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落ち着いたところで、食券を買ってご飯を受け取る。
雪路はAランチにすることにした。エビフライとイカリングのタルタルソース掛けとご飯とコンソメスープ。サラダはポテトサラダに申し訳程度にレタスと千切りキャベツが添えられている。
これで600円。
この学園は良家の息子や娘が多く通うが、それだけではなく試験に受かれば中流階級の家庭も通うことができる。少子化のため実は三分の二は中流階級の人間だ。
なので、食材は良い物を使っているのだが安めの価格設定で庶民的なものが多い。
雨流は、掻き揚げうどん450円を選んでいた。和食を頼むことが多い彼だが、雪路は未だにうどんを食べる姿は見慣れない。
レアステーキが似合いそうな獰猛な顔をして、うどんを啜らないで欲しい。
面白くて噴出しそうになる。
正面には座らないようにしよう。そう決意しつつ、手近なところに座る。後に来ていた雨流が正面に回って席に着いた。
ちなみに、雪路がテーブルに近づいた瞬間にそこは波が引くように空く。
魔王の効果である。
「雨流、隣に座ってもらって良いですか」
「もう座った。面倒なことを言うな」
動く気がない友人に雪路はため息を付く。
水を飲むときに見なければ大丈夫だろう。
もう周りもだいぶ落ち着いて……いると思ったのだが、騒がしい。
先ほどのように大きな声ではなく、噂話をするような囁く調子でざわめいている。
見ないようにはしていたが、理由は分かっている。
今度は空崎陽太のせいだ。
この食堂には、特別席というのがある。入り口から一番奥の窓側の他より少し立派で広めのテーブルがそうだ。そこは、生徒会に所属している者しか使うことができない。
どこにそう書いてあるわけでもないが、学園の暗黙のルールとして決まっていた。
その席に生徒会じゃない人物、空崎陽太がいるのだ。
そしてその右隣には雷斗、左隣には雷火が座り、正面には霧人が座っている。
それぞれが、楽しそうに転校生に話しかけたり、箸やフォークなどを差し出し食べさせようとしている。
転校生は時々抵抗しながらも、その状態を甘受していた。
……こちらもたいした見世物だ。
これには笑うのを通り越してドン引きの雪路である。
テーブルの端のほうで大きな体を小さくして食事を取っている二年の書記、月成凪沙には同情する。
さぞ居心地の悪いことだろう。
だが、その席以外に座ると人に囲まれて食事どころではなくなるから移動できないのだ。
しょうがない。
「凪、こちらへ来ませんか」
手招きして雪路が呼ぶと、パッと顔をこちらに向けて普段よりも幾分俊敏な動きで食事を持ってこちらにやって来た。
余程、あの空間に居たくなかったのだろう。可哀相に。
雪路の隣に腰掛けて、一息ついたのかホッと安堵の息をつく。
「ゆき先輩、ありがとうございます」
「どういたしまして。お礼を言われるようなことでもないですけどね。凪とご飯を食べられるのは嬉しいですし」
凪沙は身長が高いが、素直で大型犬のような可愛らしさがある男だ。
クセの強い人物が周りに多い雪路には癒しだった。雨流にとってもそうらしい。無言で凪沙の頭に手を置き、わしゃわしゃと撫でている。
凪沙は多少迷惑そうな顔はしているが、怖がったり嫌がったりはしていないので止めないことにしている。
がっしゃーん
何事かと驚いて、物を取り落とす人もいるがそれは雪路の感知するところではない。




