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田舎のお姫様  作者: Naoko
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逢引きの誘い

 今日は、侍女たちの見合いの日。

ブースは早々と閉め、侍女たちは期待に胸をふくらませながら出かけていった。


 ステファナは見合いには行かない。

やらなければならないことがあるのだし、油断して自分も結婚させられはたまらない。

侍女たちの付き添いはルベットにまかせ、

自分はアレクシスに付き添ってもらって布市場の調査に行く。



 アレクシスも、子供たちの部門でコンテストのイベントに参加していた。

そんな話をしながら、

フリモンがロセウスを離れた理由は、「スファエの洪水」らしいと言い始める。



「洪水? スファエで? 日照りなら分かるけど」

「ええ、アクィラ王子がスファエに行った時ですって」

「年に数回、大雨は降るけど、土地はすぐ乾くのよ」


 ステファナは、洪水の話なんて知らない。

それに兄は、草の研究で農業試験場へ行ったはずだ。

それがロセウスを離れるのと何の関係があるのだと思う。




 スファエの気候は乾燥型で、夜は涼しく昼は暑い。

働けない昼間は、昼寝をする。


水は水場にある。

地下水をポンプでくみ上げ、それで自分たちが食べる分だけの野菜や果物を作っている。

昔は農場もあったのだけれど、生産性を上げることが出来ず、今はやる者もいない。

スファエの土地は、農場に適してないのだ。




 さて、侍女たちの見合い場所は、素敵なレストランだった。

ところが入り口に、長蛇の列ができている。

見合いの情報を聞きつけた者たちが飛び入り参加し、

関係のない者たちでさえ列に並んでいたのだ。


そうして見合いの席は、若者たちのパーティー会場になってしまった。

おまけにアクィラ王が、お忍びで現れるなんて事にもなる。



 とにかく侍女たちは楽しく過ごし、夜遅くに戻ってきたので、

すっかり疲れたルベットは、すぐに下がってしまった。


 そしてステファナは、年下の侍女から、

レストラン印付きの、折りたたんだ紙ナプキンを受け取る。

それを開くと、「二人で会いたい」と書かれてあった。




「これ、何?」

「アクィラ王は、姫様に会いに来られたのだそうです」

「え?」


 ステファナは、どういうことだと思う。

アクィラ王に会ったことはないし、会食やパーティにも行ったことがないので面識はない。

それが突然に、「二人で会いたい」と言われても、と困惑する。


会食を欠席しても、出席を促されることはなかった。

コンテスト参加は直前に決まったのだし、自分たちは重要でないと見なされているのを知っている。

それに、もしアクィラ王が自分に会いたいのなら呼べば済む事だ。



「それって、本当にアクィラ王だったの? 間違いじゃないの?」

「お付きの方から頂いたので間違いないと思います」

「じゃあ、あなたも会ってないのね?」

「ええ、アクィラ王が現れて、皆が、わっと騒いだようですが、

 わたしたちは、後になって知ったんです」


 他の侍女たちも集まってきて、紙ナプキンを見ながら、

ああだこうだと言うのだけれど、言うだけで埒が明かない。


「あの・・・ルベットに伝えた方がいいでしょうか?」


すると、別の侍女が言う。

「ルベットに知らせると、二人で会えなくなるわよ」


ステファナもそう思う。


そしてルベットは、二人の間に何かあるに違いないと大騒ぎするだろう。

しかも相手は、「花嫁探しのアクィラ王」だ。

「かといって、二人で会うって・・・?」と決心が付かない。


 逢引きの誘いにしては、紙ナプキンに書くなんて変だ。

これじゃあメモだし、馬鹿にしていると言った方がいい。

考えなしにのこのこ行って、からかわれるなんて事にならないかとも思う。



 ステファナは、今日はアクィラ王の変な話ばかり聞くなと思った。

王子の頃、スファエを訪問した時の洪水、そして今、自分に密かに会いたいという誘い。


「リディ、六歳のころ、スファエで街が洪水になったって知ってる」

「洪水ですか? 街が水浸しになったことでしたら覚えてます」

「街が水浸しってどういうこと?」

「水場のポンプが壊れて、水浸しになったらしいです。

 そう言えば、あの頃、アクィラ王がいらしておられましたよね」

「覚えてるの?」


リディはくすくすと笑う。


「だって、あの頃、姫様は、屋根を葺くタールが髪の毛について、

 ご自分で短く切ってしまわれたじゃないですか」


「それだ!」とステファナは思った。


「そんな頭ではアクィラ王の前に出るのは恥ずかしい」と言われ、自分だけ外へ遊びに行ったのだ。

末っ子の自分は、都合が悪くなると水浴びに行かされる。

自分としてはその方がいいので、かえって嬉しいくらいだった。


「それでアクィラ王に会ったことがなかったのね」と、

やっと胸につかえていたものが取れたような気がする。



 じゃあ、何故、街が水浸しになったのを覚えていないのだろう。

そんな面白そうなことが起こったら、真っ先に喜ぶのに。

きっと、疲れて昼寝でもしていたんだわ。

それか喧嘩でもして、へそを曲げて部屋に戻っていたとか・・・


そういえば、「なんだ女か」といわれて腹を立てたことがあった。

きっとその時だ。



「なんだ女か!?]


ステファナは声を上げる。

侍女たちもびっくりした。



 たとえ髪が短くなって男の子のようであっても、

自分を姫だと知らない子供なんていない。

あれは、アクィラ王が言ったに違いない。

そんな言われ方をしたことが無かったので、悲しくて、泣きながらルベットの所に戻ったんだ。


その時、急に、イベリスが、くすっと笑ったのを思い出す。


ステファナは、血の気が引くような気がした。



「なんだ女か」と言うからには、それなりの理由がある。

男の子にあって、女の子に無いもの。

そう、自分は、あの時、水浴びをしていて、素っ裸だったのだ!



「姫様?」


リディが心配して聞いた。


ステファナは、リディを見る。



 スファエの子供たちが裸で水浴びをするのは普通だ。

だが、よそ者は違う。

たとえ子供とはいえ、よそ者が、自分の裸を見るのは許せない。



「いいわ、アクィラ王に会いましょう」


ステファナは、憤然として言った。


 

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