邪神になるのは良いんですけど……どうするんですか?」
「………………本来ならもうとっくに邪神として覚醒しているはずよ?」
「でもまだ覚醒してないんですよね?」
「……クテイーラ、こっちに来なさい……」
「ん……? わらわはなにをすればよいのじゃ?」
クトゥルーさんに呼ばれ、クテイーラは何をするか知らずに、クトゥルーさんと僕の隣に来た。ちなみに僕は未だに足で拘束されていた。
その事を思い出したのか、クトゥルーさんは僕から足を退けてクテイーラにこんな事を言った……というか言いやがった。
「クテイーラ、アバンス君に抱かれなさい」
…………いやいやいやいや!? ちょっと待ってくださいよ!? つまり僕がクテイーラと……そういうことをしろと!?
「母親の言うことですかそれ!?」
「ははは母上!? なにゆえにこのような状況でそのような事を」
「あ、間違えたわ。正しくはキスしなさいだったわ」
「ど……どんな間違いですか……?」
「む……まあ……そのくらいならすぐにやってやらんでも……」
「舌を入れてね」
「はぁぁぁぁぁ!? 流石にそこまではお断りじゃ!?」
「ハードルが高すぎるんですけど!!!!?!!!!?」
「流石にディープキスは嘘よ」
凄くもてあそばれている気がする……というか実際もてあそばれている……そんなにおもしろいかな、僕らのリアクション……多分面白いからクトゥルーさんにもてあそばれているんだろうけど……
「……本当に、キスすれば邪神になれるんですか?」
「…………ええ」
「なんですか、その意味深な間は」
「大丈夫よ……ワタシならアバンス君がどんな怪物の姿になろうとも……多分養子として愛する自信があるわ」
「凄く不安なんですけど……」
まあ、クテイーラ達と一緒にいるにはこれしかないのだ……
まあ、人類のために僕1人が邪神になるという運命を受け入れる……という建て前にすれば、僕が幸せだし、邪神連中も幸せだし、僕の死によって暴走した邪神に世界が滅ぼさる可能性がなくなるから人類が幸せだから……みんなハッピーだ。
「そういえば、なんでさりげなく2人ともキスすることを受け入れているのかしら?」
サラッと地雷を踏まないで下さいよ、クトゥルーさん……自分でもまるで意味が分からない……正体不明のこのクテイーラに対する感情の正体をまだ僕が知るときではないつもりだったのに……
「…………そういえば、なんでじゃろうな……? 強いて言えば、アバンスと一緒じゃと幸せじゃからかの?」
「それ……多分だけどさ……恋だよクテイーラ」
「そうかそうか、恋じゃったか…………恋じゃと?」
僕の言葉を反復した直後、クテイーラはフリーズした……無理もないだろう。心の中がまだ子供のクテイーラには刺激が強すぎるのだ……ドロー中毒の外人にとってのカーDぐらいに。
「…………落ち着くのじゃわらわ……ただ目覚めた直後にそばにおったというだけじゃろうに……長い眠りの孤独の直後、1人じゃったわらわのそばにずっといただけのただの人にわらわが恋なぞするわけが……」
「……よくよく考えてみると……お前が僕に恋をするのは割と必然だったんじゃないか……? だいたい、最強決闘者のドローぐらいに」
……自分はどうなのだろう。多分、イマイチ自覚はないけどクテイーラの事が好きなんだろうけど、どうして好きになったのか、いつのまに好きになったのかが自分でも分からない。
……ひょっとして、僕の方には理由なんてないのかもしれない。気が付いたらクテイーラの事を好きになっていた。この一言で済む話だ……
「あら、アバンス君は現実主義者ね」
「物語みたいに恋する事には理由が必要って事はないと思いますけど?」
というかさり気なく心を読まないでほしい。
「早くしないとギャラリーが増えますよ、アバンス君、クテイーラ?」
「そそそ、そんな事は分かっておるのじゃ! ししししかしかかか覚悟がまだ」
「そう……」
そう、落胆したようなふりをしつつ、少し嬉しそうな声でクトゥルーさんがクテイーラに返事をし……
「じゃあワタシがもらうわ」
そう言い、僕に抵抗する間も与えないくらいに素早く、僕にキスをした……そう、クテイーラではなくクトゥルーさんが、僕に、キスをした……
クトゥルーさんが 僕に キスをした
「はははははは母上!? わわわわわらわの」
「アバンス君……あなたの初めての相手は…………ワタシよ!」
「………………な……にが……始まるん……です……?」
「NTRよ」
上品に手を口元に当てながら、クトゥルーさんがとんでもない爆弾……さっきの発言がC4とすると今の爆弾発言は核爆弾並みだ……を投下してきた
「ななななにゆえにわらわの婿を寝取るつもりなのじゃ母上は! いいいいくら母上でも今回は許さぬのじゃ!」
「でも……もう一つの初めてはクテイーラに譲ってあげようかしら……?」
……言えない……クテイーラも忘れているかも知れないけど、キス自体初めてじゃなかったなんてとても……
「お待たせ! 元アバンス君! クーちゃん! あとお久しぶりですクトゥルーさん!」
「遅くなった……待った……?」
「あーちゃんもクテイーラちゃんもO☆MA☆TA☆SE! ……あーちゃんのアホ毛……はぁはぁ……」
皆の来るタイミングが悪いんですけど……こんな時に来るか!? っていうくらいに酷いんですけど……
むーりぃー……この場を収めろなんてむーりぃー……一応これで邪神にはなったけどむーりぃー……
というかいつの間にか|オプション(アホ毛)が追加されてるなんて知らないんですけど……
「立った……アホ毛が立った……」
「むっ! アバンスのアホ毛から察するに、近くにティンダロスが潜んでいるようじゃ!」
「ティンダロスね……アバンス君なら余裕よね?」
「「覇」……?」
「記念すべき邪神としての初陣ですね!」
「いつものリズムとかっとビングを忘れたら駄目だよ!」
「|超次元連死(ティンダロスの猟犬)に殺されかけ、助けてほしかったらわらわの名を叫ぶが良いぞ、アバンスよ……フフフ……!」
「「覇」?」
……僕と邪神連中の関係は僕が邪神になったところで、未来的に邪神との関係が変わるかどうかはさておきとりあえずは変わらないようだった……
まあ、邪神との関係はさておき、今現在肝心なのはすぐそこまでティンダロスの猟犬が迫ってきているというさり気なくあかされた衝撃の真実である。
急に鼻を刺すような酷い悪臭とティンダロスの気配を感じた。
「初っ端からティンダロスとかハードルが高すぎるだろうがぁぁぁぁぁぁ!」
ルルイエ及びその周囲に、邪神見習いとなった僕の叫び声が木霊した……
嵐が去った後……僕の体はボロボロでベトベトでヌルヌルでドボドボだった……謎の白みがかった粘液と涎のせいで
「…………はぁはぁ……ヌルッとした白い液体まみれで女の子座りしてるあーちゃん……はぁはぁ……」
「駄目だよバイアクヘーちゃん! 確かに今のアバンス君は艶めかしいけど、くっついちゃったら色々と危ないよ!」
「まあ、なんじゃ……その……気にするなアバンスよ……犬に嘗められたと思って」
「実際に嘗められたんだから全然フォローになってねぇよ」
というかクテイーラは本当にフォローが下手だな……僕はどっちも嫌いじゃないけど。
「あのねクテイーラ…………」
クトゥルーさんがそっとクテイーラに耳元で何かを伝える。おそらくフォローが悪かったとかそういう話だろう。
「……のう、アバンスよ……その服の汚れ……洗い流してやろうか?」
「見返り如何によっては却下するけどな」
「見返りはもちろん…………わらわとずっと一緒にいることじゃ。病めるときも健やかなるときも、開闢から終焉まで、無情から超絶奇跡……ゼロからインフィニティー! まで、ずっと一緒じゃ! 悠久を統べる邪神になろうぞ!」
何故インフィニティーで力むのかやら、途中シャングリラと鬼羅が混じってたとか色々ツッコミたかったのだが、流石にこの状況では無視しよう。
クテイーラの言葉に対する答えはもちろん決まっている……最初から決まっていることじゃないか……
「ああ!」
「よし、そうと決まれば即刻汚れを洗い流すのじゃ! 変身! からの、カードセット『タイタンクラッシュ』じゃ!」
僕の返事を聞くやいなや、クテイーラは魔法少女モードに変身し、いつぞや使っていた杖にカードをセットした……カードからして既に嫌な予感が鬼ぷんぷんだが、気にしないでおこう。
「マッシヴアタァック!」
クテイーラがそう唱えると、杖の先から勢い良く水流が吹き出した……それはそれとして
「マッシヴ関係な……っ」
ツッコミをするんじゃなかった……汚れが洗い流されたかどうか聞かれれば洗い流されたのだが、僕自身も水流に流された……
「あーちゃん大丈夫……?」
水流に流され、壁に叩きつけられる形で押さえつけられるのを見ても大丈夫に見えるだろうか……?
いや、まあちゃんと気遣いの言葉っていうのは分かってるけどね、うん……
「……こんなんじゃ、いつまで体が持つかな……一応僕邪神だけど」
……まあ、とりあえず限界がくるまではクテイーラとは一緒にいようかと思う。それがたった今僕とクテイーラが交わした契約だから……
……ヨグソトースとの約束は……まあ、要はニャルラトホテプを許すという約束です




