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異世界エース  作者: 兄二
Interrupt,あるエース達の一日。
79/195

73話 Cook Ace


「んあー……。ご主人様……、どこでしょ」


 眠そうに、猫背気味に歩きながらあざみはコテツを探していた。

 夜に程近い城の廊下は現在人通りも少なく、静寂のみを返してくる。

 些か寝すぎた感のある一日だった。昼まで寝てることはそれなりにあるが、こんな時間まで寝ていたのは本当に久しぶりだ。

 もしかすると、初めてのダンジョン探索で思ったより疲れていたのかもしれない。


「んー、もっと便利になりませんかねぇ……。大体の方向しかわからないって」


 まあ、便利ですけど、と呟きながら彼女はコテツのいるであろう方向に向かっていく。

 そうして、感じ取ったコテツの居場所を頼りに彼女は歩みを進めるのだが、少しずつあまり来ないような場所へと、足は向かっていく。


「んー、珍しい場所にいますねぇ。もしや逢引……、いや、ないですね、そうですね」


 そして、歩くこと少し。


「んー……? 何でここに? ご主人様、ご主人様ー?」


 あざみが入ったのは、極稀にしか使われない、予備の厨房。

 来客で料理の量が間に合わない時やいつも使う厨房の不調に備えてのものだ。


「ご主人様ー……、って」


 確かに、そこに彼女の求める主は居た。

 しかし、彼は不可解にも、厨房に立って鍋を見つめていたのだった。


「なんで、料理?」














『コテツ、コテツ。まだやってたの?』


 コクピットから降りたコテツに、駆け寄る少女。

 コテツと同じ長い黒髪に黒い瞳。身長は百六十センチほどで、概観は大和撫子と呼ぶに相応しい。その割りに雰囲気は清楚というより活発な空気の少女だった。


『今終わったところだ』


 懐かしい記憶だった。コテツが軍に入るより、もっと前。もう、忘れかけたような記憶を、ふと彼は思い出していた。

 今でこそ、SHに乗って戦う以外のことを知らないと言えるコテツだったが、彼にもそれ以前の歴史はある。

 その頃、彼は機動兵器に乗って戦うのではなく、人型工作機械に乗って、解体業に従事していた。

 あまり大きくはない会社で、十数人しかいない組織に拾われ、些か若すぎるながらも、工作機械の操縦においては一目置かれていた、そんな環境。

 彼の人生の中で、一番、平和だったときのことだ。

 十代前半を過ぎるか、過ぎないかの頃。その時から既に彼は可愛げのある子供ではなかったが、三つ四つほど年上の少女は、そんなコテツをよく、気にした。


『どうせ、なにも食べてないんでしょ。ほら、食べなさいよ』


 そう言って彼女は、コテツへと盆を渡してきた。

 仕事とあらば、ついその他のことを差し置いてしまうコテツに、こうして彼女はよく食事を渡しに来る。

 コテツは、今よりもまだマシな愛想で礼を返した。


『ああ、ありがとう』

『私は、食事係だから当然なの。皆のご飯を作るのが仕事なんだから、あんただけ食べさせないとか、あり得ないでしょ?』


 そう言って、彼女はコテツが食事を終えるのを待つ。

 そして、そう長くない食事を終えると、彼女はコテツの手を引いて歩き出した。


『それは後で片付けとくから、買い物に行くわよ。あんたの食べたので食材がなくなったんだから、荷物持ちしなさい』

『ああ。構わない』


 今考えてみると、少年と呼んで差し支えないコテツが仕事漬けだったことを気にしていたのかもしれない。

 彼女は、社長の娘だからと言ってはいたが。

 だが、どう考えたって、過分に世話になっていたのだ。











(随分、懐かしい話だ。しかし、あの頃から何も進歩がないな。壊す以外になにかできないものか)


 それを思い出したのは、『料理を作れるほうが良い』。そんな台詞を、ミカエラに向かって言ったからだ。

 もう、ほとんどおぼろげと呼んでも差し支えないような平和だった頃の記憶。

 それでも、彼女の料理の味は覚えている。


(料理か……)


 そして、それを思い立ったのは、その日がどうしようもないほどやることのない一日だったからだろう。


「ふむ……」


 コテツは自室の椅子に座って考える。

 自分が料理に向いていると考えたことはない。

 だがしかし、だからと言って試さない理由にもならない。

 後は、思い立ったが吉日だ。立ち上がったコテツの足はアマルベルガの執務室へと向いた。


「あら、コテツ。何か用?」


 執務室に入るなり、コテツに気が付いたアマルベルガがコテツに向かって聞く。


「料理がしたい」


 そして、唐突な願いにも眉一つ動かさず、それとも忙しくてその余裕も無いのか、アマルベルガは簡単に返答を返した。


「じゃあ第二厨房使っていいわよ」


 意外にも簡単に、許可が降りる。


「ふむ……、第二厨房などあったのか」

「まあ、来客で料理が間に合わないときとか、厨房に不調があったときとか、たまに使う予備よ。そこなら好きに使って構わないわ。少し小さいけど。後は、自分で後始末までできるなら言うことなしだわ」


 小さかろうが大きかろうが、使えるなら構わない。


「わかった。感謝する」


 そう言って出て行こうとするコテツに、アマルベルガは手をひらひらと振って見送ったのだった。


「別に、感謝されるようなことじゃないわよ。そんなことより、何でいきなり料理なのか気になるわ」

「ふむ、そうだな。ただ、なんとなくだ」

「そう、頑張ってね。後、美味しくできたら食べさせてちょうだい」

「期待してくれるな。料理などそうしない」


 そういい残して、コテツは執務室を出る。

 場所の使用許可は取れた。次は、準備がいる。

 まず材料である。城に食材くらいあるだろうが、流石に厨房の食材まで使わせてもらのは気が引ける。

 そして次にレシピ。異世界で元の世界の料理を作れるほど料理に精通していないコテツは、無難な道を選ぶことに決めた。

 そもそも食材が元の世界と一致するかどうかも微妙なところだ。


「しかし、ところで」


 コテツは、誰もいない空間に一人、声を上げる。


「ノエル」


 だが、その言葉に返答は返って来た。


「奇遇ですね。コテツ様。今日は偶然にもあなたを観察しようと思い立ったところです」


 後ろの物陰から出てきたのは、ノエル・プリマーティ。現在主のいないアルトのエーポスである。


「……ノエル。それは奇遇とは言わない」

「そうなのですか? 道端で知り合いに遭遇したときの常套句だと聞いたのですが」

「認識は間違ってはいないが、使用法が間違っている」


 今日も、薄紅の長い髪が艶やかに揺れている。


「そうですか」

「だが、まあ、丁度いい。俺を尾行するつもりだったのであれば、付いてきてくれないだろうか」

「願っても無いことではあります。これがデートというものですね。わかります」


 コテツにはよくわからなかったが、その辺りは黙殺し、二人は城の外へと出た。


「しかし、どこへ向かうのですか? 連れ込み宿ですか?」

「……君の考えが加速度的に飛躍している気がするが」


 どうやら最近は侍女などとの交流が増え、その挙句に教育上不適切な知識を習ってきているらしい。

 今ひとつ意味を捉え切れていない上、こうしてその知識を使用し、それで苦労するのはコテツなのだから自重して欲しいとは思うのだが。

 しかし、それにしても、彼女自身はいつも通りあまり表情に変化は無いながらも、彼女の今日のテンションは高いようである。

 なんとなく、漂う気配、あるいはオーラのようなものが陽気だ。

 きっと彼女の、恋を知るという目的に進展がありそうだからだろう。

 あまりその期待に応えられなさそうなのが、申し訳ないが。


(しかし、冷静沈着に見える彼女だが……。実は何も考えていないだけなのではないだろうか)


 見た目は美人で、無表情は怜悧に見せる。だがその実、頭の中はどちらかと言えばお花畑で、お馬鹿さんなのではないかと、コテツは思う。


「しかし、ともあれ、意味も良くわからないのに連れ込み宿などと言うものではない」

「男女が愛を育む場所だと聞き及んでいます」

「手段が問題だ。というのはともかくとして、とりあえず書店に向かう」

「書店ですか」

「ああ」

「何をお求めに?」

「レシピだ」

「レシピ……、コテツ様は料理をなさるのですか?」


 その問いにコテツは首を横に振る。


「いや。とある事情によって興味が沸いただけだ。だからこそ、レシピが要るだろう」

「なるほど、わかりました。私は料理のことは分かりませんが、書店なら知っていますので、案内しましょう」

「助かる」


 そうして、歩くこと数十分。

 彼らは、商店街に立っていた。


「これは、迷ったというのではないのか?」


 コテツが、ぽつりと呟いた。


「いえ。目的地には着いていませんが、現在位置は見失っていません。つまり迷っていません」

「到着の目途は」

「ありません」


 呆れて見つめると、ノエルはしれっと口を開く。


「誠に遺憾です」

「つまり残念には思うが手立てはないと」


 思ったより頼りにならない。

 コテツは、そうして辺りを見渡す。

 すると、視線の先に、ある物が見当たった。


「あれは書店じゃないのか」


 窓から見える、本を並べた佇まい。

 明らかに書店、本屋の類であろうと見受けられる。

 それを見てノエルは一言。


「……計画通りです」

「言いたいことは色々あるが、何も言わないことにしよう」


 もう一種の無邪気さなのではないだろうかと思うほどのノエルに、コテツは追求はやめることにした。


「とりあえずレシピを買う。その後、食材だ。知らない食材もあるだろうから、君に手伝ってもらいたい」


 同行を頼んだ一番の理由はそれだ。

 コテツの世界にもある食材ならば、問題なく翻訳されて聞こえてくる。

 ちなみにだが、例えないものであれど、意味を持つ言葉で付けられた名称なら『幸運の実』などと直訳して聞こえるか、あるいは『ラッキーフルーツ』などのようにそれらしくコテツの知る言語で都合よく翻訳してくれる。

 ただ、それであれば名称からほんの少しでも中身に想像が付く。

 だが、それがコテツの世界ではまったく該当しない名詞だった場合は厄介だ。

 コテツは、とりあえずレシピ本の類をぱらぱらと捲って内容を流し読みする。


「フィルインイェフ……、どういう食材だ?」

「さぁ……?」

「さぁ、とはどういうことだ?」

「私にも心当たりがありません」


 他の本に目を通しても散見されるから別に特殊な食材でなければ、特別な呼び方でもない。


「ではこの料理はどんなものか分かるか?」


 コテツは本の中から、名称、咥えて素材の名前も分からず内容が想像できない料理を指差した。

 しれっとノエルは答える。


「……知りません」

(思ったより使えないかもしれん……)


 選ぶべき同行者を間違えた可能性を、コテツは検討し始める。

 これならアルベールの方がよかったかもしれない。勝手なイメージだが、彼ならば何でもそつなくこなしそうな気がした。


「……まあいい。とりあえず本を買っていこう」


 だが。


「はい、いきましょう」


 それと同時に、コテツはノエルを見ながら考える。


(誰かと一緒に買い出しなどというのは、随分と久々だな……)


 アルベールに強引に連れ出されたことや、アマルベルガを城下町に連れて行くことになった時とも違う、本当に他愛もない、ただの食材の買出し。


(少し、懐かしいな)


 そんなものは、ずっと昔の話だ。あの時は、連れ出す側ではなく、引っ張られる側だったが。

 そういう意味では、悪くないのかもしれない。

 そう思って、コテツはノエルを見つめるのだった。


「どうかしましたか?」

「いや、なんでもない」


 呟いて、歩き出す。

 本は安くはなかったが、ここに来てほとんど買い物らしい買い物もしていないコテツとしてはあまり大した出費ではなかった。

 ならば後は食材だ。


「そうだな……、君が好きな料理はあるか?」


 作れそうなら作ってみようかと、コテツは考える。


「前、主様が作ってくださった、猪鍋と、フォレストベアの丸焼きが」


 そして、悪くないような、悪いような同行者のそんな答えに、コテツは頭を抱えたのだった。


「そういうのは得意だ。が……、今回の料理の目的はそういうものじゃない」













「よう、兄ちゃん達。二人は恋人同士かい?」

「はいそうです」

「いや違う」

「いやはや、休日にわざわざご苦労さんだ。どうだい、安くしとくぜ」


 恋人同士と勘違いされ、なんだかんだとサービスを付けられながら、コテツ達は食材を買うことに成功したのだった。















 そして、時刻は夜となり、冒頭のようにあざみはコテツに出会う。


「で、料理ですか?」

「ああ」

「……憎い」

「いきなりなんだ君は」

「私を誘ってくれればよかったのに……」

「基本的に休日は昼まで寝ているだろう、君は」

「た、確かに今日はちょっと寝すぎましたけど! 寝ている間にプリマーティお姉さまとデートだなんて!」


 あざみの寝起きは悪い。休日は特にだ。


「コテツ様。やはりデートです。そして、先ほどカップルに間違えられることに成功しました。これならばそう遠くないうちに婚約から婚姻まで至れるのでは?」

「……君は黙っていてくれ」


 今回の一件で恋に一歩近づいたとノエルはご満悦である。

 表情は変わらないながら、ほんわかしたムードを放っていた。


「くっ、ずるいですよプリマーティお姉さま。そのどや顔ならぬどやムードが憎いですっ。……で、ご主人様、何かできたんですか?」

「幾らかな」


 既に、出来上がった料理を置くためのテーブルの上には数種類の料理が乗っていた。

 幸い、知る料理名のものも多くあったおかげで、料理そのものに大きな違和感を覚えることはなかった。


「おおー、見たとこ、シチューと、ペンネと、リゾットと、パスタですか? まあ、ご主人様的には和食が落ち着くかもしれませんけど味噌とかしょうゆとかが問題ですもんね」

「そうだな」

「で、これ食べていいですか? いいですね?」

「好きにしてくれ」


 コテツが答えると、すぐさまあざみはテーブルに置いてあったスプーンを取った。


「いただきまーす。んー……! これは……!」


 そして、まずはリゾットを一口。

 すると、あざみは呟いた。


「んー……。普通ですねぇ……」


 微妙に残念そうな顔である。


「レシピ通りに作って普通じゃないことにするほうが難しいぞ」

「えーでもこうなったらアレじゃないです? メシウマかメシマズの流れじゃないんですか」

「よく分からんが、食べられないほどの食事を作る気はしないし、別に美味と呼べるものが作れるほど上手くはない」

「いやーでも、ご主人様は一応普通にはできるんですね」

「レシピ通りにするだけならな」

「もっと何もできないと思ってました」

「野生動物を狩って味付けして食べるほうなら得意だ」

「あー、なるほど、サバイバルな男料理なら納得です」


 機体の不調で密林に落ちたときなどは歩いて帰るのに苦労したものだ。


「んー、しかしご主人様も家庭料理の似合わないこと」

「だとは思うが」

「なんとなく可愛いと思いますけどね、そういうの」

「そう言われても反応に困るがな」


 そんなあざみの言葉にはまともに答えず、コテツは話題を変える。


「しかし、美味い料理というのは難しいな、やはり。一日にして成るものではないと分かってはいたが、どうすれば美味い料理になるか想像も付かん」

「んー、あれです、普通ですね。もうマジでレシピ通りどころかマニュアル通り、みたいな。不味くは無いですけど、これといって美味しいわけでも」

「ふむ」

「なんていうかアレじゃないです? ご主人様の料理風景ってこう、五分経過、火力カット。分量を確認、素材を投下、みたいな」

「特に一つ一つ声を出しているわけではないが」


 言いつつも、コテツは否定しない。


「まあ、美味しいっちゃ美味しいですし、家庭料理がほとんど初めてなら結構いいんじゃないですか?」

「まあ、料理をする機会はそう多くないだろうがな」

「そうなんですか?」

「あまり他人の仕事を奪うわけにも行くまい」


 城には、調理から、配給、そして食事中のサポートなどを行なう人員がいる。

 彼らがそれを仕事として生きる糧を得ている以上、あまりそれを無碍にすることは推奨されない。

 そして、エトランジェに恒常的に仕事を断られたという経歴は彼らにとって良くないものだろう。


「自分の家があれば誰にも文句は言われないと思うんですけどね」

「今しばらく掛かるだろうな」


 エトランジェという体面があるために、あまり質の悪い家というわけにも行かない。王家との不仲を噂されても困る。

 アマルベルガには少なくとも屋敷は確保してほしいと言われてしまった。

 とすると、城下の高級住宅街の屋敷を買うか、それともどこぞの領主にでもなるか。

 現実的な方法であれば前者だろう。どちらにせよ、それなりの労力が掛かるが。


「勲功盾に領地を迫ればどうです?」

「無理だな。主にその後の領地経営が」


 あざみの言葉に、コテツはそう断じた。


「そーですか。……まあ、多分そーですね」


 それきり、その辺りには興味を失って、あざみは再び料理へと目を落とす。


「あ、これはシチューですね?」


 そう言って、手をつけてなかった一品に彼女は手を伸ばした。

 スプーンで乳白色の液体をすくって口へ運ぶ。

 の、だが。


「……オヴェ」


 まるで苦虫を数十匹同時に噛み潰したような顔だった、と後にノエルは語る。


「今、女としての人生が幕を閉じそうな顔をしてしまいましたけど……、これなんですか」

「野菜スープだ」

「この粘液状の物体が!? なんかアレだったんですけど! 甘辛しょっぱ苦かったんですけど!」

「とある女性が俺に渡してくれたレシピで制作したものだ。彼女はよく食に頓着しない俺を心配して料理を作ってくれたが……、やはりか」

「どういうことです?」


 いまだ鮮明に記憶に残る、世話焼きの彼女の味。

 仲間達の胃を支えて来た食事係の彼女の味は。


「ここに来て確信した。彼女の料理は壊滅的だ」


 どうやら、まあ、そういうことらしい。


「今更ですか!?」

「皆、死んだ目をして涙を流しながら美味い美味いと食うのだから、俺の舌が異常なのかと思っていた」

「そ、そんなのを日常的に食べてたんですか……?」

「本物は更に凄い。レシピ通りに作ったのだが、本物は濃縮したヘドロのような姿をしている」

「あ、味は……?」

「痛い」

「よく生きてましたね」


 コテツにとってはかなり古い記憶である。十代前半の頃の話だ。今はいない、なんだかんだと憎まれ口を叩きながらも気にしてくれた彼女。

 よく、コテツを引きずって買い物に言っては料理を作ってくれた、のだが。


(どうすればあんなものが作れるんだ、ライラ)


 そんな彼女の名を思い浮かべながら、コテツは遠い目をした。

 死んだ目をした昔の仲間達と、無駄にいい笑顔の少女が心に映る。


「中々やりますね……、なんでもない料理の中に一つだけ刺客を混ぜてくるなんて」

「すまない」

「いや、勝手に私が食べたんですし、いいですけどね。ところで、ご主人様はまだ料理続けるんですか?」

「材料が余ってしまっているので、もう少しな」

「そんなに食べれるんですか? 私は無理ですよ?」

「いざとなれば、誰か呼べばいい。幸い、城内に人はそれなりにいる」

「まあ、エトランジェの手料理って言ったら下っ端兵士さん辺りは涙流しながら食べますけどね、多分その野菜スープでも」

「それは俺が食べておこう」

「止めておいたほうがいい味してますけどね」

「慣れれば問題ない。一部は、これが無いと手が震えて落ち着かないと言っていた」

「中毒ですか!!」


 何食わぬ顔で言ったコテツに、あざみは半眼を向けていたが、やがてふっと溜息を付いて微笑んだ。


「まあ、いいです。それよりも、見てていいですか? 料理してるとこ」

「見ていて楽しいものではないと思うが、見たいなら構わない」

「はい」


 そして、コテツは料理へと戻っていく。


「ところでノエル」


 途中から置物のように座っていたノエルに声を掛けながら。


「……黙っていろと言っておいてなんだが、ずっと黙っている必要はないぞ」

「そうなのですか?」


 結局、料理を作ってみたところで、何かが掴めたわけでもなく、その点では空振りだったとも言えるだろう。

 しかし、この微妙な懐かしさと、和やかな空気に、こんな日も有りなんじゃないか、と心のどこかが呟いた。

















「ん……、あれ? 寝てました? 昨日あれだけ寝といて私また寝てたんですか」


 ぽつりと溢した言葉は、空気に溶けて消えた。

 いつの間にか、あざみは机に突っ伏して寝ていたようだ。


「ご主人様は……、まだ料理してるんですか。朝ですよね、もう」


 いつの間にか、厨房には朝日が差し込んでいた。


(まぁ、いつも通りのご主人様ですねぇ……)


 その背中を眺めて、あざみは微笑んだ。

 そして、テーブルの上に乗っている湯気を上げる料理を見る。

 湯気が上がっているということは、どうやら作ってそう時間は経っていないようだ。

 気になって、その料理にあざみは手を伸ばすことにする。

 フォークで、ジャガイモ料理を口に運ぶ。コテツの世界で言う、ジャーマンポテトである。


(……あれ? なんか、ほんのちょっぴり昨日より上手なような、そうでもないような)


 と、そこで、彼の方からあざみに声が掛かった。


「あざみ、起きたのか」

「え? あ、はい」

「そろそろ起こそうかと思っていたところだが、丁度いい。俺の料理では不満が残るかもしれないが、食べてもらえるか?」


 その言葉に、あざみは料理を見る。


「もしかして、わざわざ私のために作ってくれたんですか?」

「昨日付き合ってもらった以上、これくらいはする義理があるだろう。ノエル、君にもだ」

「夜を共にした上に、朝食を……。もうゴールインしてもいいのでしょうか」

「……まだもう少し走っていてくれ」


 置物のようだったノエルが口にして、コテツが答える。

 これで、コテツが好きなわけではなく、恋に興味があるだけだというのだから、妙な話だ、とあざみは二人を見た。


(うーん、恋のライバル、とも違うらしいんですけどねぇ……。でも、ご主人様で本当に恋を知っちゃったらライバルですよね)


 そんなことを考えながら、しかしその思考を簡単にあざみは打ち切った。

 寝起きの体が空腹を訴えていたのだ。


(うーん、ちょっと美味しくなったように思えるのはつまり、空腹と愛情が最高のスパイスって奴ですかね?)


 だから、とにもかくにも。

 ただ一言だけ口にすることにした。


「いただきます」

おまけ


「……で。美味いかい? ダンナ」

「ああ。思った通りだな」


 アルベールの作った料理を口にし、コテツは呟く。


「しかし、料理作ってくれないかって言われたときは驚いたよ」

「迷惑だったか?」

「いや別に。驚いただけだよ。それより、ダンナならわざわざ男の料理なんて食わなくても言えば可愛い子ちゃんたちが作ってくれんじゃねーの?」

「いや、アルは何でもそつなくこなすからな。やはりできるのかと、気になっただけだ。多芸で羨ましい限りだな」


 そう言って、コテツはアルベールを見た。

 呆れたように、アルベールはコテツを見返す。


「そりゃ俺の台詞。確かに色々できるけど、俺は全部二流なの。どれも一流になれない俺としちゃ、ダンナのほうが羨ましい」


 そんな言葉に、コテツはぽつりと呟いた。


「結局、隣の芝は青いということか」

「ああ、まったくその通りだね」


 困ったもんだ、とアルベールは笑う。

 男二人の、寂しい食卓の風景である。









お待たせしました。一応後一本、転移して来たエースの方の話もストックとしてありますのでそちらは近日中に。

後、誤字修正作業が少し滞ってしまいましたが、明日辺りやろうと思っております。指摘いつも助かってます。今後も良ければよろしくお願いします。

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