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田舎のお姫様  作者: Naoko
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無垢なお姫様

 ステファナは、朝起きると、気合を入れてクローゼットを開けた。

「今日はアレクシスとお買い物」と思うとワクワクする。

お洒落にも力が入る・・・はずなのだけれど、現実は厳しい。


クローゼットには、三着の服しかなかった。


一着は、ロセウスに来た時に着ていた旅行着でコート付き。

あとの二着は普段着で、交互に洗いながら着ている。

「寝巻きを入れれば四着よ」と悲しい冗談を言う。



とにかく、その三着をベッドの上に並べてみた。


ステファナは、「これで、どうやってお洒落するの」と、途方にくれる。

旅行着はちょっと重いし、普段着では芸がない。


ふと思ってクローゼットを振り返る。

そこにはもう一つ、薄いショールがハンガーにかかっていた。


スファエと気候が違うので、どんな服を持ってきていいのか分からなかったので持って来れなかったのだけれど、

それを哀れに思ったルベットが、自分の大切にしていたショールを持たせてくれたのだ。


「普段着を着て、これを首に巻けばいいわ」

とにかく、精一杯のお洒落をする。




 そうしてステファナは、地下鉄に乗って、初めてのお買い物に出かけた。


駅を出ると、ぱあっと前が開け、たくさんの若者がいた。

ステファナは、その華やかさに驚き、

歩いている子たちのファッションにも目を奪われる。


「こんな、こんな所があったなんて・・・」

と感激するステファナは、ポカンと口を開けて突っ立っていた。



「ステファナ、古着屋はこっちよ」


アレクシスが歩き出すと、

慌てて付いて行くステファナの足取りは、踊るように軽やかで、

「何だか別人になったみたい」と思う。



 二人が入った古着屋は、雑貨もあって品数が多く大きな店だった。

ステファナは物欲全開であれもこれもと握り、

あっという間に、気に入った物を山のように積み上げていく。


「そんなに買えるの?」


アレクシスにそう言われ、

我に返ったステファナは、ため息をつく。

こんなに買えるほど小遣いは無い。

それで時間をかけ悩みながら、服やバッグ、靴などを選ぶ。


一件目を終えて商店街を歩くのだけれど、

ステファナは、可愛いアクセサリーの店などに「キャーキャー」と悲鳴を上げ、

結局、アウトレットの店に行き着く前に、小遣いは無くなってしまった。


そうして買い物を終えた二人は、

カフェでジュースを飲んで一息つく。




「お買い物って楽しいわね。

 アレクシスは、よくそんなに冷静でいられるのね。

 わたしは、全部欲しいって思ってしまったのに」


ステファナはそう言って、ストローでジュースをツーッと吸い上げる。

ストロベリーとバナナ入りのジュースは彼女のお気に入りだ。

アレクシスは笑った。


「欲しい物をあるだけ買っても、全部着られるわけないじゃない。

 それより、自分に似合うのを選ぶ方が楽しいでしょう」

「それはそうだけど、何が自分に似合うのかなんて難しいわ」

「じゃあ今まで、どんな風に服を選んでたの?」

「仕立て屋が布を持ってくるし、侍女が見立ててくれたりしたわね」


そしてステファナは、ルベットのスカーフに手を当てた。

いつも頼りにしているルベットがいないので、ちょっと寂しく感じる。



 ステファナは、買ったばかりの古着に着替え、

ルベットのスカーフを、ふわっと首の周りに巻いていた。


スカーフが古着の持ち味を引き立て、どこか不思議の国の女の子のようで、

都会には無いおとぎの世界にいるような雰囲気をかもし出している。



「とても綺麗なスカーフね」


アレクシスが言うと、

ステファナは、スカーフを取って彼女に触れさせた。



 それは、パリッとした感触があるのに肌には柔らかく、

乳白色で透けるように薄くて、重なったところがほのかに青くなる。

アレクセスは、今まで見たことの無い生地だと思った。



「スファエの荒野に生えている草の繊維で織るのよ。

 女の子たちは、この布を織って、自分の花嫁衣裳を作るの。

 草を採りに行くのは大変だし、糸も細くてすぐ切れるから織るのは大変なんだから」


そう言ってステファナは、スカーフをまた首に巻く。


「あなたに良く似合っているわ。

 顔が引き立つもの」


アレクシスにそう言われ、ステファナは嬉しそうに微笑む。



 アレクシスは、彼女の笑顔は周りに伝染しそうなくらいに素敵だと思った。

彼女の野暮ったさは、急には抜けないのだけれど、無垢な可愛さがある。




 その時、二人組みの男子たちが話しかけてきた。

アレクシスは無視するのだけれど、

ステファナは、黙っているのは悪いような気がする。

ところが、彼らが何をしゃべっているのか分からない。

都会の若者たちの使っている言葉を知らないのだ。



男の子の一人が、「田舎から来たの?」と聞いてきた。


ステファナは、「失礼にならないように」と一生懸命に答えしようとする。


彼女は、彼の言った「田舎」の意味を、人の少ない所だと思っていた。

スファエには、ロセウスのような都市はないから「田舎」ではある。



 アレクシスは、ステファナに、

「行きましょう」と言い、彼女の腕を引っ張る。

すると男の子たちも、肩をすくめて去っていった。




「アレクシス、あの方たちに失礼にならなかったかしら」


そう心配するステファナに、アレクシスは振り向き、

「いいえ」と言った。


「彼らはセックスが目的で話しかけてきたんだから相手にしなくていいのよ」


「えっ!?」

ステファナはビックリした。

アレクシスが、そんなことを言うだなんて思ってもみなかったのだ。


「ステファナ、知らない男の子たちには気をつけなきゃ駄目よ。

 ううん、知っていても油断しては駄目」


そう言ったアレクシスの顔は真剣だ。


「わたしの友達は、処方された薬を飲んで、

 ぐっすり眠っているところを知ってる子に犯されてたの。

 処女を失って、病気までうつされて。

 眠っている女の子を犯すだなんて、情けない男だと思うけど、

 そんな男はたくさんいるのよ。

 だから気をつけてね。

 あなたはスファエ王国のお姫様でしょう。

 お兄様のフリモンも心配するわ」


その言い方が、あまりにも毅然としていたので、

ステファナは、驚いたのを通り越して、しっかりしなければと思ってしまった。


都会は、楽しいことがいっぱいあるけれど、怖い所でもあるらしい。



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