2話
第2章心との対話
豪邸ともいえる屋敷の一室で弘毅は、今日あった色々な事を自分なりに整理していた。
(やっぱさぁ、あれは夢だったんだろうか。それとも本当に・・・・・)
色々な事が弘毅の頭を過ぎっていたとき、弘毅の自室のドアから「コンコン」というノックが聞こえ、返事を待たずにいきなり部屋に、1人の少女が ドカドカ となだれ込んできた。
この少女は弘毅と同じ大崎高等学校に通う幼馴染の 月烙 美代 だった。美代の家は大崎市No.2の月烙コーポレーションの1人令嬢だった。弘毅とは幼稚園からの付き合いで、朝はいつも一緒に登校している仲だ。しかも美代は学校1の美少女で、ひっそり憧れを抱いている奴も少なくはなかった。
「今度はちゃんと『人の部屋入るときにはノックする』っていうことができましたね。でも返事待たずに入るなよ。」
と、弘毅は皮肉たっぷりに美代にいった。
「うるさいわねぇ〜レディに対するデリカシィのない奴に言われたくない!」
「デリカシィってそもそも何?っていうかおまえ何しにきたの?」
(今日はただでさえ色々あったのに、こいつが来ると余計に気が滅入るよ・・・・・・)
「何よ?用なしに来ちゃいけないの!?」
「いけないね。だから何しに来たんだよ。」
「だって、家に居ても1人じゃつまんないもん!だからあんたの所に来たのよ。」
「何だよそれ・・・、俺はお前の暇つぶしなのか?つーか、出て行け。」
「なによ〜!せっかく来てやったのにその態度は。どうせあんたも暇なんでしょ?」
「誰も来てなんて頼んでねえし、暇なわけねーだろ。今日は色々あって疲れたんだよ。だから、か・え・れ。」
「嫌だ〜〜〜!!」
まるで赤子のように駄々をこねる美代に弘毅はいつもの事なので無視をし始め、漫画を読もうとしたとき、いきなり漫画に伸ばした手を美代のミルクのように白く冷たい手が握った。
「な、なんだよ。何も話す事ねえよ。手離せよ。」
その握った手を見て弘毅はドキッとした。
「そんなこと言わないで話しようよ〜〜!」
と、しつこいセールスのように、なんとか弘毅と話そうと美代は懸命に説得しようとしていたときに、美代の携帯から奇妙なボイスが聞こえてきた。
「あ。お母さんだ〜帰ってきたんなら美代も帰ろ〜っと、弘毅。」
「ん?」
「今度こそは話せるように話題を考えておくこと!これ宿題だよ!」
「はぁ〜!?わけわかんねよ!なんでお前と話さなきゃいけねぇんだ。」
と、弘毅が振り返るとそこには誰も居なかった。
「あいつ〜!!マジむかつく。なんだよいきなり来て自分から喋ってたくせに俺になんの挨拶もなしに帰りやがって。」
弘毅は1人広い部屋で叫んだ。
美代が帰ってからも弘毅は物思いにふけっていた。
(あの出来事が嘘なら2人組みの奴らのこと・・・・・どう説明するんだ?・・・・・そういえば夢の中の奴が説明してやるとか言ってたけど・・・・・・どうなってんだよ・・・・・・)
そのとき、弘毅の頭の中に声が響く。
(なんか呼んだか?)
と、弘毅の疑問に答えが返ってきた。そして自分の頭の中は何かがいる、という確信を弘毅は持った。
「わぁ!!だ、誰だ!?」
(誰とはねーだろ誰とは。)
「もしかして今日の奴か!?」
(そうだろうな。多分)
そのときの弘毅の頭の中は色々な考えでゴチャゴチャであり、そして、この出来事を理解できるような状態ではなかった。
「おい!お前は何者だ!?」
(そんなに怒鳴ると外の皆さんに聞こえるぜ。もうちょっと大人しく質問してくれ、必ず答えてやっから。)
「あ。ああ・・・・・・で、質問に答えろよ。」
(まず、俺が何もんなのかってことから説明しよう。俺は、榛志久 弘毅 つまり、おまえ自身だよ。)
「は?」
弘毅はまったくわけが分からない、というような顔をしてしまった。そんな自分に気がつき、普通の顔に戻ると一気に喋りつくした。
「ちょ、待てよ。おまえが俺ってことはまずあり得ないことだ。だって現に俺は今ここにいて、さっきまで漫画を読んでたんだ。そんな俺がお前ってことはあり得ないんだよ。」
(これでもわかんねえのかマヌケが。俺様がマヌケのお前にも分かるように教えてやろう。俺はお前の危機的本能から生まれたもう1つのお前だ、分かりやすく言うと、お前はさっきの時点で多重人格者になっちまったんだよ。そして、お前が殴られたとき、お前の「助けて」っていう強い気持ちが俺を生み出したんだ。これにより俺はお前のもう1つの人格となって、お前は多重人格者となったんだ。これで分かったか?)
弘毅は分かりやすく言われていたが、信じられないことが多すぎて余計に頭の中が絡まってしまい、まだ事態が飲み込めていなかった。それでも2分くらいすると弘毅にも分かるようになってきた。
「じゃ、お前はもう1人の俺なのか?」
(だから何度も言ってんだろ、そうだよ、俺はもう1人のお前だよ。分かったか?)
「あ・・・・ああ。なんとなく分かった。もう1つ聞きたい。お前はいつ出てくるんだ?」
(俺はいつでも出てこれるぜ。お前が望むのならば、お前が死にかけていても、授業中でも、どこにいても出てこれる。だが、お前にしかこの声は聞こえないし、俺はお前の頭の中にしか出て来れない。つまり、実体化はできないってこと。)
「人格だから実体化できないのは分かるよ。でも、今日の2人組みをやっつけたのは誰なんだ?」
(それは俺だ。あのときお前の体を借りて、お前の体の中に俺の人格が入った状態だったんだよ。)
「ということは、あのときの俺はお前だったのか。」
(そうだ。)
「大体分かってきたぞ。やっぱあれはマジだったのか・・・・」
(そうだよ。いい加減認めろよ・・・・)
「じゃあ、俺はお前と喋っているときはみんなにはこの会話は独り言に聞こえるってことか・・・・」
(いいや。お前が心の中で言いたい事を言えば俺はそれに答えるし、お前も考えてるようにしとけば、みんなに変に思われないぜ。)
(へぇ〜)
(そうだ。そうやるだけで俺と話せる。)
「ああ分かった。まだまだ聞きたい事は色々あるが、今日は眠すぎるからまた明日にするよ。」
(ああ。言い忘れてたが俺との対話は体力を使わないが、俺がお前の体に入るとお前の体にかなりの負担がかかるんだよ。)
「なんかそれスーパーマンみたいだな・・・・」
(お前の思い描いてるスーパーマンってどんなんだよ・・・・・)
「まぁどうでもいいや。ふぁぁ・・・・」
こうして弘毅は今から起こるとてつもない事などまったく知るよしもなく、安らかに眠りについたのであった・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・