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田舎のお姫様  作者: Naoko
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真夜中のおさらい

「きゃ~! 姫様、それってどういう意味ですか?」


侍女の一人が叫ぶと他の侍女たちが彼女の口を塞いだ。



 侍女たちは、ステファナより先に戻っていた。

そしてルベットが「姫様がいない」と心配しても、

四人の侍女たちは、ステファナがアクィラに会いに行ったのだと思い、黙っている。


 ステファナは、ルベットに「散歩に行った」と答えて下がらせ、

彼女が寝入ったのを見計らって、侍女たちに何があったのかを話したのだ。




「わたしにも意味なんて分からないわ」


うろたえながらも平常心を装うステファナに、リディは浮かない顔で聞いた。


「それで、明日の夜、その月の間に行かれるのですか?」


「行くわけないじゃない。どんな所かも知らないのに」

「あ、わたし、知ってますよ。

 というか聞いたんですけれど、お月様が綺麗に見える王宮の奥の間で、

 部屋なのに、まるでテラスのようで、それはそれは素敵なんですって」

「まあ、ロマンチックですわね」

「そりゃそうでしょう、女性を誘うんですもの」



 リディは心配していた。

ステファナは「今夜は行かない」と言っていたのに行ってしまった。

「明日、行かない」と言っても、行くかもしれない。



「とにかく、陛下の『花嫁探し』の噂を無くせばいいのよ」

「どのようにですか?」

「それをわたしたちが考えるの」


 侍女たちは、ちょっと考える。

そしてすぐに一人が答えた。


「それって、姫様が、陛下の恋人の振りをするってことですよね」


 他の侍女たちもうなずく。


「つまり、姫様も結婚したくないので、恋人になっても結婚はしない」

「それで姫様は、月の間に誘われたのですね」

「ちょっと待って、誘われたのは姫様ですか? それともルベット?」

「ああ~、肝心なことを忘れてました」

「どうなんです? 姫様」


 彼女らはステファナを見る。 


「ル、ルベット・・・いえ、わたしよ、たぶんそう!」


「わたしって、姫様は、姫様であり、ルベットでもあるんですよ」

「なんだか、ややこしいですわね」

「問題は、何のために誘ったのかです」

「そりゃあ若い男性ですもの、分かりきったことを」


「分かりきったこと?」


 そう聞くステファナに、侍女たちは「今更・・・」と思う。


「姫様、若い男性は性欲の塊みたいなもんですよ」

「何ですって!?」

「ちょっと! ライナスは違うわ!」


 ステファナとリディが叫ぶと、

他の侍女たちは唇に指を当て「しっ」と言った。


「もちろんコントロールできる方もいらっしゃいます」

「とにかく、今は陛下のことです」

「陛下の性欲ですか?」

「違います」

「そう、結婚したくない姫様がうっかり、なんてことになっては困りますものね」

「姫様の性に対する認識ってことですわね」


 侍女たちは、ステファナを外して会話し続ける。


「簡単に許してしまうのは、いただけません」

「スファエの王様も許しませんしね」

「女性の、特に未婚の女性の体は大切にしませんと」

「そう、性病の問題もあります」

「性病? 陛下に?」

「ある王様と六番目のお后様は、共に、性病で亡くなられたそうです」

「それは昔の話でしょう」

「ところが性病に交換ができて、薬が効かなくなったりしているそうです」

「この国は、医療が中心だから心配ないわ」

「いいえ、性病を治す薬は儲からないので、新薬を研究しないのだそうです」

「まあ、怖い」

「とにかく今は、姫様の認識です」


 そして侍女たちは、ステファナを見る。


「姫様、わたしたちのファニアの香油の話をどれだけ真剣に聞いておられましたか?」


 結局、侍女たちの行き着くところはそこしかない。


「真剣にって・・・」

「元々脳には、喜びを感じるホルモンが・・・」

「それは分かっているわ」

「そうでしょうか? もう一度、おさらいしましょう」

「それがいいですわ」


そうして夜中に、ファニアの香油のおさらいが始まる。



 すると、侍女たちの騒ぎに目を覚ました本物のルベットがやって来てしまった。


「あなたたち、何をしているのです!?」


侍女たちは、慌てふためき散り散りになる。


「姫様も、お休み下さい。

 明日がございます」


ルベットは、リディに就寝の手伝いをするよう告げ、自分の寝室へ戻っていった。




 ステファナは「明日ね・・・」とつぶやく。


夜中を過ぎているので今日なのだけれど、リディはステファナのことが気になって仕方が無い。



「姫様は、アクィラ王に恋をしておられるのではありませんか?」


「え? まさか、二度会っただけよ」


「姫様、人が恋に落ちるのに一秒もかかりませんのよ」



 「そうだった」とステファナは思った。


 脳の中で分泌されたいろいろなホルモンは、快感や幸福感を感じさせてくれる。

特にPEAは、自然のほれ薬なのだ。



「PEAは、脳内麻薬のようなものなのです」

「ええ、分かっているわ」

「それだけではありません。

 人は、会っただけで、自分とは異なった遺伝子に引かれるのだそうです」

「また遺伝子?」

「他にも、色々な要素がありますよ」


 ステファナは、ふうっと息を吐いた。


「わたしは、本当に、陛下に恋してしまったのかしら」


「姫様。

 わたしは、姫様が窮地に立たされていると心配しているのです」


「窮地?」


「ええ、コンテストはもうすぐ終わろうとしています。

 わたしたちとは違い、姫様はスファエに戻られる身。

 戻れば、否応なく、どなたかと結婚させられるでしょう」

「そうね、そうなれば、わたしが六年もかけて学んだことが不意になってしまうわ」


 それはステファナも考えており、

布のことが上手くいかなければ、チャンスをくれた両親に従わねばならない。


「姫様が、そのことで不安になられ、

 陛下に対し、心が揺れてしまったのかもしれません。

 PEAは、不安定な時にも分泌されるのですよ。

 もしそうでしたら、請求に動けば、後で後悔するかもしれません。

 それが本当の恋であっても、急ぐ必要はありません。

 姫様は、陛下に布のことを話しておいでです。

 今はそのことで頭がいっぱいだと申し上げて、

 少し距離をおかれてはいかがでしょうか。

 陛下が本気でなければ、すぐに諦めるので、陛下の気持ちも分かります」


 ステファナは、リディをじっと見つめた。



 そうしてステファナは、床の中であれこれと考えている内に寝ってしまい、

朝になったのも気付かないでいた。

突然、侍女の悲鳴で目が覚める。



「どうしたの?」


 慌てて部屋に入ってきた侍女の一人が、折りたたまれた白い紙を差し出す。


「たった今、陛下から送られてきました」



 それは、厳かながらも控えめ模様のエンボス加工された厚手の紙で、

黄昏色にも思える青のタッセルの付いたリボンが掛けられていた。


ステファナはリボンをほどき、中を開ける。


そこには、

「ステファナ姫へ

 今夜、ルベットを連れて月の間に来るように」

と書いてあった。



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