3話
第3章新たなる出発点
一日が始まろうとしたとき、ある施設の一室で7人の人間が首を揃えていた。そして、その部屋の真ん中にいる女が7人に言う。
「今日集まってもらったのは新しい反応が入ったからです。名前は榛志久 弘毅 DL・・・97%とのことです・・・」
その一言でその場の者たちの様子が一遍した。
「97%だと!?マジか??俺でも89%だぞ!?最高のあいつでも95%だぞ!そんなばかな・・・・・」
「ああ。それは本当の事なのか?」
「そうだそうだ!詳細を聞かないと納得できねぇよ!」
「確かに信じがたいですね・・・・」
色々な野次が飛び交う中、1人の女が、
「本当の事です。が、詳細はまだよくわかっていません・・・・・」
「なんだと!」
「ふざけんな!」
と、そのとき1人の少年が部屋に入ってきた。影で顔は見えない。その少年が冷静で、尚且つ興奮も混じるような声で言った。
「みんなこれは本当のことだよ。」
その少年の一言で部屋の中の空気が変わった。いや、変わらされた、と言うべきだろう。
「この子はすごいよ。この子はどちら側かはまだ分からないけど。必ずこっち側に招きたい。奴らに改善される前にね。
」
「う、うん。」
「まぁ、そうするか・・・」
そこにいた者たちは口々にさっきと正反対のことを口にし始めた。
そして、その少年が口を開いた。
「では、この話題の事は今はまだ詳しく報告されていない。だがこの数値はあまりにも尋常ではなかったから皆に集ってもらったんだ。もうすぐ夜が明ける。詳しい事は分かり次第後々伝える。では解散していいよ。」
と、言い残して少年は最初に入って来たドアの中に消えいき、その後にそれぞれ7人が別の部屋に消えて行った・・・・・・・・・・
そして話は弘毅側に戻る
ある朝、一組のカップル、いや、もとい1人の少年と1人の少女が大崎商店街の道を歩いていた。
「ねぇ〜今度はあれ食べてみよ!きっと不味いだろうから。」
「は?不味いの食って何がうれしいんだか・・・。ってお前食いすぎだろ!さっきからそこら辺のもん買い漁って・・・」
「いいじゃん。成長期、成長期!弘毅は食べなさ過ぎなの!もっと食べなさい!はい、あ〜ん。」
と、美代がたいやきを弘毅の口、ではなく頬にあてた。
「あちぃぃぃ!何すんだこのやろう!」
「昔のギャグだよ〜。弘毅は引っかかりやすいね〜!あはは」
「うるせえ!ったくもう!ブツブツ・・・・・」
「冗談、冗談。はいあ〜ん。」
と、今度こそ食べたたいやきを弘毅は一口でほおばった。
(ん?うまい・・・)
「おいしいでしょ?私の好きな店なの。今度一緒に行こうよ。」
「やだよ。そんなめんどくさいの・・・・・・」
「またそういうこと言う〜!あのねぇ・・・」
と、美代が言いかけたとき、弘毅の後ろの電柱からハルが姿を現した。
「よ〜お二人さん熱いね〜!弘毅おはよっす!」
「ああ。おはよう。」
そのときずっと黙っていた美代がいきなりハルを指差して、弘毅に「誰?」と聞いてきた。弘毅がハルを紹介しようとする前にハルが ズン と弘毅の前に出てきて、べらべらと自己紹介を始めた。
「俺はハル。上の名前はいいからこっちで呼んでくれ!年は・・・・」
あまりにも長い自己紹介なので歩きながら話していると、美代がさすがにウザくなってきたのか、
「も、もうあたし先行くね。じゃ〜ね弘毅。」
と、そそくさと走り去ってしまった。走り去ってからハルが、
「お前は羨ましすぎる!すぎてまうぞ!」
「は?意味わかんねえよ。何が羨ましいんだ?」
「あの人がお前と一緒におんのが羨ましい!ずばりそうです!そうなんです!」
ハルは校門の前で奇怪な言葉を叫び、
「まぁ、いずれは俺が・・・・。おっと早くいかねえと遅刻だ遅刻。」
そういって弘毅の腕を取って走りはじめた。
「そんなに急がなくても、まだまだ間に合うじゃん。」
「そんなこと言ってる場合ちゃう!後ろから昨日の奴等がついてきとる!早く教室入るぞ!」
そう言われて後ろを振り返ると本当に昨日のあの2人が頭に包帯を巻いたまま走って追いかけてきていた。
「こらぁぁ!まてぇ〜!」
「アホンダラァ〜!待て言われて待つ馬鹿がどこにおんねん!死んでまえ!」
とハルは廊下のゴミ箱を蹴飛ばし、2人組みはそれに引っかかってこけてしまった。
そして教室にスライディングで入る二人。
それから弘毅たちが入ってすぐに教師も来たので2人組みは渋々帰って行った。
だがしかし、安全も束の間。弘毅は教室の中の感じがなにか違うのに気がついた。
その様子に逸早く気が付いた美代は、
「ねえねえ、一体何があったの?」
と、教室にいる他の生徒に聞き出す。元々人気者の美代である。答えを知るのは簡単だった。
「あ、美代ちゃん。おはよう。さっきの二人組みが狙ってるのはどうやら弘毅君らしいのよ。」
「え?弘毅を?なんでまた?」
「なんか昨日、弘毅君があの2人と喧嘩してボコボコにして髪の毛まで抜いちゃったらしいよ?」
「嘘・・・・弘毅がそんなことできるわけないよ!」
美代はほとんど裏声だった。
「でもさっきの二人みたでしょ?マジあれはやばかったよ?」
それから美代は弘毅に振り返って、
「本当なの弘毅?」
そのとき一部始終を聞いていたハルが、
「え?あいつらおまえがやったんか!?」
(やべぇ。どうしよ〜?)
「いや!間違いじゃね!?俺が出来るわけないし!」
と、大声で言い返す弘毅。
「そうよね。弘毅はそんなことできないもんね。やっぱ違うんじゃない?」
「え〜そんなはずないよ。三年の人たちが笑って言ってたもん。」
「あんた三年にどんなコネあんのよ・・・・・」
「そこは秘密ということで・・・って、見たのは本当なの!」
(喧嘩しそうだよどうしよ〜、なぁどうしたらいいんだ!?)
(俺にいい考えがあるぜ?まず俺に体を変われ。)
(何する気?)
(どうでもいいから変われって!)
(う、・・・うん・・・・クッ・・・)
弘毅はまた目の前が一瞬真っ暗になったが、日頃の精神交換の練習で、前のように時間はかからなかった。
「あれは俺がやったんだよ!」
(は?)
「は?」
「はぁぁぁ?」
弘毅自身もわけ分からなくようになり、みんなもわけがわからないのであった。
「ほら!私の言った通りじゃん!やっぱり怖かった?」
美代と話していた女子生徒が弘毅に聞く。
「そんなわけないじゃん!見得張るのはやめなさいよ弘毅!」
「そや!嘘はあかんど嘘は!」
「マジだっつーの!ってか怖いわけないじゃん!ボコボコだよ!髪の毛も無いぜあいつら。どうやったかってのは・・・」
と、言いかけた所で教室の中にハゲの校長が入ってくる。
そして、校長の清水が、
「弘毅君、榛志久弘毅君。少し話があります。あとで校長室に来るように。それと、今日の授業は全校生徒休みです。」
校長の一言で湧き上がる歓声と一つのため息が教室にこだました。一つのため息を吐いたのは弘毅である。
「わかりましたか?弘毅君?」
(ちゃんと答えろよ!)
(分かってるぜ。)
「はい!!!」
教室に響き渡る声で答えた。
(うるせえよばか!)
(いいじゃんいいじゃん)
「いい返事ですね」
そうして校長達はそそくさと教室から出て行った。
その後の弘毅は大変だった。なにせ校長直々の参上である。教室に来て、弘毅1人にだけ質問するなんて普通では考えられなかったからである。
「なんで?校長直々?」
「なんかしたのか?あいつ。」
「ああ。アレじゃね?昨日の喧嘩の件。」
「ば〜か。だったら何で全校生徒休みなんだよ。」
「知らねぇ〜」
(うわぁ〜。マジ最悪・・・・・・)
色々な憶測が飛び交う中、弘毅は美代やハルに色々と聞かれる前にそそくさと教室を出たのであった。
広い校舎のうちの30%が校長室という馬鹿でかいほどの部屋に校長専用のスポーツマシーンの数々と校長と龍司とボディガード達と今回の件の張本人の弘毅が大きいソファーに座っていた。
「オヤジ!なんでこんな所に・・・」
「まぁ座れ弘毅」
「あ・・・ああ」
「ここに来た原因は校長が話してくれる。」
「そうでした。弘毅君、君は最近自分に不思議なことが起こりませんでしたか?」
「いえなかったと・・・・・あっ!」
「なにかあったんですね?」
校長は広い部屋に透き通るような落ち着いた声で弘毅に聞いた。
「え〜と。」
(俺のことは黙ってろ!!!)
弘毅の中のもう1人の弘毅が心の中で叫んだ。
(なんで?)
(いいか?俺のことが知れたらお前は間違いなく変人扱いだぜ?それでもいいのか?)
(やだ。)
(じゃ、黙ってろ。)
「いや。なかったと思います。」と、弘毅。
「いやあったはずですよ。国立精神管理高等学校特別課A組から報告がありました。率直に言わせてもらうとあなたは多重人格者なんです。」
(あちゃ〜)
(うわ〜)
「ちょっと待ってください!さっきから国がどうたらとか意味わかんないんですけど!」
「ああ、すいません弘毅君。では簡潔に言わしてもらうと、あなたは今からすぐ沖縄に行ってもらいます。」
「は?」
弘毅も龍司もわけがわからないのであった。
「訳しすぎですよ!大体俺が多重人格者?何を根拠にそんなこと言ってるんですか?しかも、なんで沖縄なんですか校長!」
「とにかく今日限りであなたは記録上退学で、もう沖縄国立精神管理高等学校特別課A組への編入も決まりましたので・・・・・」
「はぁ??親父どうなってんだよ!」
「落ち着け。わしも良く分からんが国が決めたことには逆らえん。仕方ないがお前はそこに行ってもらう。このまま居れば、榛志久家にも影響が及ぶからな。」
「は?なんだよそれ!跡取りはお前だ!とか言ってたじゃん!!」
「養子をもらう。」
「は?ふざけんなよ!俺を見捨てるのか?」
「ああ。」
龍司は涼しい顔で弘毅を突き放す。
(どうしよ・・・・・・)
(まぁ、いいんじゃね?沖縄も最近はリゾート地化してるから都会と変わんないし、おまえの好きな空もさぞ綺麗だろうよ。)
「そういう問題じゃねぇ!!!あ・・・・・・・・」
「やっぱり行く必要があるようだな・・・・」と、龍司。
「うっ・・・・これはその・・・・・・」
「では決まりということで。」と、校長。
「そ、その前になんで俺が多重人格者って分かった?」
と、弘毅はもはや相手が校長という立場を忘れ聞いた。
「さぁ、国の意向はまったく分かりませんし、国の調査方法のことなど聞いた事もありませんから・・・・」
「はぁ?意味わかんねえよ!ふざけんな!」
もはや校長に対しての敬意は消え去っていた。
「私には分かりません。とにかく沖縄に行けば何もかもわかります。」
「はぁ?だからそれが意味わかんねえって・・・・」
そのとき、いつまでも押し黙っていた龍司が口を開いた。
「いい加減真実を認めろ!!お前は頭がおかしいんだ!!」
「え・・・・・・」
弘毅は実の親の龍司にこんなことを言われるなんて思ってもいなかった。他人に言われるならまだしも、親族に言われるとなると訳がちがう。その龍司の一言は弘毅に人生初の絶望感を味わせた。
「嘘だろ?俺はおかしくない!見ろよ、親父!俺は普通だ!普通なんだよ!ふざけんな!」
叫ぶ弘毅だが、龍司の口から出る言葉は、
「お前はおかしい。私にはそう見える。」
という一言だった。その一言で弘毅はそれ以上反論する気にはなれなかった。
もう、ここには自分のいれる場所はないのだと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
晴天の空。
先の見えぬ地平線。
どこまでも続く広く澄み渡った海。
そして、自家用機から降りてきた一人の少年がポツンと立っているのは自分の家の敷地より広い航空路。
弘毅は、
「沖縄まであっというまだったな。」
(ああ。飛行機は慣れないな。)
「ああ、いつ乗っても気持ち悪いぜ。」
「弘毅。」
後ろで弘毅を呼ぶのは父 龍司だった。だが弘毅は龍司の問い掛けにも答えず、1人どこまでも続く地平線に目を向けて立ったままだった。
だが、そんな弘毅の態度に構わず龍司は、
「じゃあ頑張るんだぞ」
と、言って自家用機に乗り込んだ。そして自家用機は広い空に飛び立っていった。
飛び立ってから、弘毅は、
「親父のバカ」
と呟いた。
画面に映るのは弘毅の姿。それを見ていた少年が携帯電話で会話をしていた。
「ああ、弘毅君がここに着いたよ。迎えに行って。それと、くれぐれも奴等に見つからないようにね。弘毅君はこれとない人材なんだからね。奴等に取られたらそれこそ世界の終わりだよ。」
「はい。分かりました。それでは新設地下通路を通って行きます。」
「うん。そうして。じゃ、頼むよ。」
「はい。」
「ブッ・・・・・・・・」
そうして電話は切れた。電話をしていた少年の声色が突然低くなる。
「ククク・・・・榛志久弘毅君か。おまえはこっちの世界の住人だったらいいのにな・・・・・クククククク・・・・・・・」
その頃、弘毅はまだあの航空路にいた。
「暑ちぃぃ〜〜!!俺はどうしたらいいんだよ!ああムカつく!」
炎天下の航空路はアスファルトからの地熱でかなり暑くなっていた。
そして弘毅はふと地面から顔を上げると向こうからバイク(サイドカー付き)に乗った1人の女が弘毅のもとに向かってきた。そして、目の前で止まったかと思うと、突然、
「早く乗れ!!奴等が来る!!」
バイクのヘルメットで顔は分からないが声は透き通るような綺麗な声だった。だが弘毅はなんのことか分からず、
「は?意味わかんねぇよ!奴等って何?つーかお前誰だよ!?」
と、聞き返す。
そのとき、弘毅の頭の上から1人の少年、いや、子供とも見てとれる男の子が体中に氷をまとった姿でバイクに乗っている女に向けて手をかざし、氷の塊を投げ飛ばした。そして子供は航空路に着地する。
「チッ!」
その女はその塊を危うく避けると、
「榛志久 弘毅!早く乗れ!」
と、弘毅に叫ぶ。少年はまだ幼い顔だちに似合わない殺気に満ちた目をギラギラと光らせ、弘毅を睨み付けていた。
弘毅がそんな少年の殺気に押されているところに、もう1人の弘毅が、
(こいつはやべえな・・・とりあえずあの女の所まで走れ!)
「わ、わかった!」
と叫んでいた。そして弘毅は言う通りにその女のバイクに向かって走る。だが、バイクまであと1メートルというところで目の前に氷の雨が降り注いだ。
「うわっ!」
避けはしたものの、バイクに伸ばした手に、さっきの塊で切れたのだろうか、血が出ていた。その血を見た瞬間、弘毅は学校での喧嘩のときのように深い海に落ちたような感覚に襲われた。
そう
この世界に
自分しかいないような
孤独の底のような世界に弘毅は落ちた
(クッ・・・・・)
「クッ・・・」
気がつくと、前に広がる映像に弘毅自身が映っていた。変わったことは、現実世界の弘毅からは何かどす黒い物が溢れ出ていた。それは、禍々しいというか、おぞましかった。しかも、弘毅の体にまとわりついているのは黒い服、いや、まるで真っ黒に染まった龍そのものだった。
「ん?なんか体が軽ぃな。でもこれは趣味悪いんじゃねえか?」
弘毅はこれ以上自分の姿を見ていられなかった。それはもう見れる域を超し、怖い存在だったからだ。
そんな様子を見ていた女が呟いた。
「遅かったか!」
そして、弘毅や女を襲った少年は突然殺気を消し、まるで神にもすがるような目でいきなり弘毅を拝みだす。
「弘毅様。あなた様は我々の柱となりこの世を引っ張って行くでしょう」
行き成りの態度の変化にもう1人の弘毅は驚く。だがすぐに驚きが怒りに変わってくる。
「はぁ?何が我々だぁ?ふざけんなよ。俺はもともと誰かに束縛されて生きるようなタチじゃねえんだよ。第一お前らなんなんだ?いきなり来てバイクに乗れやら、行き成り戦闘始まったり、挙句の果てに俺にてめえらの柱になれだぁ?寝ぼけたことほざいてんじゃねえ!!なぁ弘毅!?」
(・・・あ、ああ・・・俺にも良く分からん。それよりその体・・・・・)
「ああ、こいつか。俺からしたら居心地がよくなったんだが・・・・・どうも相棒が聞きたがってるんで聞かせてもらおうか。この体の正体は一体なんなんだ?」
弘毅は少年に問いかける。
しかし少年は口ごもったままだった。
「おい。何とか言えよ。殺すぞ」
『殺す』の一言で少年の肩がさっきより小さくなって見える。
(お、おい・・・・なんか怖いぜ?お前・・・・・・)
(うるせぇ。黙ってろ。)
「で、俺の質問に答えてもらおうか」
「いや・・・・それは・・・」
「ドン!!!!!!」
少年の隣に穴が開いた。
それは何故かは分からない。
だが、もう1人の弘毅の心が一瞬真っ赤になったのは分かった。まるで全てを焼き尽くして何もかもがなくなるような。
だがもう1人の弘毅はそんな出来事もお構いなしにイラついた様子で少年に問いかける。
「お前いい加減ウゼェぞ。もういい。大体はこの体や力は分かった。興ざめだ。キエロ」
弘毅は自分の心に禍々しい感情が渦巻くのが分かった。そしてもう1人の弘毅が何をしようとしているのかも。
(おい!やめろ!落ち着け!)
(うるせぇな。いいだろうが。こんな意味不明な奴。殺してポイ、だ。)
(ちっ!)
もう1人の弘毅が腕を少年に向ける。するとその腕から黒い空気が流れ出し、ついには手のひらに集って、黒いボールのような物に成りつつあった。
そして黒いボールのような物は段々小さくなっていった。そして、
(やめろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!)
もう1人の弘毅の手のひらから離れて野球のボールのように少年にまっすぐ飛んでいく。
そして弾けた。
「ドォォォォォォォォォォォォン!!!!!」
こんどはさっきの穴の比ではない。直径10mくらいの穴、いや、クレーターがあいていた。
少年の姿はない。
「どういうつもりだ?」
弘毅が問いかける。バイクに跨り、少年を抱えたまま佇んでいる女に。
問いかけられた女は弘毅に言い返す。
「弘毅はんでっか?ウチは花形サユカいう者ですぅ。あんさん大崎高校の人でっしゃろ?あんさんはこっち側の人間なんですから。そないに人パンパン殺したらあきまへんで。おぉ!まぁそないに怖い顔せんと。」
いつの間にかもう1人の弘毅は感情をむき出しにしていたらしい。顔が般若のような顔になっている。
「で、お前は誰なんだ?」
顔はそのままで弘毅は問いかける。
「ウチは・・・・・正義の味方・・・・とでも名乗ってお」
「バン!」
サユカの隣に穴が開く。
「真面目に答えろ。」
「はいはい、分かりましたがな。沖縄国立精神管理高等学校の者ですがな。これで分かりましたか?特別なあんさんの為の新しい学校ってモンですな。なんでこんな所まで来たかは・・・・・今までの出来事で十分に分かりましたな?
奥底の弘毅はん?」
(おい。これって俺の事か?)
(さぁな。だがこんな詰まらん茶番は終わりだ。もういいだろ。)
(おい!まさか!また)
(はぁ?何言ってんだよ。お前さっきの見てなかったのかよ。あの女俺のあの攻撃を交わすだけじゃなく何かを使って相殺しやがったんだぞ?んな正体不明な奴殺しても何の楽しみも湧かねぇっての。もう疲れた。交代だ。)
(そ、そうなのか?すげぇなあの人・・・・・じゃなくて)
「おい!」
弘毅は気が付くと現実に戻ってきていた。
目の前には確かにさっきまで見えていた光景が散らばっている。割れたアスファルト。大きい穴。そして沖縄ならではの暑い日差しの感じまで戻ってきていた。そして少年を抱えて佇んでいるサユカも。
「まぁ大体そっちは話ついたみたいやし。ほな行きましょか。」
やれやれ、という感じでサユカが喋りだす。
「は?どこへですか?」
今までの自分とは違い、今の自分と目の前の女とは初対面なのだから、一応敬語を使わないといけないかと思い敬語を使っておく。
「何言ってまんねん。我らが城・・・・オッホン・・・沖縄国立精神管理高等学校ですがな。」
「はぁ・・・・・」
「まぁそないに心配せんでもええです。取って喰ったりしませんがな。」
「え〜と、そういうことではなくて・・・・」
弘毅は今気がついた事を率直に述べる。
「その男の子、どうするんですか?」
その問い掛けにサユカは面食らった顔をする。
「どうするも何も。執行部と拷問クラブにでも預けますがな。」
「ご、拷問クラブ!?」
一体どういうクラブなのだろうか。弘毅の頭の中では良く分からない妄想が渦巻く。
「どんな事するんですか?」
弘毅はサユカに恐る恐る聞く。それに対しサユカは、
「だから常識的に考えて捕虜は拷問、尋問してこちら側に有益な情報を吐かせる為の道具ですがな。」
と、サラリと言ってのけた。
そのサユカの非人間的な言動に今度は弘毅自身の心が怒りに包まれる。
(ほぅ・・・)
「あんたは何考えているんだ!こんな小さい子供を拷問!?ふざけるのもいい加減にしろよ!この悪魔!死ね!」
何故こんな事しか言えないのであろうか。自分自身まったく幼稚だな、と思う。
だがサユカはそんな弘毅の怒りにも動じずこれまたサラリと言いのける。
「あんさん何か勘違いしてまへんか?コイツは最初あんさんを殺そうとしましたんやで?」
「だ、だからってそんな小さい子供を手に掛けるなんて酷すぎです!」
「じゃあ聞きますえ?やられたらやり返す。これあきまへんか?」
「いやそれは普通にいけないと・・・・」
「甘い!甘すぎやで!ちゃんとケジメつけやな気が納まらん奴が世の中にぎょう〜さんおりまんねんで?あんさんの小さい世界観で私らを比べんといてください。第一コイツはあっち側の・・・・・・・」
そこでサユカの口の動きが止まる。
「どうしたんですか?あっち側って・・・」
「なんでもありまへん。ほな行きましょか。」
サユカが跨っていたバイクから降りて弘毅に近ずく。
「え?っておい!まだ話は終わってないぞ!おい!放せ!おい!お・・・・・・・・」
サユカはその手に持っていた注射器を弘毅の首に刺す。弘毅の様子からすれば多分睡眠薬だろう。
「すぅぅぅ・・・・・・すぅぅぅ・・・・」
そして弘毅が完全に眠ったのを確認するとサユカは一人呟く。
「これしかありまへんねん。裏のあんさんの力が生まれた時点でまた大きな戦いが起こる。それを失くす為にも表のあんさんの力が必要なんです。そしてこれからの色々な出来事も・・・・・・」
そう呟きサユカはサイドカーに弘毅と少年を乗せ滑走路を走り出した。