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田舎のお姫様  作者: Naoko
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お見合い

ステファナは、カーテンの陰からそっと足を踏み出した。


「姫様!」


その声に首をすくめる。

侍女のルベットを撒いたと思ったのに失敗したようだ。


「早く準備するよう王様から申し付かっております」


ルベットは、姫の腕をぐっと捕まえると侍女たちを呼び、

皆で抱えるようにして着替えの間へ向かった。




今日はステファナの見合いの日だ。

彼女は十五歳。

野山をかけ周り「山猿」のあだ名で呼ばれる第六姫である。

ルベットは、この姫を、時間をたっぷりかけて磨かねばならない。



「女の子の結婚適齢期は十八歳だから、急がなくてもいいのに」

風呂で洗われたステファナは、濡れた髪を梳かれながら言った。


「いいお婿さんを早く見つけるにこしたことはありません」

ルベットは、絡まった姫の髪と奮闘しながら答える。


「いいお婿さんって、この前は、まるで筋肉の塊のような方だったし、

今日、会う方も、卵みたいな顔をしてるって聞いたわ。

しかも年は三十歳以上よ。

これって他所の国では犯罪じゃない?」

「他所は他所、うちはうちです。スファエ王国は、これでいいのです」



スファエは、荒野の広がる貧しい王国。

とはいえ、食べ物に困るほどではない。


働く場所があまりないので、若い男たちは外国へ出稼ぎに行く。

そしてお金をしっかり溜め込むと故郷へ戻り、家を建て、妻を迎え、ほとんど遊んで暮らす。

子供たちが育てば、娘は花嫁料を家に入れ、息子は出稼ぎの仕送りをするので、老後の心配も無い。

ある意味、気楽な国だ。


ということで、この国には若い男たちはいない。

その反動で娘たちの結婚は早まり、

年頃になった娘たちは、良縁に恵まれようと自分磨きに一生懸命だ。


ステファナは、姫とはいえ六女。

王様は、彼女を貴族の中でも金持ちに嫁がせたいと思っている。


ところがステファナは、いつまでたっても子供のように振る舞い、

そうかと思うと、

留学している三つ年上の兄の影響で本を読み、余計な知識を得、いっぱしの口を利く。

それで早々に結婚させようということになった。




「ルベット! 痛いわ!」

ステファナが怒っても、ルベットはお構い無しに髪をぐいぐい引っ張る。

彼女は等身大の枕を抱き、ふくれっ面をした。



ステファナは、結婚なんて早すぎると思っていた。

それに、おじさんたちのと見合いも、どこか腑に落ちない。

この国ではそれが当たり前なのだけれど、夢はあった。

本で読んだ「白馬の王子様」にめぐり逢うことだ。

まあ、そんな話をしても皆に笑われるだけなので自分の心の内に留め、

自分が変なのかもしれない、なんて思ったりもする。




「さあ、これで外衣を着て、髪飾りを付けたら終わりです」

とルベットは、美しくなったステファナを見て満足そうに言った。


髪飾りは、きらびやかな冠のようで、薄い布が顔の前に垂れている。

そうやって顔を隠し、会話の後、おもむろに布を上げて顔を見せるのだ。


こんな作法を誰が考えたのかは知らないが、

娘たちは、ゆっくりと相手を観察できるし、男たちも娘たちを奥ゆかしく思うので、

気分を盛り上げるのには役立っている。



ステファナは、前回の見合いでは逃げ回り、相手が帰る時間になってようやく現れた。

それで今回は、先に席に着くことになっている。

布がかけられた彼女は、布団のように大きな座布団に座らされ、じっと待たねばならず、

退屈してため息ばかりついていた。



やがて、仲人など数人の者たちと現れた見合いの相手は、

侍女たちの噂通り、卵に目鼻や口を付けたような顔をしていた。

そして、くだらないおしゃべりばかりする。


「あんな人だなんて・・・」

と思ったステファナだが、見合いの座布団に座っているのではなく、

少し離れた観葉植物の間から覗いていた。


待っている間に、持ち込んだ枕に服を着せ、髪飾りの冠を乗せ、摩り替わっていたのだ。



座っているステファナのダミーが、いつまでたっても何もしゃべらないので、

仲人は、「姫様?」と言って、顔にかけられた布を持ち上げようとする。


すると卵男は、

「姫様は恥ずかしいのでしょう。

どうか、わたしにそのお顔を見せて下さい」

と言って髪飾りの布に触れた。


そのとたん、髪飾りの乗っていた頭がころんと床に落ちる。


「ぎゃあ~!」


と、その男は叫んだ。


 

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