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異世界エース  作者: 兄二
08,This Satisfaction
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86話 Adventurers or Etranger


『エトランジェとして関わらないというあなたの判断は間違ってないわ。ただ、今回の件は状況が状況だしね』

「そうだな」

『陸上戦艦なんてもの、一体どこで手に入れたのかしら。金を積めば手に入るようなものでもないのに』

「さてな。だが、こうなった以上は」

『ええ、許可するわ。行きなさい』













「……ずいぶん、タイミングがいいじゃない」

「取り込んでいたようなので、様子を見ていた」

「あ、そう」


 壁を破壊し、ソフィアを伴ってコテツは直接室内へと侵入した。


「な、何者だ、貴様は」


 コテツは、室内を歩き、サラの近くまで寄るとその紙束を取る。


「少し見せてもらう」


 そして、そのページをぱらぱらと捲って簡単に内容を確認した。

 その内容はと言えば、国からの予算を元手にとある領地の街に大量の武器を送ったという間違いなく黒だという記述もある。


(SHなども送られている。代わりに莫大な利益か。どうも妙な話になってきたな)


 だが、詳細は後ででもいいだろうと、コテツはそれを閉じ、言った。


「ただの冒険者だ」


 その言葉に、明らかにバウムガルデン伯はほっとした表情を見せた。


「なんだ、ただの冒険者か……! ならば、幾ら欲しい? そこの小娘どもを捕らえ引き渡せばそちらの言う額を出そう」


 冒険者なら簡単に引き入れられる、そういう判断だったのだろう。

 だが、コテツは紙束をサラへと返しながらその台詞を無視し、言葉を続けた。


「と、言いたいところだったが。ここまでの証拠を見せ付けられると、仕事をせざるを得ないだろう」


 その台詞に、バウムガルデン伯の表情が凍りつく。

 それを余所に、コテツの手元に半透明の板が現れる。

 それは、似ているが障壁ではなく。


「話は聞こえていたはずだが」

『ええ。予算横領して商売した挙句陸上戦艦? 随分舐めた真似してくれてるじゃない』


 その板は通信用ウィンドウ。漏れ出る女の声は。


『確かに、締め上げた上で支配できるほどの力は今はないけどね。でも、それで付け上がって調子に乗るようなら――、躾は必要よね? 明らかに、デッドラインを越えてる自覚はある?』


 そして、それに映る顔に、更に顔は青ざめられた。


「お……、王女様!?」

『ええ、ご機嫌如何? 私ははらわた煮えくり返ってるわ。あなたにも、そこまでされて気付かなかった私にもね』


 ポーラとサラは、正に唖然といった様子で。


「ちょ、あんた一体、何者?」


 それだけ搾り出すのが精一杯だったようだ。

 そして、全員が見守る中、通信の向こうのアマルベルガは凛々しく言い放つ。


『エトランジェ、コテツ・モチヅキに王女が命令します。そこの男を私の前に連れてきなさい。首に縄付けてでもね』

「了解」


 それに応えて、コテツはゆっくりとバウムガルデン伯に歩み寄った。


「ということだ。これだけの罪、軽い罰になるといいな」


 そして無情に言い放つ。

 少し見ただけで黒と分かる帳簿の内容をしかと改めればどうなるか。

 まずお家取り潰しは免れないと見ていいだろう。そして、国外追放もありえるか。

 実質、そうなれば自身のみで生きる力に乏しい貴族にとっては死刑に等しい。


「あ……、ぁ……」


 バウムガルデン伯は、青ざめた顔で後ろを向くと、走り出そうとする。

 だが、運動不足の領主の身。実際、この場にいる誰からも逃げ切ることはできなかっただろう。

 即座に、コテツがその腕を掴んで、捻りあげる。


「うわぁああ、痛い、痛いッ」

「てかさ……、あんた、エトランジェ様だったの?」

「ああ、一応な」

「あ、私の人生詰んだわ」


 痛がる伯爵を半ば無視してコテツ達は言葉を交わす。


「ポーラ、……さよなら」

「短い人生だったわ」

「いや、別に構わんが。そもそもこちらがエトランジェだと言っていないのだからな」

「いいの? 無礼者は死ねとか言わない?」

「……構わないのだが、エトランジェの名前は、意外と通っていないのか?」

「普通ね、そんな有名人がこんなド田舎歩いているとは思わないわよ」

「そうか。まあ、それはいい。態度も変える必要はない」


 言いながら、コテツはポーラの前に伯爵を突き出した。


「なによ」

「それよりも、こういう場合は一撃くらいは入れておきたいものだと思うが」

「いいの?」

「減るものでもあるまい。死ななければいいだろう」


 アマルベルガも止めない。怯えるのは伯爵のみ。

 状況的にはゴーサインが出たようなものだ。


「じゃあ、やるわ」

「ひっ……」


 それは、思いの丈とでも呼ぶべきものだったのだろうか。


「おごッ!」


 突き立った拳は、まるで万感の思いを込めたかのようだったと、コテツは思う。


(平手ではないのがポーラらしい)


 それを終えた彼女の顔は、すっきりとした、爽やかなものだった。

 コテツは、それを見て、伯爵の手足を縛ると担ぎあげて文字通りコクピットの中に彼を放り込む。


『そこの二人にはお礼を言うわね、ありがとう』


 そんな中、王女にお礼を言われた二人は、がちがちに固まっていた。


「い、いえ! ほとんどそこの、コテツのおかげですっ!!」

『いいのよ。あなたたちがいなかったらコテツは関わらなかったでしょうからね。それに、どちらにせよ、私達の調査でするはずの証拠探しもしてもらった訳だし』

「きょ、恐縮です!」

『それと、うーん、謝るのは卑怯よね。だから、これだけ言っておくわ。この男のしたことは徹底的に洗い出して、きっちり片を付けさせてもらうから』


 その言葉に、ポーラは答えない。

 ただ、立ち尽くして、アマルベルガの顔を見るだけだ。アマルベルガも、それを咎めるようなことはしなかった。


『じゃあ、コテツ、待ってるから』

「ああ」


 言って、コテツはコクピットへと向かう。


「些か狭くなるだろうが、乗ってくれ」


 そして、各員をコクピットに詰め込み、シュタルクシルトは再び動き出した。


「……ほとんど、あんたにおんぶに抱っこだったわね、コテツ」

「いや、そうでもあるまい」

「気遣わなくていいわよ。事実だもの」


 ポーラは、シュタルクシルトを操作するコテツを、横から覗き込んでくる。

 コテツは、それを見つめ返すことなく答えた。


「確かに俺がいなければ成しえなかっただろうが。しかし、決断したのは君だ。殺さないことを決めて、この結末にしたのは君以外の誰でもあるまい」


 撃つかもしれない、とコテツは考えていた。

 だが、それを裏切って彼女は撃つ事はなく。


「最初から、事態の行方は君の手の中に握られていたということだ。俺は、何も決めていない。君が始めて、君が終えた復讐だ、それでいい」

「ん、そっか。……そっか、ありがと」


 夕日の沈みかけた空。

 ポーラと初めて出会ったのと同じ時間帯。

 だが、初めて会った時と違って、彼女は笑んでいた。


「これで、君の復讐は終わったのか」


 正確には、バウムガルデン伯の裁判が終わってからだが、とコテツは付け足す。

 だが、ポーラは首を横に振った。


「まだよ」


 コテツは、その言葉にふと横を見るが、彼女は微笑んだままで。


「後は、最後に、幸せになってやるわ。自分が牢屋にぶち込まれたのに、ぶち込んだ奴が幸せだったら、きっと、悔しいでしょ?」

「……そうだな」

「だからね、幸せになること、あいつの顔も思い出さないくらい幸せな毎日を送ること、それが」


 コテツは、心に彼女に良く似た男を思い浮かべる。


「私の最後の復讐ね――」


 救われたいと願えるならば、救われるのか。

 きっとこれが、一つの答えなのだろう。


「そうか」


 頷きを返すと、照れたように彼女は話題を変えた。


「そ、そういえば、依頼の報酬のことだけど、私に払えるものって言ったらやっぱり……」


 コテツは、その言いかけた言葉を止めるように、言葉を返す。


「いや、いい」


 コテツは、冒険者として協力すると言ったが。


「最終的には、冒険者ではなく、エトランジェになってしまったのでな。俺は君の依頼を果たしていないし、君の依頼を受けた冒険者はいない」

「いいの?」

「それでいい」


 簡潔に答えると、それきり黙ってコテツは機体を動かしたのだった。




「……ありがと。じゃあね、コテツ。優しい、エトランジェさまっ」
















「君には、謝罪をしなければならないな。つき合わせてしまった」

「……いい。私も彼女に興味があったから」


 村へと二人を送り、村長に感謝と共に手紙を受け取り、コテツは帰路へとついた。

 時間は遅いが、伯爵を連れたまま一晩明かすというのも面倒なので夜通しで王都へ向かうことにしたのだ。

 そんな中、ソフィアはコテツへと問う。


「それより、どうしてあなたは、彼女を手伝ったの?」

「そんなに不思議か?」


 確かに、邪魔が入って理由は説明できていなかった。


「あなたがそこまで積極的に人に関わるとは思えない」

「そうか」


 そうして、コテツはその理由を思い浮かべる。


「それは――」


 彼との最後の会話を終えて、配属が変わってしばらくした後、彼から手紙が届いた。

 彼がどうなったか分からないまま配属が変わり、しばし気になってはいたが、激化する戦争にそれを思い浮かべることもなくなった頃、不意に手紙がやってきたのだ。

 親愛なるエース殿へ。

 手紙の始まりには、そう書いてあった。

 そして、下手糞な、伝わり難い文章で、彼の当時の心境が書き綴られていた。

 まるで思い出話を語るように、つらつらと。

 そんな手紙には、もう一枚の文面と、そして、一枚の写真が同封されていた。

 仲睦まじく映る男女の写真。男の方のタキシードが似合わなかったことは、今尚覚えている。

 そして、二枚目の便箋に綴られた言葉は、奇しくもとある少女と同じ答え。


『誰よりも幸せになってやる。これが俺の復讐だ』


 きっと幸せになって仇の顔を思い出すこともなくなった時が、復讐の終わりだ。


『今度地球に降りたら、酒でも飲もう、親友』


 彼とは、長い付き合いがあった訳でもない。

 話が弾んだわけでも、共通の趣味があったわけでもない。

 ただ、幾度か話した、それだけのこと。

 それだけで、コテツのことを親友と呼んだ男がいた。

 だがしかし、コテツもまた、そんな男が嫌いではなかったのだ。

 そんな男に、似た少女がいた。

 ただ、それだけの話だ。







というわけで、今回のお話は終了。

次回からInterruptに入ります。

一応Interruptの後の話も考えてあります。そろそろシバラクが出したいなぁ、と。

Interruptのほうも、色々入れたいイベントがあります。


が、まあ、とりあえず火曜日面接行った後で。

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