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――やはり事件は起こった。
ゲーム通りのシナリオ運びをするのなら、副会長の出会いの次は寮で不良な同室者と殴り合いイベントが発生するはずだが、二人だけの空間なので確かめるすべがなくそれがあったかどうかは定かではない。
その次のイベントは学校登校初日に双子の庶務が休み時間に転校生を見に行くというもの。
雪路はその光景を見ていないが、後輩から話を聞く限りそのイベントはなされたようだ。
霧人が気に入ったという冴えない転校生を見に行った一年生の双子の庶務、流鏑馬雷斗と雷火は転校生を囲んで『どっちが雷斗でしょ~か』とあてっこゲームをしたらしい。
転校生は見事当て、双子達にも気に入られることになったようである。
これは良いのだ。
双子は気まぐれで、度々こういうことをしてたくさんのお気に入りを作っている。
ファンクラブの子達もそのことにとやかく言うことはない。
問題は昼休み。
雪路が雨流を連れ立って食堂に入ると妙に騒がしい。
嫌な予感がする。
「雨流」
「分かっている」
先手を打って雨流を名前だけ呼んで制した雪路だったが、長い付き合いなので理解してくれたようだ。
眉間に皺を寄せた難しい顔で返してくれた。
騒ぎの中心へと二人で近づく。
すると、雪路の予想は外れていたことが分かった。
空崎陽太がイベントでも起こしているのかと思ったのだが違ったようだ。
そこにはもう一人の転校生、空崎春陽がいた。
彼女の周りには女性達が集まって春陽に怒っている。
大きなで罵っているのでよく聞こえる。
「霜弥様になんてことをっ!」
「あなた何してるか分かっているの!?」
「謝んなさいよ」
「そうよ、ぼおっと立ってないで謝りなさい」
穏やかじゃないな。
面倒そうな雰囲気に雪路はうんざりする。
あれは、霜弥の親衛隊だ。
よく見ると彼女達に隠れるように生徒会長の秋月霜弥がいた。
なんと、尻餅をついた格好で放心状態である。
なんだか、少し前にも同じ顔つきの奴を見た気が……
思った人物とは違ったが、雪路の嫌な予感のほうは当たっているようだ。
「何の騒ぎだ」
雨流が尋ねると辺りは静まり返り、一斉にこちらに注目が集まった。
答える者はいない。
いつものことなので雨流は気にすることなく、騒ぎの原因であると思われる春陽に聞いた。
「おい、そこの女。何があった?」
「そこの人にキスされたから引っ叩いただけです」
霜弥を指差し、そう言い放つ姿は堂々としていた。
噴出しそうになった雪路だったが、何とかこらえる。
隣に立つ雨流も笑い出したいのをこらえているようだ。
その顔は眉間の皺が一層深くなり口角が下がって怖さを増しているが、もう恐怖の大王として学園に君臨しているので問題はないだろう。
「良い格好だな、秋月」
「うるさい、春夏冬!」
からかうように雨流が声をかけると霜弥は反射で怒鳴り返した。自分の状況を思い出し、羞恥で顔を赤くしながらそそくさと立ち上がる。
そして、空崎春陽に向かって一言
「おい、お前! 覚えてろよ!!」
雑魚キャラみたいな捨て台詞
それが、また雪路の笑いを誘う。
それで良いのか、秋月グループ御曹司。
「……行くぞ、ヒョウ」
「はいはいっと」
呼ばれた二年の会計、鎮目ヒョウは肩をすくめて雪路達に軽く目礼してから霜弥の後を追いかけた。
「見世物は終わりだ。散れ!」
雨流の一声でざわついていた人々は自分の食事に戻っていく。