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田舎のお姫様  作者: Naoko
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田舎のお姫様、都会へ行く

「お兄様!」


 ウィリディス王国の首都、ロセウスの空港に着いたステファナは、

フリモンを見つけると大声で叫び、手をブンブンと勢い良く振った。

それは大きな空港に圧倒され萎縮していた反動で、

泣き出しそうに不安だった彼女は兄を見つけてほっとしたのだ。


 そんな彼女の旅行服は、都会のとはちょっと違って野暮ったい。

恐らく誰も、彼女がお姫様だとは思わないだろう。



 この田舎丸出しの姫は、スファエ王国の労働大臣に付き添われてやって来た。

付き添われたと言っても、大臣は自分の仕事で来たのであり、

ステファナの方がおまけで、ついでに連れてきてもらったのだ。




 スファエ王国には、ステファナに従者を付ける余裕はない。

国内なら問題ないが、外国となると別で物価が高すぎるという問題があり費用が出せないのだ。

それにフリモンも「従者は必要ない」と言ってきた。


 一国の姫が一人でうろうろしたら、さらわれたりしないかと心配ではあるが、

スファエ王国の方針は決まっている。

「自分の身は、自分で守れ」だ。


 昔、スファエは考えの足りないグループに、国の要人を誘拐されたことがある。

その時、王様は、

「命を取ると言うのであれば仕方が無い。

 彼に、家族の面倒は見るし国を挙げて喪に服するので、

 安心してこの世を去るよう告げてくれ」と答え、

すぐに国葬の準備に取り掛かるなんてことをした。


結局、役に立たなかった要人は開放され、犯人らも捕らえられ、事件はあっけなく終わる。

貧しいスファエは、要人を誘拐しても成果の上がらない国だった。

世の中には、もっと金持ちで誘拐しがいのある重要人物はいくらでもいる。


もちろんスファエも用心するにこしたことは無い。

人買いに売られる恐れもあるからだ。

それもあって王様は、娘たちを国の外へ出したがらないのだけれど、

外国へ出すのに費用がかかり過ぎると言う理由が先に来る。




 さてステファナは、フリモンに会うのは姉の結婚式以来だった。

思ってもみなかった場所での再会だし、緊張していた顔は明るくなり、胸を躍らせている。

初めは怖かった空港も、慣れてしまえばどうって事は無い。

落ち込んでも回復の早い性格で、不安は期待に変わっていた。



 フリモンはステファナの一個しかない旅行カバンを受け取り、大臣に別れを告げ、

人ごみに紛れないよう妹の手をしっかりと握って地下鉄の駅へ向かった。


 王大子と妹の姫が二人だけで地下鉄に乗るというのも変だが、

ステファナは、すべてが珍しくきょろきょろするのに忙しくて変だと思わない。

というか自分が変なのに気付いていない。



 ロセウスの王宮では迎えの車を出すと言ったのだけれど、フリモンは断っている。

フリモンには考えがあった。


それは、いずれ自分が王となるスファエの将来のことを考えてであり、

ステファナが、自分の見方をしてくれるだけの特質を持っていると思ったのだ。


とはいえステファナは、そんな大それたことなど考えていない。

おじさんたちとの見合いをしなくていいし、都会に来れたのを素直に喜んでいる。




 さて、ステファナは、地下鉄に乗るのは初めてだった。

おのぼりさん丸出しで、はしゃいでいる彼女は、見たものは何でも質問する。

その様子に周りの乗客は驚いているのだが、フリモンはニコニコして答える。

そうして幾つかの駅を過ぎると、ある駅のホームに下りた。



 ホームには一人の女の子が待っていた。

彼女は清楚なお嬢さんと言う雰囲気があり、

フリモンを見つけると急いでやって来て、にっこりして言った。


「はじめまして、わたしはアレクシス・ハルアミナ。

 あなたより一つ年上よ。

 あなたが帝国に行くまでのひと月、わたしの家でゆっくりしてね」


「帝国?」


ステファナはフリモンを見る。


アレクシスは慌てた。


「まあ、どうしましょう。

 わたしは、あなたが知っていると・・・」


フリモンは怒った様子も無く、手を上げてアレクシスを止める。



「わたしも、ステファナが知っているものとばかり思ってたんだ。

 ステファナ、帝国のことは何も聞いてないのか?」


「わたしが聞いたのは、お嬢様の学校に行くってことだけよ。

 それで、てっきり、お兄様のいるロセウスの学校だと思ったの」



 フリモンは、黙って考える。

帝国は、ここからさらに遠く離れており、

ウィリディス王国とは比べ物にならないほど大きな国だ。

王様は、ステファナが不安になるのを恐れ、はっきりしたことを言わなかったに違いない。


アレクシスの方は「こんなことになるなんて」と心配する。




「・・・てきだわ」


ステファナが言った。


「え?」

アレクシスは彼女を見る。



「素敵だわ! 帝国ですって!? そんな遠くに行けるだなんて!」


アレクシスは驚いてフリモンを見る。

彼は「心配する必要はなかった」と苦笑いした。



「お兄様は行ったことがあるのよね。

 その話をして下さった時、どんな所かしらと思ったのよ。

 本当に、本当に、わたしも行けるの?」


「そうだよ、ステファナ。お前も行けるんだ」


それを聞いたステファナは、両手を胸に当て、くるっと回った。


「夢みたい! ああ、夢なら覚めないで欲しいわ!」



 アレクシスは、そんなステファナを見て笑い出してしまった。

ステファナが不思議そうに彼女を見るので、彼女は慌てて言う。


「御免なさい。あなたを笑ったんじゃないわ。

 こんなに喜んでくれて、わたしも嬉しいのよ」


「あなたは、アレクシス・・・さんだったわね」


「ええ、アレクシスと呼んで。

 わたしもあなたのことをステファナと呼ぶわね。

 あなたが帝国に行くまで、あなたのお手伝いをすることになっているの」


「お手伝い?」


アレクシスがフリモンを見ると、今度は彼が説明する。


「ステファナ、お前は帝国の首都、エスペビオスの女学校に留学することになっている。

 スファエとは、かなり違う所だから、

 一ヶ月前にここへ来て、慣れてからの方がいいと思ったんだ」


アレクシスは微笑みながらステファナの手を握った。


「とにかく、わたしの家へ行きましょう。

 お腹が空いてない?

 わたしの家族が待っているのよ」



 ステファナもにっこりする。

そして期待に胸を膨らませ、二人と一緒に駅を出た。



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