当て馬
「お見合いだった!?」
ステファナは、ジュリから自分たちの留学の裏話を聞いて驚く。
「まあ、そんなところね。
とはいっても、ネリーだけよ。
あとの四人は、当て馬みたいなもの、引き立て役ね」
ステファナは、「なるほど~」と関心する。
今回は、自分の事ではないので余裕で聞けるのが嬉しい。
その見合いは、ロセウスでの会食の時だった。
ところが地盤沈下の事故が起き、アクィラ王は欠席することになったのだけれど、
側近の者が王を無理やり引っ張ってきて顔だけ出させたのだ。
ネリーは頭が良く、美人で背が高くて、モデルになれそうなくらいにスタイルもいい。
アクィラ王も人気があるので、お似合いのカップルだと誰もが思うだろう。
「ところがアクィラ王は、ネリーを何とも思わなかったんですって」
「えっ? どうして?」
「さあ、ネリーもちょっとは期待してたみたいだけど、見せないようにしているわね。
プライド高いし」
「ふうん・・・」
「あなた、怒らないの?
わたしたちがこんな所に送られた理由が、アクィラ王の花嫁候補のためよ」
ステファナは、自分の方も危なかったので、ついでとはいえ、
そんなことのために留学できたことに感謝こそすれ、怒るような気持ちは起こらない。
「とにかく、ネリーの話はお流れになったみたいね」
「じゃあ、なんでわたしたちは今でもここにいるの?」
「それはアクィラ王が、
『女の子にも留学の機会を平等に』って言い始めたからだって。
あなたのお兄様も、王宮で勉強してるんでしょう?」
「ええ、七歳からよ」
「まあ、政治的男女平等ってことなんでしょうけど、
それを利用してエスペビオスで勉強させようってなったみたい。
皇太后は帝国の姫君だったそうだし、
アクィラ王の后にも、『同じような品格を』って考えたんじゃない」
「まだ十九歳なのにね」
ジュリは、ため息をつく。
「十九歳じゃないわ。この前、二十歳になったじゃない。
あなたって、ほんとにアクィラ王に関心がないのね。
とにかく前王の時、四人の姫たちが生まれたんだけど、
なかなか王太子が生まれないんで、皆、冷や汗をかいたんですって。
それで今回は、早々と対策を立てようとしてるみたいよ」
「へえ、うちも兄にも姉が四人いるけど、今の所そんなことないわね」
ステファナは、アクィラ王が兄と同じ年で、四人の姉も一緒という偶然に関心しつつも気の毒に思う。
「次の年も、別の子たちが留学してくるんですって」
「じゃあ、わたしたちの後輩って訳ね。
どんな子たちが来るのかしら」
「さあね、わたしは、もうここにはいないから関係ないけど」
「どういうこと?」
「わたしは来月、自分の国に帰るの。
こんな所にいたって、つまらないもの」
ステファナは、「えっ、え~っ!?」と思った。
とはいえジュリの言う事も一理ある。
自分もこんな所にいたくない。
エンマとピエラの男の子事件以来、今の所、何も無いが、
また変なことを仕掛けられるかもしれない。
「わたしも止める」
ステファナが言った。
「え? スファエに帰ってお見合いするの?」
「違うわよ。
別の学校に変わるの」
「別のって? どこの?」
「うん・・・っと、土木関係」
「土木関係?」
「ほら、スファエの荒野に緑を戻すって勉強をするの」
ステファナは、ロセウスを出る前に兄と話したことを思い出す。
そうやって、思いつきで進路を決めたステファナは、
ウィリディス側に転編入希望を提出し、
両親には、「花嫁修業をしないのなら戻って来い」と言われない為に「作法教室に通う」と言い、
それが認められると、さっさとお堅い女学校を止めてしまった。
各人が、それぞれの思惑で期待したエスペビオス・女子留学だったけれど、
ジュリは自分の国に帰り、
エンマとピエラは、学校側に迷惑をかけ続け、
ネリーは、優等生の上に美人だったので貴族の娘たちとも打ち解けず、
こうして第一期留学生は失敗に終わる。
そしてステファナは、何と五年もエスペビオスで勉強することになる。
その一番の理由は、見合いをしたくないからなのだけれど、
スファエのことも真剣に考えていた。
それで、落第しつつも退学にならないよう必死に勉強するのだった。