Interrupt,異世界、異世界エース。
諸注意
・夢オチです。
・本編とは関係ありません。
・正月だからという悪乗りと言って過言ではありません。
・どうしてこうなったかよくわかりません。
・夢オチです。
ベッドから身を起こすと同時に少し戸惑う。
(……この部屋は何だ?)
王城の一室ではない風景にコテツは違和感を覚えた。
木造の、シンプルな造りの部屋。
コテツに、このような場所で寝た覚えはない。
そんな事を心で考えていながらも、何故か体は違和感なく動いた。
手慣れた様子でベッドを抜け出し扉を開けて一階へと降りていく。
そして、コテツは自然な動作でリビングに出ながら、同時に視線をキッチンの方へと向けていた。
「おはよう、ダンナ」
「ああ、おはよう――」
そこには、金の長髪を流した、長身の華奢な美人、アルベールが立っていた。
「――アル」
そして、思わず頭を抱えた。
「いや、待てそれはおかしい」
金の長髪を流した、長身の、まではいい。
「……華奢な美人とはどういう了見だ」
「……ダンナ?」
アルベールが、低めではあるがしっかりと愛嬌のある、間違いなく男性には出せない声でコテツを呼ぶ。
なるほど、金髪はいい、長髪も、長身もいい。軽薄そうな垂れ目も構わない。
だが、腰は細く、出るとこは出て、その目からはどうしようもないほど色香が漂ってくるのはどうかしている。
「どうかした?」
「アル、これはどういうことだ」
思わずコテツは説明を求めてしまったが、アルベールは逆にわけがわからないといったような顔をした。
「んー、ダンナ、寝ぼけてんのかい?」
言いながら、彼、いや彼女は料理を一度置いてコテツの下まで歩いてきた。
「仕方ないなぁ、ダンナは。SHに乗ってる間は格好いいんだけどなぁ」
そして、微笑ましげに苦笑しながら温かいタオルでコテツの顔を拭いてくる。
コテツは、とりあえずされるがままに直立不動で待機。
「ほら、目は覚めたかい?」
タオルが顔から離れると、眼前にアルベールという名の美人の顔があった。
確かに、その笑顔はアルベールの面影がある、かもしれない。
「……ああ」
ただ、温かいタオルが眠気を拭い取ってくれても違和感だけは拭いきれなかった。
「んー? ダンナ、どーかした? 変な夢でも見たかい?」
心配そうにアルベールが覗き込んでくる。
「……それよりも、料理はいいのか」
「おっとそうだった! すぐできるから、ダンナは座って待っててよ」
どうにか状況を整理しようと、コテツはアルベールを遠ざけた。
そして、席に着き冷静になると気づいたことが一つ。
左手の薬指に、覚えのない指輪がある。
はっとしてアルベールの左手を見て、やはり、ある。
頭痛がした。
この環境に違和感を感じつつもはっきり否定しようとしない自分にもだ。
コテツの知るアルベールは男だったはずだが、もしかすると気のせいかも知れない。
本当に夢を見ていたのかもしれない。
その証拠に、体は何一つ違和感を感じていないのだ。左手に付けたままになっていた指輪も、気付かぬほどに。
「どしたの? ダンナ。あんまり見られると照れるんだけど」
恥ずかしげに、アルベールが体を揺らす。
アルベールを見れば見るほど、違和感が揺らぐ。
男のアルベールは夢で、実は元からこうだった気すらして来た。
「まあ、いいけどさ……。ほい、朝飯」
「ああ、いただきます」
「はいどうぞっと」
出てきたのは和食だ。焼き魚と、味噌汁と白飯。
「む」
「はい醤油」
「すまない」
手慣れた様子で、アルベールはコテツに醤油の瓶を渡す。
「……俺と君は、ここで過ごしてどれくらい経ったのだろうか」
コテツは、食事をしつつ、慎重に探りを入れることにした。
「ん? 大体半年くらいだぜ。それにしてもどうしたんだダンナ。美味くない?」
「いや、食事は美味い」
悲しげな顔をするアルベールに、コテツは取り繕う。
「そーかい、ならいいんだけどさ」
「ところで、少し聞きたいのだが」
「なんだいダンナ? 私に答えられることなら答えるけど」
「ここに住む事の起こりはなんだっただろうか」
問うと、アルベールは自分の分の食事に手を付けながら答える。
「んー、まあ、別にこれと言って何があったわけでもねーよなぁ。ダンナが家買ってから世話焼いてたら移動が面倒くさくなって、泊まったりしてたらそのままずるずる同棲してて……」
なるほど、経緯はわかったが、埒が明かない。
コテツは遂に決定的なことを聞くことを決めた。
「……俺と君は、やはり結婚しているのか」
すると、アルベールは呆けたような顔をした。
「はい? なに言ってんの、ダンナ。やっぱりまだ寝ぼけてるんじゃねーの?」
「……そうかもしれん」
誤魔化すように言ったコテツを知ってか知らずか、アルベールはそんなコテツを笑って言う。
「ズルズルやってたらダンナが言ったんじゃん。結婚すると色々安くなるらしいって」
「そう、だったか」
記憶はない、はずだが、言われるとそうだった気もしてくる。
「それで、ふーん、じゃ、結婚しちゃう? って」
「……ふむ」
そうだった、気はする。違和感がない。
確か、あざみ達は新婚の自分たちに気を遣ってしばらくは城で過ごすと言っていたような、気がして来た。
「でもあのプロポーズはどうよ実際さぁ」
「……そうだな」
「ま、ダンナらしいと思うけどね」
そう言って微笑みながらアルベールは締めくくった。
コテツは軍人のソレで早くに朝食を食べ終え、席を立つ。
「……ご馳走さまだ」
「ああ、美味かった?」
「悪くない」
「そか、ならいい」
食器を片付け始めるアルベールを尻目にコテツは、部屋にあったソファに深く座り込む。
アルベールからは意識的に気を逸らして、コテツは虚空を見つめた。
(妙だ、が、昔からこうだった気もする)
違和感がないのに、違和を覚える。そんなよくわからない状況。
妙だと思うのに、実に落ち着く、安らぎを覚える、嫌にぴったりとハマるのだ。
そして、コテツは考えることをやめた。現状どうしようもないし、そもそも、それで何ができるわけでもない。
とりあえずしばらくは様子を見る。普通に生活しようと決めた。
何らかの魔術の影響で記憶が混乱しているのかもしれない。こういうとき、魔術という言葉は便利だ。とりあえず魔術のせいにしておけばいい。
「ダーンナっ」
そんな風に思考に沈み込むコテツへと、背後からアルベールが抱きついた。
ソファの背もたれ越しに、首に手を回される形となり、豊満な胸の感触が後頭部を支配する。
「止めろ、はしたないぞ」
「いーじゃん、夫婦なんだぜ?」
そうやってアルベールは笑う。
「む……」
通常の夫婦生活がどの程度なのか知らないコテツは黙り込んだ。
そんなコテツとは対照的にアルベールは声を上げる。
「んなことよりさぁ、釣りにでも行こうぜダンナ!」
「釣りか」
「おう、釣れたら今日の晩飯な」
断る理由はなかった。
立ち上がり、外を見る。晴れやかな日差しが眩しい。
「ささ、ダンナ、行こうぜ」
いつの間にやら、早くも準備を終えたアルベールがコテツの手を引っ張る。
流石に、男女の体格差もあって、引きずることはできずにコテツが追従して歩き出すと手を離してくれた。
そして、そのまま玄関へ。
「あ、ちょっと待った」
靴を履いてそのまま出ようとすると、アルベールに止められる。
一度荷物を置いてぱたぱたと駆けて行ったと思ったら、すぐに戻ってきた。
「ほら、外は冷えるぜ?」
コテツの肩へと、アルベールが上着を掛ける。
「すまない」
「まったく、仕方ないなぁ、うちのダンナさまは」
呆れながら笑うアルベールの方を見れば、彼女はちゃんと上着を着込んでいる。
「さ、行こうぜダンナ」
「ああ」
頷いて、コテツはアルベールと共に外に出て歩き始めた。
「やー、いい天気だ、釣り日和だねぇ」
「そうだな」
アルベールの言うことに一切の嘘はない。
悪天候の方が釣れる魚もいるかもしれないが、コテツの知ったところではない。
あいも変わらず、ろくに釣れない。十二分に釣り上げるアルベールを尻目に、コテツはぼんやりと時間を過ごしていた。
「余分な分は干しとくとしてっと」
糸を見つめるだけの時間。
「ダンナ、ダンナー」
「なんだ」
「もしかして、面白くない?」
「いや、問題ない」
「ふーん? ところで、仕事はどうよ、ダンナ」
「今の所は特にないが、もしかすると遠出することになるかもしれん。また、君には苦労を掛ける」
「いいって」
さんざっぱら、アルベールを振り回している自覚はある。だが、彼女は文句も言わず付いてきてくれる。
(ありがたい話だ)
そんなことを考えて、コテツは黙り込み、アルベールも何も言わない。
そして、二人の間にしばらくの沈黙が流れ。
「あのさ、ダンナ」
そう、アルベールは切り出した。
「私は何でも中途半端でさ。何もかも二流っつー、話はしたよな?」
「ああ、聞いた」
上を見上げて、彼女は言う。
「でもさー、ほら」
コテツは糸を見つめて、次の言葉を待った。
「――ダンナの一番になれたのは、なんかこう、すげー、嬉しかったよ」
はにかみながら口にしたその姿は、くらくらするほど魅力的である。
川が日の光を浴びて輝くように、アルベールの金の髪も、日差しを反射して煌びやかに輝いていた。
「そうか」
「まぁ、それで、なんだけどさ」
ただ、先ほどまでのはどうやら前置きだったらしく、アルベールはそこで本題を切り出した。
「実はさ」
その本題とは――。
「――できちゃったっぽいんだよね、赤ちゃん」
「……夢か」
身を起こしたベッド。
見覚えのある城の一室に安心したのは、ここだけの話である。
これも正月って奴の仕業なんだ。
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
次回から普通に更新します。
今回は魔が差したということで。
アルベール(♀)
家事万能、技能多才でパイロットもできるチートヒロイン。
なんだかんだ言いつつ面倒見が良くて、面倒ごとにも付き合ってくれる。さばさばしてて付き合いやすい。
長い金髪のサラサラヘアに垂れ目泣き黒子、背が高めでスタイル良しのチート振りは目に余る。
ズボンを好み、ジーンズにタートルネックなんかがオーソドックス。
たまにスカートを穿くととても照れる。