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異世界エース  作者: 兄二
07,地下迷宮
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72話 左腕

 こうして、初めての迷宮探索は終わった。

 帰り道は何のことはない。シュティールフランメの動きが不安定になってしまったため、アルベールがシャルフスマラクトで肩を貸すことになったが、行きの強行軍と違って余裕があったのは大きい。

 比較的安全なルートを行けば、なんら問題はなかった。

 そして、その夜。


「で、これはどういうことですの?」

「ふむ、君が夕食に誘えというからそうしたまでだが」


 テーブルに向かい合うようにして座り、広げられた料理の数々を、コテツは見る。


「ええ、ええ、言いましたわ」


 料理の内容は礼に失するようなものではない。とすれば、何が気に入らないのか。

 心中で首を傾げるコテツに、ミカエラは言った。


「なんで私、城に招かれて夕食なんてしてるんですの……?」


 恐々と問う彼女はいかにも落ち付かなさげで、もう哀れの領域である。


「それは君が満足できそうな食事を出す店を知らないからだな」


 コテツは食事は城で摂ることがほとんどだ。

 外に出ていたときはそこらで食べてくることもあるが、屋台か食堂のようなものだ。

 少なくとも、高級感とは一切無縁のものである。そしてコテツは、所謂食事は温かければ士気が上がるという世界の人間であるから、彼の主観でいうご馳走はあまりに幅が広すぎて、その主観が役に立たないことは自覚済みなのだ。


「そ、それよりも、聞きたいのですけれど」

「なんだ」


 恐る恐る、彼女は問うた。


「あなた、何者ですの?」


 そこで、コテツは気が付く。

 そういえば、名前と冒険者であることくらいしか明かしていない。


(まあ、隠すことでもないか)


 正直、名乗ろうが名乗るまいがこうなってはどちらでもいいのだが。

 名を上げることもエトランジェの仕事の一つ、コテツはそういうことにした。


「エトランジェだ」


 瞬間、ぽろり、とミカエラがその手のフォークを取り落とした。


「ふむ、それはマナーとして大丈夫なのか?」


 そして、そんなコテツの言葉を余所に。

 真っ赤になって怒り出す。


「あなたの方が数段マナー違反ですわーっ!!」

「何か問題が?」

「ありすぎでしょう! エトランジェだ。……じゃありませんわよ!! そんなぽろっと言われたら驚くに決まっていますわ!」

「なるほど、以後気をつけよう」


 真っ赤になって怒り出したかと思えば、今度は顔を青ざめさせて俯くミカエラ。


「え……、でも、エトランジェ……? 冒険中やたら失礼なことを、っていうか今も……、打ち首……?」


 そして、顔を上げてコテツへと問う。


「つかぬ事をお聞きしますが」

「なんだ」

「これが私の最後の晩餐だったり……?」

「何を言っているんだ君は」


 恐る恐る、上目遣いで効いてくるミカエラに、コテツは心中困りつつ返す。


「その、エトランジェ殿……?」

「コテツでいい」

「どうか命だけは……」

「いや、君の命を取る意図はないぞ」

「えっ、そうですの?」


 彼女は言われて、大きく溜息を吐いた。


「ふー……。もう、色々ありすぎて何がなんだか分かりませんわ……」

「そうか」

「それで、今日のところは命を取る予定はありませんのね?」

「というより、食事をして帰ってもらう以外の用事は無い」


 すると、意外そうな顔をするミカエラ。


「そ、そうですの?」

「君がどういう想定を成したのかは分からないが、他には何もないぞ」

「そうですか……、じゃあ、えっと……」


 彼女はそのまま、疲れたように背もたれへと沈み込んだ。


「とりあえず、エトランジェにコネができたということにしておきますわ……。というか他の事実から全力で全部目を逸らします」

「まあ、そうだな。これから、縁があれば共にまた依頼をこなすこともあるかもしれん」


 そんな言葉にミカエラは苦笑を一つ。


「そうなったら、一目散に逃げ出しますわ。あなたの近くにいるととんでもないトラブルに巻き込まれそうですもの」

「そうかもしれん」

「……否定してくださいまし」



















「どう? 何か分かった?」


 夜も更けた頃の格納庫。基本的には既に仕事の時間も終わり静かになっていることも多いのだが、今日に限ってはそうではなく。

 あちこちで声が聞こえる。

 そんな格納庫に足を運んだアマルベルガは、整備班の一人へと声を掛けた。


「これはこれは、アマルベルガ様、わざわざこんなところまでいらっしゃるとは。今、解析作業中ですが、芳しくありませんな」


 年季の入った声の整備班長が、アマルベルガと共にそれを見て口にする。


「そう。まあ、焦らなくていいわ。それよりこれ、腕なのよね?」


 二人が見つめているのは、そう、鋼鉄の巨人の腕。

 コテツ達が持ち帰った、遺跡の最奥に安置されていたものだ。


「はい、SHの左腕。それは確実です。ただ、中身は完全にブラックボックスでして、どうも参りますな」

「腕としてはどうなの?」

「いかな素材を使ったのかわかりやせんが、馬力と反応は群を抜いてますな。今まで見た中で、頭一つ、いや大きく図抜けているようで」

「ふぅん? そう。なら、そうね……」


 そうして、アマルベルガは、薄く笑ってあっけらかんと言い放つ。


「付けちゃいましょうか。せっかくだし」


 その言葉に、整備班長はにやりと笑って返したのだった。


「……いいんですかい?」

「彼なら使いこなすわよ、きっと。ただ、テストだけは念入りにね?」

「あいわかりやした。いい年こいて、胸が躍りますぜ」

大した長さじゃないので早めに更新しておくことにします。

これで、07終了です。


そして、そろそろストックが切れそうなので、そろそろペースが落ちます。

一応予定では、次回Interrupt挟んで転移して来たエース組にもちょっと触れたい感じです。他は大体平常通りで08に入ります。

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