田舎のお姫様、もっと都会へ行く
ステファナは、エスペビオスへ旅立った。
今回は、お金持ちのウィリディス王国がスポンサーなので、
空港も特別ゲートを使用し、ゴージャスな王国専用機に乗り、
ステファナは別世界のような旅に興奮する。
そして到着したエスペビオスの空港は、
スファエの全人口が住めるのではと思えるほど大きいのに目を見張る。
他の子たちも共にはしゃぎ、
ウィリディス大使館が迎えによこした大型高級車に感嘆の悲鳴を上げ、
走る車の窓から見える華やかなエスペビオスの街に「キャーキャー」と騒ぐ。
そして着いた先は、修道院のように古めかしい建物の女学校だった。
一緒にやって来たのは、ステファナを入れて五人の少女たち。
違う国の出身とはいえ同じ十六歳なのに、
一人を除き、四人は学力が伴わず一学年下に入れられてしまった。
その一人はステファナではなく、ネリーという名のいかにも優等生という感じの子だ。
「いえね、否定しているのではありませんよ。
ただ、あなた方の信奉の仕方が肌に合わないというか・・・」
彼女は、「あんたたちとは違う」と言いたいらしい。
ステファナは、旅行中の自分らの騒ぎを思えば、そう言われても仕方が無いと思う。
学校の制服も、ステファナの期待を裏切るものだった。
品がいいのだけれど、グレーのシンプルなスタイルで、髪型も決められている。
「せっかくロセウスで、都会のおしゃれ感覚を磨いたのに」とがっかりするし、
「アレクシスの学校の制服の方が、ずっと可愛かった」とも思う。
そして、スファエやハルアミナ家の人々を懐かしく思い出し、早くも里心がつく。
憧れの大都会なのに、現実は厳しかった。
そうして五人の生徒たちは無事に女学校に編入し、寄宿舎にも収まる。
寄宿舎の部屋は、二人一組で、ステファナはジュリという子と一緒だ。
ジュリ、それから二人の少女たち、エンマとピエラの三人は、
「ここに来たのは間違いではないか」と思うような子たちだった。
朝寝坊で服は脱ぎっぱなし、部屋は散らかし放題、
洗面所の使い方から食事に到るまで、好き放題にする。
授業中も、気が向けば、ふらっと他所のクラスへ行ったりする。
集団生活に慣れてない上に、帝国の行儀作法も全く把握していない。
しかも周りは、貴族の上品なお嬢様たちばかり。
彼女らは助けてくれるどころか、眉をひそめて冷たい態度で近寄ろうともしない。
ここは、アレクシスの学校とは似ても似つかぬ女子校だった。
とはいえステファナは、この三人の気持ちが分からないでもない。
自分もロセウスでの一ヶ月の生活が無かったら、戸惑っていたかもしれない。
そうして何とか彼女らを助けようとするのだけれど、根本的な何かが違うと壁を感じる。
ステファナたち評判の悪い四人組は、先生に怒られてばかりいるようになった。
さて、ある朝、
授業前に忘れ物を取りに行ったジュリが、血相を変えてステファナの所に戻って来た。
エンマとピエラが困っているのだけれど、
「どうしていいのか分からない」と言うのだ。
ステファナが、彼女らの部屋へ行ってみると、二人の他にもう一人いる。
「あなた誰?」
それは、見知らぬ男の子だった。
ここは女学校。
しかも、お堅い寄宿舎。
男の子なんて見たことも無い。
特にステファナは、アレクシスから言われた通り、
男の子から話しかけられても、さささっと逃げていたので、男の子のことは良く知らない。
まあ、ライナスは別として・・・
いや、そんなことはどうでもいい。
「なぜここに男の子がいるの?」ということだ。
二人の話によると、いつも通り、もたもたしながら部屋を出たら、
「そこに彼がいた」と言うのだ。
彼に言わせると、
「この部屋の女の子たちに呼び出された」ので、
朝早くに忍び込み、隠れていたらしい。
彼女らは、「わたしたちは呼んでない」と言ったのだけれど、
「まあ、中に入りなさい」と部屋に入れてしまった。
「そんなことして、どうするのよ!?」
と怒ったステファナだが、
彼女らは、「迷子になった彼が可哀想」と言う。
女学校の規則では、男の子と付き合ってはいけないことになっている。
道で口をきいてもいけないのだ。
それが部屋に入れたとなると、ただではすまない。
もともと、この学校は、外出するのでさえ許可がいる。
場合によっては、誰かが付き添わされるくらい厳格なのだ。
とはいえ生徒たちは、大人しく従っているわけでもなかった。
特に彼女らに兄たちがいれば、妹を使って密会などしたり・・・
「妹!」
ステファナは叫んだ。
「これは罠だわ!」
いつも面倒を起こす自分たちを、誰かが陥れようとしているに違いない。
それで彼に、「妹は?」と聞くと、
「妹はおらず、友人の友人から、ここに来るように言われた」と言うではないか。
つまり彼も苛めに合っていて、このミッションを命じられたらしい。
授業はもうすぐ始まる。
彼女らが授業に遅れれば、「また!」と先生がやって来る。
それが、敵の狙いなのだ。
「ステファナ~」とジュリが心配そうに彼女を見る。
ステファナは、
「ネリーの部屋に連れて行きましょう」と言った。
「ネリーの?」
「彼にネリーの替えの制服を着せて、使用人の出入り口に連れて行くのよ」
ネリーは背が高かった。
彼と同じぐらいの背丈だから彼女の服を着せても違和感はない。
さすがに胴回りは大きすぎて収まらないので、
カーディガンを着せて開いた背中を隠し、帽子を被せ、彼の服を手提げ袋に入れ、
四人で彼を囲むようにして部屋を出る。
五人が一団となって急ぎ足で進むのを見た他の生徒たちは、
真ん中の背の高いのがネリーだと思ったし、
「またあの問題児たちが何かしている」と冷ややかな目で見ただけだった。
この罠を仕掛けた生徒たちも見ているかもしれないけれど、
自分から騒ぎ出して正体を明かすなんて馬鹿なことはしないだろう。
とにかく何かが起こる前に、彼をさっさと外に出してしまえばいい。
こうして男の子は無事に脱出できた。
ところで、彼が脱いだ後のネリーの制服だけれど、
彼女らは、部屋に持ち帰る時間がなかったので、
綺麗に折りたたんでベンチの上に置き、教室へ急いだ。
それでネリーは、
夕方には、落し物預かり所で自分の制服を見つけることができたのだった。