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異世界エース  作者: 兄二
09,空棘
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91話 残響

 酷く懐かしいコクピット。

 二人乗りに変わったが、それ以外大きく変わったわけでもない。

 カラーリングが黒を基調に変更された相棒は常に無言で動いている。


『コテツ、機体に問題は出ていないな?』


 通信を行ってきたのは金の長髪の女性、シャルロッテ・バウスネルンだ。


「問題ない」


 コテツのシバラクと、シャルロッテのラヴィーネリッター、そしてアルベールのシャルフスマラクトが道を歩いていた。


『長時間の稼動も問題ないようだな』


 通信の向こう、シャルロッテの赤みがかった瞳が、コテツを見つめている。


『まぁ、さんざっぱらテストしたからねぇ……』


 そのテストに付き合わされたアルベールがぼやく。

 それに対しシャルロッテは苦笑し、次の言葉を続けた。


『この分なら、今日の夜には目的地に着く。このまま行軍を続けるぞ』

「了解」

『あいよ』


 前回の領主の事件からしばらく。三人は、とある街に向かっていた。

 その街の名前はオスト。

 領主が武器を送っていた街の名だ。


『気を抜くなよ……、と言ってもお前に言う台詞ではないな』


 伯爵への尋問はあまり効果を成さなかった。知ることは幾らでも喋ってくれたのだが、重要なことはなにもわかっていなかったのだ。

 ただ、武器を送って利益を得ていただけで、中身にまで関与していない。

 だからこそ、調べる必要があった。

 そうして白羽の矢が立ったのがこの三人だ。


『案内は街が見えるまでだ。頼むぞ』

「俺が役に立てるのは最悪の事態からになりそうだが」


 コテツにとって、これまでに似たような任務がなかったわけではない。エースの仕事ではないと思えるかもしれないが、送り込んで調査を行いそのまま目標の施設の破壊までを行なう、となればエースを送り込むのが一番人手が要らない方法だ。

 エースに平気で無茶をさせる地球軍だからこそのものではあるが。

 しかしながら、その経験がそのまま生かせるとも思えない。世界が違えば勝手が違う。

 どちらかと言えばコテツに期待されているのは最悪の事態での武力だろう。


『お前はそういうが、一応お前の冷めた視点というのにも期待はある』

「ふむ……?」

『貴族の誇りや、優雅さといったものを考慮しない効率優先の考えはエトランジェに数多く見られるそうだ。いわゆる、色眼鏡の有無という奴だな』


 どうやら、現代人の一般的な考え方はこの世界の貴族階級などにおいては冷めた考え方になるらしい。


『手は抜いてくれるなよ?』

「わかっている」

『じゃあ俺は?』


 と、そこでアルベールは自分の呼ばれた訳を尋ねてくる。

 シャルロッテは、すぐさまぞんざいな答えを返した。


『お前は擦れてるからこういうのは得意だろう』

『酷っ』












『さて、これから私は別行動を取る。そちらも頼むぞ』


 そして、街が見えた頃、シャルロッテが離脱する。

 シャルロッテが行うのは大っぴらな調査だ。騎士団長の立場を明かした上で表向きの調査をする。

 その間に、コテツ達は実際の街の状況を見て回るということだ。

 それで何かわかれば、王女が大々的に解決に乗り出すこととなる。


「了解。こちらはそのまま街に入る」


 そういう事情もあり、シャルロッテは怪しまれないように時間差で街に入る。

 今回の場合は、あまりコテツの顔が売れていないのが幸いした。

 この世界の情報伝達の主流は伝聞だ。噂話だけは各地に轟いていても外見の情報は言葉のみでは伝わらない。

 そういう状況柄、外見情報は錯綜し、定かではなくなっている。そして、よしんば正確な情報を耳にしていたとしても、コテツの外見は目立つものではない。

 コテツとその情報を結びつけるのは難しいと言えるだろう


『しかし調査ねぇ……。上手くいくもんかな。嘆くべきは、人材不足か……』

「仕方あるまい。前回の件の領主が、役人に金を握らせていたことを考えるとな」

『四面楚歌、ねぇ……。戴冠式終わって正式に女王になれば変わるかね?』

「さてな」


 街までの距離はそう長くはないとはいえ、しばらくはある。シャルロッテがいないせいか、アルベールの口数が増える。


『しかしさ、ダンナの顔バレは大丈夫なん? 世間には大丈夫でも、その、なんだっけ? テロやってるアレ。そいつらには見られてんじゃないの?』

「見られている可能性はあるな。微妙な線だ。できるだけ顔は隠すようにするつもりだが」


 直接接触があったとすればアンソレイエの式典の時だ。

 その時本当に直接相対した人間は既に捕縛されているが、他に潜んでいた人間がいればどこで見られているかはわからない。

 見られていて広まっているかどうかは、どちらも推測にしかなりえない。できることは、常に軍服である印象を変える変装の真似事をするくらいだ。


『まあ確かに印象に残るって外見じゃねーし、すれ違ったくらいじゃわからねーかな……』


 その為に、コテツの服装は現在軍服ではなく、黄土色のズボンに、黒のぴったりとした半袖のインナーの上から胸当てを装備している。

 機体を降りればその上からマントを着込み、ツバの広い帽子を被ることとなる。こうなれば、正に冒険者と言った出で立ちだ。


「そろそろ着くが、現状においては街の中の状況は全く以って不明だ。先に調査に送った人間は異常無しと報告を寄越してきたが、信用できない」

『身内以外信用できないって凄まじい状況だよな。あの王女様もよ。でも、んな報告して怒られねーの?』

「その報告後、調査員は行方を眩ましている」

『マジか』

「ああ。金を握らされたのか脅されたのかは不明だが」

『……完全に黒じゃねーか』

「そうだ。しかもこれが時間稼ぎだとするとあまり時間を与えると何か面倒が起こるかもしれん」

『だから俺ら、ね』


 映る街の姿は見た目上はなんの変哲もないが、心情的にはその背後に暗雲が立ち込めているくらいだ。


「街に入った瞬間銃が突きつけられている位のことはあり得る。それくらいの覚悟はしていくべきだろう」

『おいおい、大丈夫かよ。そんなんで。やっぱあざみの嬢ちゃんかエスクードの姉さん連れてくるべきだったんじゃ』

「彼女らは目立ちすぎる。それに、男女の二人乗りというだけでもエトランジェを連想させる」

『まぁ、そうだけどさ』


 二人乗りの機体が少ない中で男女の二人乗りを見れば正にそうなると言えよう。

 それに街を歩いていても彼女らは人目を引く。目立つことが好ましくない以上連れて来るわけにはいかなかった。


「彼女らは近くの村で待機している。何かあれば来るだろう」

『ま、女の子におんぶに抱っこじゃカッコつかないか。よしおっけ、腹括るわ』


 そして、二人の機体が街の目前へと辿り着く。


『格納庫はっと……』


 二人は、門の外側にある格納庫へと機体を運んだ。

 そして、そこに跪かせ、コテツはマントを着込み、帽子を深めに被ってコクピットの外へと出た。

 地面に降り立つと、駐在の兵士が駆け寄ってくる。


「あんたら、身元の証明はできるか? できないとちょいと面倒な手続きがいるが……」

「うわ、なにソレ」


 驚いたように、アルベールが眼を丸くした。

 それに対し、兵士は頭を掻きつつ説明する。


「まあ、ちとごたごたがあってな。街に入れる人間には気を配ってんのよ。どうかご理解を」

「これでいいか?」

「ギルドカード、ああ、そいつでいいや。一番手っ取り早い」

「ほい、俺のも」


 コテツとアルベールが懐からカードを取り出し、渡す。

 ただし、これは今回の件のために偽造されたものだ。コテツ・モチヅキの名の変わりに、ラルフ・フランケルと刻まれている。


「冒険者ね……」

「おうさ。ダンナとコンビ組んで長いことやってる」

「やっぱコンビの方が分け前はいいのかね?」

「まぁね。つってもできることは狭まって金額的にはどっこいだけどさ」


 アルベールが、笑いながら自然に言葉を交わしていく。


「ふーん? ところでそのダンナの顔、見せてもらっても?」


 言われて、食い下がることもなくコテツは帽子のツバを上げた。


「ああ、すまない。つい先日まで日差しの強い場所で仕事をしていてな」

「あー、よくあることだな。精々体調を崩さないよう気を付けるこった」

「やー、悪いね。うちのダンナは無愛想で。これだから仲間も捕まんないんだ」

「なるほど。そりゃ大変だ。そいで、ここには仕事で?」

「いや、仕事は終わった。帰り道にあるから立ち寄っただけだ」


 なるほどなるほど、と頷きながら兵士が手にある紙束に何事かを書き込んでいく。


「うむ、特に問題はなしっと。よーし、お二人さん、ようこそオストの街へ。歓迎するぜ、と言いたいところだが、長居はしない方がいい」


 苦笑しながら、兵士はそう言った。

 いきなり、それも街に入る前から問題の一端が見えて、コテツは少しだけ目を細めた。


「何故だ?」

「今はなんつーか、治安が悪い。あっちこっちで喧嘩はするし、亜人どもがひったくりだのしやがる。おかげであちこちピリピリしててな」

「……ふむ」

「亜人なんざとっとと駆除しちまえばいいんだが……」


 今回の調査と治安の悪化。無関係というにはあまりにタイミングがよすぎる。


「忠告、受け取っておこう」

「ま、途中に立ち寄っただけだからな。休んだら、出て行くさ」


 とりあえず頷いたコテツに、アルベールが続いた。


「そうするといい。じゃ、行っていいぜ」

「あいよ」


 兵士が顎で示した街の方向へと二人は歩き出す。


「やー、怖いね。既にしてやばい空気漂ってんだけど」

「そのようだな。気は抜くなよ」

「脅かされても困るって」


 コテツの心境としては創作でよくよく見かける大昔の猟奇殺人犯がいた霧のロンドンに入るかのようなものだが、この街の空気はあまりに澄んでいて、逆に不安を煽るのだった。

90話と91話同時更新で。


09の完成度は50%というところでしょうか。完成次第一日毎に更新します。

とりあえず、今回は前回からの流れということで、前回の件で領主が武器を流してた街であれこれと。


現状、感想返信が滞っておりますが、感想、誤字指摘、その他諸々、何度も読み返してます。ありがとうございます。

今回、絵を描いて下さった方もいます。感無量です。

これからもよろしくお願いします。


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