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田舎のお姫様  作者: Naoko
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ほれ薬

 ステファナは、見合い相手に断られてしまった。

一度ならず二度までも騒動を起こしたので、散々叱られたのだけれど、

卵頭と結婚させられることを思えば大したことではない。


 謹慎も解かれ、けろっとしている姫を見て、王様は頭を痛める。

それで、つい側近に洩らしてしまった。


「アレを使ってはどうだろう」

「はっ?」

「アレだよアレ」

「ああ~」



 アレと呼ばれる代物は、ファニアという植物の精油から作られた香油だった。

それは「ほれ薬」とも呼ばれ、あまりにも強力なので麻薬と言った方が良く、

厳しく規制され、王宮の奥深くに保管されている。


ファニアは荒野に咲く花だし、誰でも摘めるのだが、

注意深く採取され抽出された精油でなければ大した効果は無く、その技法は封印されている。

素人が抽出しても、なんとなく・・・ぐらいしか期待できない。


王様は、このほれ薬を使って、ステファナの婚約を一気に決めてしまおうと思ったのだ。

とはいえ、「こんなこと」と言っては何だが、

たかが第六姫の見合い如きに貴重な香油を使うのもどうかと思う。

それに、后に知られたら厄介だ。

「生娘に使うだなんて!」と怒られるかもしれない。


お后様の意味は、「娘に麻薬を!?」なのだけれど、

王様のは、「娘をムラムラさせても・・・」でちょっと違う。




 王様はあれこれ考え側近を見たまま黙っていた。

気の効く側近は、

「おっしゃりたい事は分かっております」と、ほくそ笑みながら目で答え、

香油を持ち出すことにする。



 とにかく王様は方針を変え、

ステファナの三番目の相手は、金より見かけを優先することにした。

ところが第五姫は面白くない。


 17歳の第五姫も婚活中だった。

不真面目なステファナとは違って結婚願望が強く、

適齢期を一年後に控えているのに婚約はまだで焦りもある。

面食いの彼女は、「自分だって見かけのいい人にして欲しい!」と不満だ。

おまけに、ファニアの香油の話を盗み聞きしてしまった。



 まあ側近が密かに行動したとしても、召し使いたちに隠せられない。

王宮では内密のことを洩らしてはいけないのだけれど、「ほれ薬」となると話は別だ。

とかく人は、この手のタブーには口が緩みやすい。


女の子たちの間でも、

乾燥したファニアに他のエッセンスオイルを組み合わせるレシピの話に花が咲く。

ステファナは、それには関心が無かった。

そんなことより野山を駆け回りたい。



「子供のステファナには、ファニアの香油だなんてもったいないわ」


と、ステファナと年が二つしか違わない第五姫は、

ファニアの香油を横取りする機会をうかがう。




 そうしてステファナの三回目の見合いの日がやってきた。

その日の朝、第五姫は薬部屋に人がいないのを確認して中に入り、

ファニアの香油を小瓶に入れる。

なんとそこへ、お后様がやって来たのだ。


王様が、ほれ薬を使おうかどうしようかと迷い、もたもたしていたら、

お后様にバレてしまったのだ。



「麻薬だなんて!」


お后様はそう言いながら、

テーブルの上にあった、美しく装飾されたファニアの香油の瓶を取り上げる。



 突然、お后様は、そこに第五姫がいるのに気付いて驚く。

后が薬部屋へ来るのは珍しく、ましてや姫が一人で入り込むような所でもない。


「ここで何をしているのです?」


第五姫は、自分の持っているほれ薬の入った小瓶を後ろへ隠し、それを薬棚に乗せた。


「はい、お母様。

今日は空気が乾燥しているらしく、喉が痛いので薬をもらいに来たのですが、

誰もいないのです」


「ああ、それなら・・・」


とお后様は、薬棚から一つの小瓶を選ぶ。


「これが効きますよ」


そう言って彼女に渡した。



 お后様は、自分が「麻薬」と言ったのを聞かれたのではないかと心配していた。

さらに、何のために第五姫がここに一人でいるのかも疑問に思う。

「ファニアの香油に気付いたのでは」とも思うのだが、まさか聞くわけにもいかない。

それに、王様がこれを使おうとしていたのを知られてはならないとも思っている。


すでに周りの者は知っていたのだけれど、お后様はそんなこととは知らない。



 お后様は、別の話題にふることにした。


「そうそう、ステファナも喉が痛いと言っていたわね。

あの子にも持っていきましょう」


そうしてお后様は、第五姫と一緒に薬棚を見る。

棚には、同じような小瓶がたくさん並んでいた。



 第五姫は、「しまった」と思った。

自分が隠した小瓶がどれだか分からないのだ。


自分はすでに持っているし、比べて確かめるわけにもいかない。

自分のをしっかりと握り、それがほれ薬であることを祈る。



 お后様は、もう一つの小瓶を取ると、姫を連れて薬部屋を出ていった。



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