裏事情
元々王様は、ファニアの香油を特産品として出展するつもりはなかった。
精油は門外不出で、国外に出すことを禁じられている。
香油にすれば持ち出せるので、お金が必要な時にしか売らない。
ということで、今回のコンテスト参加は、ステファナを荒野から引き出すためのものなのだ。
それにもう一つ、ついでの理由がある。
「侍女たちの婿探し?」
ステファナは、何のことだと思う。
ルベットは、声を下げて言った。
「この娘たちは器量がいいのに、お婿さんが見つからないのです」
実は数年前、ウィリディス王国を中心に、突然の経済危機が起こった。
スファエの出稼ぎの男たちの仕事も減り、お金が中々貯まらない。
今は経済も復興したのだけれど、
男たちの帰国は、国で待っている女たちの数に届いていない。
スファエでは、二十歳になっても結婚できない娘たちの増加、という結婚難に陥っていた。
まだ、庶民はいい。
王宮で働くような娘たちの場合、花嫁料も高くなるので、
美しければ美しいほど結婚が難しくなるという気の毒な状況が続いている。
そんな所へコンテストへの招待状が舞い込んだのだ。
急だったけど、
「器量の良い子たちを選び、外国に嫁がせてみては」という話になる。
彼女らは、栄えある「スファエ初の国際結婚の娘たち」としての使命を帯びることになった。
余談だが、ステファナが長く留学を許されたのもその理由による。
六人の姫の内で結婚していないのはステファナだけで、
王様とお后様は心配したものの、
国の事情を考えると、「自分の所だけ」と言う訳にもいかなかったのだ。
ステファナは、ため息をつく。
「そう言うことなら、一肌脱ぐしかないわね」
「本当ですか!?」
娘たちは、目をキラキラさせてステファナを見る。
六年も都会で生活したステファナ姫は、尊敬意外のなにものでもなく、
男性にも慣れているに違いないと思ってる。
ステファナは奥歯を噛み締めた。
自分だって未経験なのだ。
エスペビオスでは、落第しないよう必死で勉強しなければならず、
「変な虫が付いた」と言われてスファエに連れ戻されても困るので、男っ気は全く無かった。
それでもステファナは、娘たちの期待を裏切れないと知ったかぶりをする。
王様は、娘たちの婿探しで、ステファナに、
「せめて結婚願望くらい出て欲しい」と期待していた。
とはいえ、荒野にこもるほど祖国愛があったのかと驚いているし、
この頑固な姫の気持ちを変えるのは簡単ではない。
それに、コンテストがアクィラ王のお嫁さん探しを兼ねていると気付いていても、
「まさかステファナが」と一笑に付したのだった。
こうして、それぞれの国の裏事情が、繋がってはいないにしても重なり、
今回の、ステファナのコンテスト参加となったのだ。
さて、この都会に出たことのない侍女たちを、
「イベントコンパニオンとして使えるのか」と心配ではあるが、
皆は、「にわか仕込みでも大丈夫だ」と思っている。
先ず、娘たちのファニアの知識は、そこらへんの学者よりある。
もちろん、人前で話をできるのか不安ではあるが、
話題が話題なので、一旦、おしゃべりが始まれは、彼女らの口は留まることを知らない。
とにかくルベットがいるのだし、お婿さん探しがかかっているので、
彼女らは真剣に取り組むはずだ。
心配と言えば、ステファナの方だった。
彼女は、ファニアの知識がほとんど無い。
とはいえ王様は、その問題も考慮していた。
ルベットは、衣装箱の一つを開ける。
そこには、スファエの娘たちの織る布の束が入っていた。
「こんなに!?」
狂喜の声を上げるステファナに、ルベットは得意そうに言った。
「申し上げたでしょう。
王様は、ちゃんと姫様のことを考えておられるのです」
ステファナは、布を撫で、その感触を味わう。
「王様は、姫様に、この布を好きにするように、とのことです」
「つまり、挑戦ってことね」
とステファナは、力強く言った。
そして、「受けて立とうじゃないの」と思う。
こうしてステファナは、意気込んでロセウスに向かうのだった。