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田舎のお姫様  作者: Naoko
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災難

 アクィラは、暇だった。


 コンテストは、ロセウスの街を上げての大イベントで、それに伴って色々な催しもある。

アクィラは主催者として指揮を取り、開会式で開催宣言をするだけでなく、

会場を回り、審査員と出品物の評価もしなければならない。


ところが、側近の息のかかったコンテスト委員会の委員が、

連日のように、招待した姫や淑女たちのための会食やパーティを催し、

そちらの方ばかりに行かされるという問題に陥っていた。


 美しい女性たちに囲まれ、嬉しいはずのアクィラだけれど、素直に喜べない。

側近たちの思惑にはまるのだと思うと、気分が乗らないでいる。

かといって、公務はスケジュールから外されていた。


つまり、他に何もすることがなかったのだ。



 「側近たちに一泡吹かせたい」と言ったアクィラだったけれど、未だに良い案が浮かばないでいる。

協力させようとしたイベリスは戻って来ないし、フリモン王子にも逃げられてしまった。



「視察に行くぞ」

と言ったアクィラは、

顧問スタッフを連れて、全然関係のない工場や発電所、浄水場、用水地などに出かける。




 ふとアクィラは、用水地の入り口に、一台の宮廷公用車が止まっているのを見かけた。

別の場所でも同じ車を見たような気がする。

抜き打ち視察はいつもの事だし、普段は気にしないのだけれど、

暇なせいか、「誰が乗ってるんだ?」と思う。


すると、「スファエ王国のステファナ姫が視察に来ておられます」と言うではないか。


「コンテストを放り出して、こんな所で何をしてるんだ?」


自分もコンテストを放り出しているのに、ステファナを呼んで問いただそうとする。


ところが、

「ステファナ姫は、もうここを出られたそうです」と言われてしまった。


「コンテスト会場に向かわれたそうですが、呼び戻しましょうか?」

と聞かれたので、

「いや、わたしも戻ろう」と答える。



 帰りの車の中で、アクィラはステファナの事を思い出そうとしていた。

会食やパーティーで会ってないのは、はっきりしている。

開会式で会っているはずなのだけれど、記憶にないのだ。



 それで、「たまには、ぶらっと会場でも回ってみるか」と会場に行ってみた。

すると、一ヶ所に黒山の人だかりがある。


「あれは何だ?」


アクィラが聞くと、会場案内人が、

「スファエの展示物に人が集まっているようです」と答える。



 アクィラは、スファエの出品した展示物が何だか覚えていなかった。

というか、ほとんど何も覚えていない。

それで案内人に聞こうとして彼の方を向くと、そのはるか上、

柱に係員でない誰かが登って何かをしているのに気付く。


「あんな所に登るとは危ないではないか」

アクィラ王と案内人は、急いでその方へ向かう。


 そのとたん彼らは、女性たちの一群にぶつかってしまった。

女性たちは、それがアクィラ王の一行と知り、大騒ぎする。


警護の者たちに救われたアクィラは、もう一度柱を見上げる。

そこには誰もいない。

アクィラは、釈然としないものを感じながら会場を去っていった。




 翌朝、侍女たちに着替えを手伝ってもらっているステファナは、

士気が上がらず、しゅんとしていた。


「思うようにいきませんわね」


侍女のリディが言った。

彼女は、若い侍女たちの中では一番年上で、

ステファナとは同じ年ということもあって気が合うので、伴をすることが多い。


「昨日は、用水地まで行かれたんですって?」

別の侍女が聞くと、リディが答える。

「ええ、姫様の考えておられる布を織るには、糸がなければならないし、

 すると糸を取る草、そして草を育てる水、ですよね」


ステファナは、情けない笑みを浮かべる。


「兄上に勧められて行ってみたのだけれど、

 浄水場にしてもスファエとは雲泥の差ね。

 もちろん、行ってみて良かったと思うわ。

 ウィリディス王国も荒野を開発して建国されたらしいから、

 『見ておけって』言われるだけのことはあったわね」


「まあ、ここも荒野だったなんて」

「スファエとは違って極寒だったんですって」

「じゃあ、わたしたちの先祖の方が恵まれていたんですね」

「それなのに、こんなに差をつけられてしまうなんて・・・」

と、また侍女たちのおしゃべりが始まる。


「ところで、わたしたちは、まだアクィラ王を見てませんよね」

「雑誌のグラビアでは見たわよ」

「それは見た内には入らないわ」

「ロセウスに着いたのは、コンテストが始まる前日だから、

 展示物の飾り付けで開会式にも行けなかったですものね」

「あんな飾り付けで心配だったけれど、今は良くなったし」

「そうね、手伝ってくれる親切な殿方のおかげで、展示の仕方もずいぶん立派になり」

「しっ!」


 それまで黙っていたルベットが会話を遮る。

侍女たちは、一斉にステファナを見た。

ステファナは、聞かなかった振りをする。



 スファエ王国の展示物は、ファニアの精油をかなり薄めたものなのだけれど好評だった。

おまけに、コンパニオンの侍女たちの知識、

というより、男を全く知らない彼女らの口から出る説明のギャップが人気を呼んでいる。


中には鼻血を出す者もいて、そうなると彼女らの介抱を受けるという褒美付きとなる。

更に、デザイナーなどの輩も現れ、

香油をより良く見せようと、装飾し直してくれたりする。



 それなのに、ステファナの布は全く人気がなかった。

一応、柱に布を巻きつけてインパクトを出しては、と言われてやってみたのだけれど、

大した効果もなく、イライラしたステファナが、自分で取り外してしまったのだ。



 ほれ薬と、名も無い布では、比べる方が酷なのだ。

侍女たちは、スファエの展示物が注目されるのは嬉しいのだけれど、

肝心のステファナ姫の布が全く注目されないのは、頭の痛いとこだった。




「姫様!」


 突然、もう一人の侍女がコンテスト広報誌を持って部屋に入ってきた。


「昨日、アクィラ王がわたしたちの所に来て下さってたんですって!」


 ステファナと侍女たち一同は、額を寄せて広報誌を見る。



 そこには、女性たちに揉みくちゃにされたアクィラ王の写真が、でかでかと載っていた。

添えられたメッセージを読んでみる。


「スファエのほれ薬の威力か! アクィラ王、女性らに襲われる!」



 侍女たちはお互いを見ると、黙って出かける準備をした。



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