表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
田舎のお姫様  作者: Naoko
10/32

アレクシスの恋

 「残念! うろたえるアレクシスを見たかったわ!」

妹のフィービィが言うと、父親が笑いながら、

「そうだな、アレクシスが、そんなことをするなんてね」

と言ったので、フリモンも笑う。


 その日の夜、フリモンは、ハルアミナ家のディナーに呼ばれていた。

そしてアレクシスの尾行話は、夕食のテーブルを賑やかに飾ったのだ。



 ステファナが、公園でしょんぼり座っているライナスに会ったのは数日前のことだった。


ライナスは地方の開業医の息子で、周りは彼が医者になるよう期待している。

ところが自分は医者に向いてないと思ってるし、

どちらかと言うと、電気音響工学に興味がある。


ステファナは、どっちも難しそうで、違いなんて分からないのだけれど、

自分も嫌々ながら見合いをさせられていたので、

ライナスに、親と話し合うよう励ますなんてことをしていた。


そして、彼が音響の本を買うのに付き合い、

本屋から出てきたところをアレクシスに見られたのだ。




「すぐに声を掛けてくれればよかったのに」

とステファナが言うと、アレクシスは苦笑いしながら答える。


「だって、とても可愛いカップルだったんですもの。

 声が掛けづらくて、どうしょうかと悩んだわ」


 フリモンも、感心しながら言う。


「ステファナが皆を翻弄するのはいつものことだが、

 アレクシスまで振り回されるとはね」


すると、父親がそれに加わった。


「親が、娘の恋心を心配する気分を味わえて、良かったんじゃないのか」


「お父様ったら!」


とアレクシスは、顔を赤らめる。




 その時、ステファナは、はっとする。


「もしかしてアレクシスは、お兄様を好きなの?」と思ったのだ。


そしてフリモンを見る。


兄は、アレクシスの気持ちに気付いてないようだ。

彼女も、そんな素振りを見せないようにしている。




 ステファナは、姉の第五姫がアクィラ王に恋していたのを思い出す。

姉は、自分の家が、ハルアミナ家とは格が違い過ぎるので諦めたという。


アレクシスも、自分がハルアミナ家だから諦めているの?

格下の男性を好きになってしまったから?


えっ? てことは、逆・禁断の恋!?



 それが「禁断」と言えるかどうかは別として、

ステファナは、自分ちのラファラン家は格下だと思っている。

「格」といっても、何のことか良く分からないのだけれど、

どちらにしても、

アレクシスが、スファエのような貧しい国にお嫁に来てくれるとは思えない。


第一、フリモンは、まだ十九歳だ。


しかも王太子だから、ロセウスに残って彼女と結ばれるなんてこともない。

つまり、恋人同士になっても、待っているのは「別れ」だ。



 そんな先のことを考えても、とか、今さえ良ければいい、とか考えたりしないでもない。


どうせスファエの男たちは三十歳くらいで結婚するのだから、

フリモンが結婚するまで十年の余裕がある。


そうなのだけれど、

この二人は、そんなに長い間、

先の見えない恋人同士のままでいられるというタイプでもない。


結婚するにしても、十年も待てるものかどうかも疑問だ。


とはいえ、別に規則ではないし、十年も待たなくていい。

フリモンが早く妻を迎えても構わないのだけれど、

だからといって初めの問題は残ったままだ。


どう考えても、二人は引き裂かれてしまうのだ。

ああ、なんてかわいそうなアレクシス。



などと、かってに想像する。




「ステファナがスファエのお姫様だって、ライナスは知ってたの?」


フィービィが聞いたので、ステファナは我に返る。


「そう言ったのだけれど、

 スファエがどこにあるのかも知らなかったし、

 お見合いの話も、わたしの作り話だと思ったみたい」


「ステファナは、三回もお見合いしたのよね」


「ええ、しかも最後の相手が、わたしの姉と結婚したのには驚いたわ。

 憧れてたアクイラ王に似てたんですって」


「アレクシスもそうだったものね」

フィービィは姉をちらっと見ながら言った。


アレクシスが慌てて否定する。


「そんな昔の話。

 わたしは、もう何とも思ってないわ」

「じゃあ、わたしが名乗りを上げる」

「どうぞ、どうぞ。

 どうせ憧れるだけで終りよ」


この姉妹の会話は、ハルアミナ家の夜を再び笑いで満たした。



 憧れる・・・

ステファナは思う。


アレクシスは、都会の洗練されたお嬢様だ。

兄も、ちょっとは心が動いたかもしれない。

それでも、いつかはスファエに帰るのだし、

憧れたままで終わった方がいいのかもしれない。



そうして、笑っているフリモンとアレクシスを見つめた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ