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一話

「ウィーン・・・ウィーン・・・・ウ・・・」

山奥の彼方にひっそりと建つ白い建物から警報のような音が流れてくる・・・・・・・・・・・・・・・・

だが、この音はこの120年間1度も流れることのなかった音だった。

そして、その建物の壁、というか壁に空いた大きな穴から1人の少年が出てきた。

「ハッ、だりぃ!」

「・・・・・・もういやだぁ・・・・・・」

1人の少年が連続して言葉を発する。

そして、走る。走る。走る。穴から出て林を突っ切る。

やがて見えてきた滑走路。

後ろから追いかけてくる執行部の犬達。

その追っ手の見えない攻撃を片手で相殺しながら少年は1キロぼど先の飛行機に向かって走る。

そして最期の追っ手を完全に沈黙させ飛行機の中に飛び乗る。

「行け。」

短く。ただそれだけを操縦士に伝える。

唸りを上げるプロペラ音。

地上から離れていく機体。

そしてその少年は暗い夜の闇に消えていった・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




第一章心の目覚め

「ああーー!これから何して帰ろうかなぁ?」

大崎市立高等学校の屋上に1人の少年が寝ころがって空を見ていた。

この少年こそ、この物語の主人公の榛志久 弘毅 である。彼は大崎高校1年生16歳、親は大手化粧品メーカーの社長であり、弘毅はその1人息子であった。しかも、入学してから常に成績は2・3位をとっているだけあって、先生達には評判が特によかった。だが、弘毅は毎日こんな親の言う事ばかり聞いて生きて、いい大学に入って、会社を継ぐ、などという人生は弘毅にとって嫌気がさすような人生でしかなかった。

だから弘毅は色々考えたいときは、いつも風の当たる屋上でぼー、っとしているのである。

そんな弘毅が空を見ていると、

「お!やっぱここか、お前いつもここで空見てるよな?」

そんなときに、1人の色黒の少年がやってきた。

(ん?こいつ誰だったけなぁ?)

弘毅は昔から人と接することが苦手だった。だから、入学して半年以上は経つのに、クラスメートにまだ馴染めてないのである。

「え〜〜と、失礼だけど・・・誰?」

その色黒少年はやれやれというような顔をして、

「My name is 菊崎 ハル」

と、なぜか英語で名前を名乗った。その傍らで弘毅は、せっかくの1人の時間を邪魔されたのが嫌だったのか、

(なんだこいつ?意味わかんねぇ・・・見ぬふり、見ぬふり・・・)

と、視線をまた広く広がる空に移す。

弘毅の横で1人で自己紹介してる色黒少年はその弘毅の様子に気ずいたのか、

「あ〜!!おまえ、どうせ俺のこと変なやつと思ってるやろ!ふん!ええよもう!」

(あ〜、うぜぇ・・・・、こういうハイテンションの奴嫌いなんだよなぁ・・・)

「俺になんか用なの?」

イライラした調子で弘毅は聞いた。すると、その関西少年は、話を聞いてくれるのが嬉しかったのか、にこにこして、

「あのさぁ、俺とダチにならへん?」

(んだよこいつ、わけわかんねぇ・・・・)

弘毅は学校ではあまり人と接するのが嫌いだったから、友達といえるものはいなかった。だから、正直嬉しかったのだが素直に喜べないのがこの男の欠点なのである。そうこう考えてる内にハルは、

「なぁ〜ええやろ?」

と、聞いてきたので弘毅は、

「なんで俺なんかと友達になりたいの?」

弘毅ははじめからこれが疑問だったのである。すると、ハルは芝居のかかった悩んだ顔をすると、

「なんか、お前はみんなと違ってるところがおもろそうやから!」

ハルは自信満々の顔で答えた。

「あのなぁ〜、人のこと勝手におもしろいとか決め付けんなよな・・・」

「ええやん。だってほんまにおもろそうやもん!」

(こいつの方がなんか人と違うんじゃねえか?)

色々な考えが頭の中で行き交う中、ウザったい気持ちと、友達が欲しい気持ちが対立していた。しかし弘毅は折角の申し出を断るのもなんだと思い、結局友達になる方に決めたのだった。

「別にいいよ。ダチになっても・・・」

「ホンマか!?おお〜〜!これからもよろしく!」

と、本当に嬉しそうにして今度は握手を求めてきた。弘毅はやれやれという感じで苦笑いをしながらも手を差し伸べて、ガッシリしたハルの手を握った。そして、ハルは、何かを思い出したような顔をして、

「そういえば、お前の名前聞いてへんかったな?教えてくれ。」

「俺は、榛志久 弘毅」

「ふ〜ん、ってその名前どっかで聞いた事あんぞ?」

そうなのだ、弘毅は大崎市で1・2を争う資産家の1人息子なのだ。しかし、弘毅はそんなことをまったく言わない高校生だった。だから、みんなに色々言われてきたが、それも全て無視してきた。正直、弘毅は榛志久家に生まれてきたことを後悔していて、いっそのこと家出までしようか、と考えたほど自分の特別な部分が嫌いなのである。

「そんなことどうでもいいから、帰ろうよ。」

「あ、うん。そうやな。帰ろう帰ろう。」

そうして、やっとその話題から抜け出して帰ろうと思い、屋上のドアを開けて2人は階段に向かおうとしたところで、3人の不良が弘毅達の前に現れた。

「やっと見つけた〜ハルくんよぉ・・・・今からお返しの始まりだ!」

と、その中でも飛びぬけて体の大きい不良が、大声で怒鳴った。その不良の後ろから2人の鉄パイプを持ってハルを睨んでいた。どうやら、ハルがこの大きい不良と喧嘩で勝ってその仕返しをしに来たらしい。

「おい!なんかおまえしたのかよ!?」

「あ〜?俺何かしたかなぁ〜?」

と、本当に何も覚えてないらしい様子でハルは答えた。正直ムカついた。

「んなこと言ったって、あちらさんはお前の名前を呼んでんだぞ!?」

「でも、俺弱い奴に興味ないしなぁ〜?」

(なんかちょっとカッコいいかも・・・・)

なんて思ってしまうバカな弘毅であった。

そうこう考えている内にハルは、

「え〜と・・・どこのアホンダラじゃボケェ!!おのれらとしゃべってる暇なんかないんじゃボケ!」

と、さっきとは違う声色で怒鳴りはじめた。

「おのれらのせいで弘毅が怖がってるやないけぇ・・・・おのれら・・・・・」

ハルが何かを言おうとしたとき、いきなり後ろの鉄パイプを持っていた奴がハルを殴りに掛かった。突然の攻撃にハルはなすすべもなく殴られる。

「く、痛いなぁボケェ!!死にさらせ!」

と、叫ぶなりハルは体のでかい奴の顔を殴ろうとしたが、さっきの鉄パイプのもう片一方の奴がハルの顔面を殴った。ハルはもう一度殴りかかろうとしたが、結果はまた同じだった。

その後、ハルは2人に滅多打ちにされて、でかい奴が二人に「やめろ!」と怒鳴るまでやられっ放しだった。

そして2人の片一方が、

「こいつどうします?」

と、弘毅を指差して、でかい奴に聞いた。

「そいつもやれ。」

(ええ〜!俺関係ねぇ〜よ!マジで!?)

弘毅は、ほとんど泣き顔で、

「なんで俺もなんですか!?俺何もしてませんよぉ・・・」

「口封じ。」

と、一言だけ言って階段を下りていった。

弘毅にはその一言が死刑宣告のように聞こえた。

「あ〜行っちまったよ・・・」

「じゃ、早いとこ終わらせますか・・・」

そして、弘毅に近寄りいきなり顔面を蹴る。弘毅は鼻から出てきた血を見て、弘毅の心の中で何かが湧き上がってきた。怒りではない何かが弘毅の頭の中に入ってきた。

榛志久 弘毅は生まれてから一度も血を流した事がなかった。

そう一度も。

擦り傷も切り傷もまったくしたことがない。

というか怪我すらした事がない。

そんなドジを踏むような男ではなかった。

(お前さぁ・・喧嘩弱いな・・・・。こんな奴らに負けてるなんて・・・・・情けねぇな・・・)

弘毅はその瞬間、深い海に落ちたような感覚に襲われた。

暗い、暗いまるで光が奪われたように暗い世界に弘毅の意識はいた。そして、弘毅は暗闇から自分の姿を見ていた。

階段に横たわる自分の姿。2人の鉄パイプを持った男。

(これは・・・・・俺とさっきの2人?ってか、俺の体は?おい。どうなってんだ?)

そして、これから広がる映像が動き始めるのを弘毅はただ見ることしかできなかった。


「男のくせに得物使うってのは卑怯じゃねえか?」

「は?なんだコイツ?」

「ああ〜気が狂ったんだな。きっと。」

2人は鉄パイプで弘毅の顔をダブルで横から狙ってきた。だが、弘毅はそれをなんなく避けたと思うと、前に踏み込み、2人の髪を掴んで振り回し始めた。そして、

「ブチ・・・・ゴン!!」

と、気味の悪い音がしたかと思うと、弘毅の前には髪の抜けた2人が頭から血を流していた。

そして、弘毅は笑っていた。

「いやぁ〜暴れれてよかったぜ。だが、この体は居心地が悪いからもう変ってやるよ。」

と、高らかに叫ぶ。

(は?どういう意味なんだ?ってかお前誰だよ!)

弘毅は目の前の映像に向かって叫ぶ。

「心配すんな後で話してやるから。そんなことよりこいつを保健室に連れて行ってやれよ。」

そう言って、弘毅はハルを指差した。

(はぁ??意味わかんねぇ!どうなってんだよ!これ!)

「だから心配すんなって言ってんだろ・・・・。今代わってやるから。クッ・・・」

(なんだ?クッ・・・・わぁぁぁぁぁ!!!!)

そのとき、またさっきと同じ感じ感覚に襲われた・・・・・・・

「ん?」

気がつくと、弘毅の意識はさっきの階段に戻ってきていた。そしてその階段の下の広場には鉄パイプの2人が白目になり横たわっていた。

「ウぅぅ・・・・・」

「あ!おい!大丈夫か?」

弘毅はハルが今にも死にそうな勢いで血を頭から吹いてるのを見て一瞬どうしたらいいのか躊躇したが、映像の中の弘毅の言っていた事を思い出し、言う通りにハルを保健室まで運んだのだった・・・・・・・・・

・・・・

・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「いやぁ〜〜俺死ぬかと思ったわ!ハハハハハ!!とにかく、マジでありがとう!!」

「いやもういいよ。それ何回も聞いたから・・・・」

(はぁ〜帰りてぇ・・・・・)

あの後弘毅は保健室までハルを運び、職員室から養護の先生を呼んできたり、と大忙しだった。だが、養護の先生は「この子はいつも喧嘩してここに来るのよ。強いんだかなんだか知らないけどその後からまた違う子たちが来て、またここで喧嘩が始まるのに、今日はどうしたのかしら。」などと、のんきな事を言って頭に包帯を巻き終えた後、どこかに行ってしまった。そして、弘毅がうんざりした様子で窓から木を見ていると、そんな弘毅の様子に気がついたのか、

「よし帰ろか!もう6時半やからな。」

「ああ。早く帰ろう。」

そうして、保健の先生がいないうちにさっさと弘毅たちは保健室をあとにした・・・・・・・・・・・・・・・



「なぁ?さっきから気になってたんだけど、あれからどうやって、あいつら倒したん?」

「え?え〜〜と・・・・・」

帰り道、そんなことを率直に聞かれて弘毅は内心困ってしまった。

(どうしよ〜〜こんなときは正直に言ったほうがいいのかなぁ〜?)

「その・・・、俺がやったんだあれ・・・」

「ハハハ!冗談は寝言で言わなあかんぞ!」

(やっぱり・・・・)

と弘毅は思った。なぜなら弘毅は喧嘩など嫌いだし、最近では血さえ見たことない学校ではとても大人しい1高校生だったから(自称)、そんなやつがあの2人を倒せるということなどあり得ないのだ。

「そうだよな〜!冗談だよ冗談。」

「そうそう。お前はそれでええんや!ガハッハハ!」

と、笑うと、

「んじゃ、あれ誰がやったん?」

と、真剣に聞いてきた。

(やべぇなぁ・・・・・なんて言い訳しようかなあ・・・・)

「あれはなんか3年生がいっぱい来て、そのあと・・・・・・・・・・・」

と、その後適当に捲し上げて20分後、途中、

「俺CD買いにいかなあかんねん!じゃな!また明日!」

「ああ。バイバイ〜」

と言って、帰っていってしまったハルを見送り、弘毅はやっとのことで家路に着いたのだった・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




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